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花谷 泰明 text by Hiroaki Hanaya 
[2010.12.10]
from Niigata -新潟-

「苦痛への叫び」を踊る『Nameless Hands~人形の家』

金森穣:振付・演出『Nameless Hands~人形の家』
Noism 1
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2008年の第8回朝日舞台芸術賞、同年のキリンダンスサポート受賞から2年、日本国内唯一の劇場付きレジデンシャルカンパニーであるNoismが『Nameless Hands ~人形の家』の再演を行った。振付、演出は芸術監督の金森穣、衣装はこれまでも多くのNoism作品を手がけてきた中嶋佑一によるものである。「見世物小屋の復権」というテーマを掲げ、人形と黒衣たちによる苦痛に抗する叫びのような激しい動きが展開された。

上演開始10分前に客席に通されると、人形を不気味に動かしている見世物小屋の主人を演じる宮河愛一郎の姿が見える。また舞台中央では白塗りにしたダンサーの顔が照明で照らされ浮かび上がっては消えていく。そして開演の時刻になると見世物小屋の主人が口上を述べ暗転、第一幕が始まる。

「人形の家」と題された第一幕は、操られる人形たちとそれを操る黒衣、主人の関係が描かれる。人形たちを思うがままに動かし、自らの欲望を叶えんとする主人。ひたすらに操られ、またそのことに気づいてもいない人形たち。感情もなくただの物質として存在している様子が、主人や「みゆき」という名のこれもまた主人の愛欲の対象である人間の女性と対比されながら描かれる。このような支配関係が複雑に絡み合いながら舞台は展開していく。

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第二幕、後半は「Nameless Hands」と題されている。ここからはまさに操られてきた人形たちの反逆が始まる。『ぺトルーシュカ』の音楽に合わせて、抑圧から解放されたように喜びに似た叫びをあげながら踊る人形たち。しかしまたそこに黒衣が登場し自由の時は終わりをつげる。黒衣と人形たちの争いは続き、舞台の上にはいつのまにか黒衣たちだけになる。すると黒衣は自分たちの支配の対象を探し出そうとうごめく。しかし見つからないと分かると、自分たちのなかからひとりの者を選び出す。まさに自らに奉げる生贄のようだ。そしてそこから音楽はストラヴィンスキーの『春の祭典』へと移り、クライマックスに入る。選び出され、生贄として黒衣の衣装を剥ぎ取られたなかにいるのは第一幕から主人の欲望にさらされてきた、井関佐和子演じる人形である。赤い血を浴びながら中央で苦痛に苛まれながら踊り、力尽きて倒れたところで作品は終わりを迎える。

初演から2年、大きくメンバーが変わったものの金森穣の描く世界観はさらに深化している印象を受けた。
人形と人間、黒衣と人形、そして人間と黒衣の間にある操り、操られるという関係性もより複雑になり、誰が何に操られているのか、また何を操っているのかさえ分からないその恐ろしい世界が垣間見える。また無機質な踊りから有機的で表現的なものまで様々な動きが取り入れられた舞踊も実に見ごたえがあり、ダンサー自身がひとつの身体である姿と、自ら動いている感情の主体としての人間的な姿の両方を感じることができた。
(2010年11月14日 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館スタジオB)

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撮影:村井勇
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