オペラ座ダンサー・インタビュー:オニール八菜
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Hannah O'Neill オニール八菜(プルミエール・ダンスーズ)
オペラ・バスチーユでバランシンの『真夏の夜の夢』の主役に配されていて、3月の来日ツアーにはあいにくと不参加だった八菜。オーレリー・デュポン芸術監督による選抜ダンサーの一人として、7月後半東京で開催される「オペラ座&ロイヤル 夢の共演<バレエ・スプリーム>」に参加する彼女の舞台は、日本のバレエ・ファンに大いに待たれているに違いない。
7月後半の来日前、八菜はオペラ座の今シーズン最後の公演『ラ・シルフィード』で、エフィー役とラ・シルフィードを初役で踊る。この作品を復元したピエール・ラコットがダンサーとして高く評価している彼女をどのように指導するのか、楽しみである。4月〜5月にはウイリアム・フォーサイスの『ヘルマン・シュメルマン』がオペラ・ガルニエであり、さらに地方都市のポワティエでのツアーにも参加。5月に入ると、バランシンの『ラ・ヴァルス』の舞台も始まって・・・と、ソリストとしての経験を着々と積んでいる彼女だ。
『真夏の夜の夢』photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
Q:6月13日からオペラ・ガルニエで始まる「ベルトー/ブーシェ/ポール/ヴァラストロ」にも配役されているのですね。
A:はい。私は4名のダンサー・コレグラファーの中のセバスチャン・ベルトーの作品『ルネッサンス』を踊ります。創作は3週間くらい前に始まって、徐々に出来上がってきているところです。
Q:こうした創作に参加するのは初めてですか。
A:セバスチャンとは2年ぐらい前、小品の創作の仕事を一緒にしています。『パーカーションとダンス』といったか、一度だけの公演があってその時に踊りました。今回の創作は30分くらいの長さで、けっこうクラシック色が強くって・・・ネオクラシック作品ですね。
Q:衣装デザインがバルマンのオリヴィエ・ルスタンだということも、話題になっています。
A:そうなんですよ。この前フィッティングがありました。バレエのコスチュームだけど、いかにもこのブランドらしいデザイン。ビーズがびっしり !! きらきらしていて、すごい素敵なんですけど、これで踊ったらビーズが取れちゃうんじゃないかなあ、って感じ。だから、このフィッティングの後でクチュールのアトリエがテクニックを変えて準備しているようです。ビーズはレオタードのような身体にぴったりしたボディに縫い付けてあるので、重みがずっしり、という感じでなかったですね。
Q:この創作は、誰がパートナーですか。
A:私はマチアスと一緒に踊ります。彼とは久しぶりですね。まだ最初から通しではやってないので、どんな作品になるのかまだ見えていません。でも、音楽はとってもきれいな曲で、好きなタイプなので踊りやすいです。
Q:自分の意見が採用されることがダンサーにとって創作参加の喜びだと、よく聞きます。
A:はい。そういう面、ありますね。とくにパ・ド・ドゥをやってるときとか・・。セバスチャンはとてもオープンで、「ダンサーが一番やりやすいようにしてほしいから、やりづらいところがあったら指摘して」、と言ってくれるので、私とマチアスからもいろいろと・・・。だから参加しているっていう意識が確かに感じられますね。2年前の創作のときには、まだ今ほどには私から何かをセバスチャンに言う、ということはなかったですけど。
『真夏の夜の夢』photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
Q:3月にバランシンの『真夏の夜の夢』、そして5月に再びバランシン作品に配役されましたね。
A:はい、『ラ・ヴァルス』ですね。このバレエも衣装がけっこうきれいでしたね。
この作品は技術的にそれほど難しくなく、長さもそれほどでなくって・・・それに音楽がすごく美しいとかそういう感じがなかったので、バレエ的にちょっとどうなのかなあ・・とリハーサルの時には思ってたのだけど、でも本番で衣装をつけてオーケストラの音楽で踊ってみたら、けっこう綺麗な作品だと感じられました。
Q:この作品の指揮者は若手のマキシム・パスカルでした。
A:あ、彼、すごいですね。自分のパートを踊り終わって舞台の袖にひっこんだときに、画面でみたんですが、ああ、すごいことしてる !! って(笑)。この指揮者、きっとダンサーよりも疲れてるって思ってしまいました。彼は以前ミルピエの『クリア、ラウド、ブライト、フォワード』を振っていますね。私は怪我で降板中で、この舞台に出られなかったから、今回、彼の指揮で初めて踊ったんです。舞台で踊ってるときはそれほど彼を見るわけじゃないけれど、ときどきヒュって目の端に彼の動きが入ってきて・・・でも、そのおかげで、指揮者、オーケストラから、強いエネルギーが感じられました。
『ラ・ヴァルス』photo Laurent Philippe/ Opéra national de Paris
Q:衣装のせいか、『ラ・ヴァルス』ではいつもより大人っぽく見えました。
A:あ、そうですか。リハーサル指導に来たバレエ・マスターの女性によると、私が踊った第五と第六のパートは大人の女性で・・というようにいわれたので、そのようにイメージしたのです。
Q:マルレーヌ・イヨネスコの映画『パリ・オペラ座〜夢を継ぐ者たち』(7月22日より、ル・シネマで公開)では、『ラ・バヤデール』のリハーサル・シーンであなたを見ることができます。今に比べると、少し子供っぽい印象を受けました。
A:2015年末の撮影でした。あれから上達してるといいなあ、って思います(笑)。『ラ・バヤデール』以降いろいろな作品を踊っていますからね。確かにあの頃は若かったかも・・・。
Q:映画の中でフローランス・クレールから「プルミーエル・ダンスーズは大人でなければ」というように言われているシーンがありましたね。
A:そうですね。ブルミエール・ダンスーズはもう子供じゃない・・・そういう考え方をすると、自分の踊り方も変わってくるし、それにコール・ド・バレエではなくドゥミ・ソリスト、ソリストとして踊るときは、そのように工夫もできる、そういった余白がダンサーに残されています。
Q:この作品の前は、フォーサイスの『ヘルマン・シュメルマン』を踊りましたね。
A:これも初めての作品で 、パ・ド・ドゥとクインテットの2パートを踊りました。クインテットも結構難しくて、かなり大変だったんですが、2回、3回踊るうちに慣れてきて楽しめました。パ・ド・ドゥは緊張しました。でも、とても素敵な振付で、それにヒューゴ(注:彼女はユーゴを英語的にヒューゴと呼んでいる)とも踊れたし、すごい楽しかった・・・。
Q:フォーサイスの作品は過去に何を踊っていますか。
A:初めての作品は『パ・パーツ』で、去年『アプロクシメイト・ソナタ』を。これが3作目です。フォーサイスは時代によって少し違ってはいても、スタイルのベースはしっかりありますね。今回の『ヘルマン・シュメルマン』はいつもよりというか、けっこうクラシックで・・・リハーサル・コーチのノア・ギルダーさんは、すごくよく教えてくれました。最初はまずクラシック・バレエ的に教えてくれ、そこからひっぱっていってくれたんです。
『ヘルマン・シュメルマン』
photo Ann Ray/ Opéra national de Paris
特にパ・ド・ドゥは最初のうちは難しくて、「えええっ」という感じがあったのですけど・・。4カップルの配役があって、まずみんなで同じ振付を習い、それから1組づつで練習するようになったときにノアがいろいろとカップルによって変えたり工夫してくれたんです。最後に4カップルの踊りをみたら、同じステップだってわかるのだけど、それぞれにすごく違いがあっておもしろかったですね、これ。
Q:ユーゴと組むことが多いようですね。
A:いえ、そうでも・・・。ガラでは何度も彼と組んでいたけれど、オペラ座では、今回の『ヘルマン・シュメルマン』が初めてだったんですよ。
Q:どういった点で彼は良いパートナーなのですか。
『ヘルマン・シュメルマン』
photo Ann Ray/ Opéra national de Paris
A:身体的に彼も私も背が高いので・・・。だから、そういう面でとても踊りやすいんです。それに彼はすごく仲がいい友だちなので、舞台にでると二人で踊ってることがしっかりと感じられ、やりやすくて、楽しいですね。でも親しすぎるので逆にリハーサルで喧嘩になってしまうこともあって・・遠慮ゼロの関係なんです。やりやすくもあり、やりにくくもあり、ですね。
Q:日本での「バレエ・スプリーム」でも、パートナーはユーゴですね。
A:はい、『エスメラルダ』と『グラン・パ・クラシック』を踊ります。これらは、ガラで過去に彼と踊っている作品なんです。二人に似合う作品だし、舞台映えもするし、踊るほどに上手くなっていっています。そのあとのスターダンサーズ・バレエ団での公演もヒューゴといっしょですけど、まだ何を踊るかはきまっていません。
Q:来日前に『ラ・シルフィード』がありますね。エフィーとシルフィードの二つの役を踊る良い面、悪い面は何でしょうか。
A:シルフィードを踊るのは1度だけで、それも最後の公演なんですね。その前にエフィーを3回踊れるので、シルフィードを踊ることから考えると、先にエフィー役を踊ることによって作品に慣れることができて、ストーリーもよく理解できるようになって・・・というのは良い面ですね。悪い面は・・・リハーサルが多いことでしょうか。まだ、エフィー役を研究するところにいたってないのですけど、彼女は実在の女の子で、シルフィードは妖精。こうした二役の違いを勉強できるのは、楽しみです。
Q:任命の噂もあるようですが。
A:いえ・・・まだだと思います。今回は絶対にないと思っています。つい最近3人が新たに任命されたばかりなので、そういう感じはないですね。あと何年かしたら・・・頑張らないと。
Q:近しいダンサーが任命されたことで、エトワールというタイトルが身近に感じられるということはありますか。
A:日常の仕事の場で、なんか変な感じがしますね、あのジェルマンとヒューゴがもうエトワール ???というような感じ。だって、彼らに接していて、任命後も何もかわってはないじゃないですか。でも舞台を見ると、ああエトワールだなあって・・。
『ラ・ヴァルス』photo Laurent Philippe/ Opéra national de Paris
Q:来シーズンのプログラムで踊りたい作品は何でしょうか。
A:まだ何に配役されるかわからないのですが、どうしても踊りたいというのは、そうですね、『ジュエルズ』。これは踊りたいですね。7月のニューヨークで踊るのは、「エメラルド」のパ・ド・トロワです。9月のオペラ座での公演では、「ダイヤモンド」がすごく好きなので、せめて代役としてリハーサルに参加できるだけでもいい、って思っています。年末の『ドン・キホーテ』は何かに配役されるとは思っています。キトリ役、踊ってみたいですね。日本で踊った『ドン・キホーテ』はファブリス・ブルジョワ版だったので、ぜひ、難しいヌレエフ版のキトリをいつか。
Q:他には何がありますか。
A :『オネーギン』 !!! タチアーナ役、踊りたいです。もちろんエトワールじゃないから無理だと思いますが、踊れたら、と気持ちとしては強く思っています。好きな作品なので、これがプログラムにあるだけでうれしい。妹のオルガ役でも踊れたらいいですね。
Q:来季の最後の公演は『リーズの結婚』です。こうした役柄はタイプでしょうか。
A:そうですね・・・私、周りの人からは大人っぽいっていわれるんですけど、けっこう "やんちゃ" なところがあるので・・。リーズに配役されたら、それもうれしいですね。
Q:絶対にいつか踊りたいとうのは、今でも『ジゼル』ですか。
A:はい、それは変わっていません。でもこの先に公演があるようなことはまったく耳にしませんね。
Q:オーレリー芸術監督とはよく話しをしたりするのですか。
A:彼女とは、あまり会話する機会はないです・・・エトワールじゃないせいかもしれません。過去にコーチしてもらったことはあります。ヴァルナのコンクールに参加するときに、私たちからお願いしてコーチをしてもらいました。今でもリハーサルに彼女が来たときは、アドヴァイスなどしてくれます。「バレエ・スプリーム」のメンバーに選ばれたことについては、びっくりしたけれど、うれしかったですね。
Q:日本のバレエファンはこの夏が楽しみですが、その後、新シーズン開幕前にバカンスはとれそうですか。
A:はい、2週間くらいありますね。イタリアをあちこち回ってみようかな、と考えています。
ワールドレポート/パリ
- [ライター]
- 大村真理子(在パリ・フリーエディター)