IMAXによるパリ・オペラ座バレエ団『白鳥の湖』はどのように制作され、どのように観られたか
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ワールドレポート/パリ
インタビュー・構成=三光洋
© Natalia Voronova
IMAXによる初めてのバレエ映画『白鳥の湖』が、パリ市郊外のパテ映画会社で試写された。この映画について、制作したパテ映画社長と、この日、試写を見たフランスの有力ジャーナリスト二人に、素直な感想ををうかがった。
「この『白鳥の湖』はパテ映画にとって破天荒なチャレンジでした。パリ・オペラ座に「大胆な新たな挑戦をしませんか。」と声をかけたところ、快く承諾していただき、パートナーとしてプロジェクトを推進しました。
『白鳥の湖』を世界で初めてIMAX用に撮影する企画です。IMAX専用のカメラだけを使用しましたが、これは現在使用されている最良の機種です。フォーマットを尊重して編集した結果を皆様にご覧いただけることになりました。精密な音響は明瞭で、映像は今までにはないくっきりとしたものに仕上がっています。バレエの舞台を今までとは異なった方法で撮影しようとしました。クレーンやI CAMを使ったクローズアップ撮影が可能なように、観客なしの舞台で2回収録し、観客の入った公演でも2回撮影しました。
『白鳥の湖』は数あるバレエ作品の中にあって最も知られた作品です。観客層を広げるために、最先端のテクノロジーを動員することにしたのです。今までのバレエ公演の撮影とは一線を画した斬新な映像を目指しました。IMAXはこれまでハリウッドのブロックバスターやヒーローの活躍する映画、ドキュメンタリーに特化してきましたが、IMAXのピュアな音と画像はクラシック・バレエというスペクタクルを映すのにも有効です。
パリ・オペラ座バレエ団の公演が世界中でこれほど広範囲にわたって公開されることは、今までに一度もありませんでした。11月8日からアメリカの230のIMAXシアター、日本では東宝が保有するIMAXシアターで公開されます。来年には中国、インドでも上映されます。世界の千を超える映画館で同時にパリ・オペラ座バレエ団の『白鳥の湖』が上演されます。フランスでは、IMAX映写は24会場(11月8日から12日)、通常の映画館は二百館で11月10日に上映されます。
チェリー・フォンテーヌ(パテ映画会社社長)
「IMAXの映像は、通常の舞台公演の観客には見ることができない角度からスペクタクルを見ることができるのが、第一の利点です。クロースアップにより、ダンサーの顔の表情、指の動きやポワント、パ を間近で手に取るように見られます。また、踊っていないダンサーには目が行かないのが普通ですが、この映画では周囲にいるダンサーの演技もカメラがとらえています。
衣裳のディテールが見られるのも特徴です。オペラ座のアトリエの縫い子さんたちの手作業によって、一人一人のダンサーの体型に合わせて作られた衣裳は精巧で、細密な芸術作品になっています。
パテ映画社とオペラ座は協力して、バレエの内側に入り込むことを目指したわけですが、私はそれに成功していると思います。観客がバレエの中核をはっきりと目にすることができています。こういう形でバレエを見ることは、バスチーユ・オペラやガルニエ宮の座席からではできません。女性ダンサーのポワントが床に触れる音もはっきり聞こえ、バレエで重要なディテールにカメラが迫っている点でこの映画は貴重なものとなっています。
何よりも垂直方向からのショットには驚嘆しました。上方から俯瞰撮影されたコール・ド・バレエの作業は金銀細工にも比肩するものです。ミリメートル単位でぴたりと位置の定まったダンサーたちが完璧な円を描いているのには目を見張りました。白鳥たちの羽根の動きを表現している腕の動きがいかに緻密に表現されているかもはっきりと見えます。オペラ座のコール・ド・バレエの卓越ぶりを示しています。
セウン・パクはロマンティックなイメージを持ったエトワールで、その優美さはオデットとオディールにピッタリです。映画によって、テクニックの素晴らしさだけでなく、ダンサーがいかに人物になりきっているかがわかります。ポール・マルクやパブロ・レガサの表情からは彼らの人物への理解が伝わってきます。ダンサーたちは単にテクニックを駆使して踊るだけでなく、演技しているのがよくわかります。バレエが表現芸術であることを改めて確認できました。
1984年12月20日にプルミエが行われたヌレエフの振付は最近のものではありませんが、ダンサーへの要求が高く、パリ・オペラ座バレエ団の良さが明瞭に現れた作品です。垂直方向からのショットを見ると、ヌレエフがどれほどダンサーたちの動きを彫琢して驚くべき完成度のある舞台を作っているかが、自然にわかります。白鳥たちが水を切って羽ばたいているのが生き生きと伝わってきます。クラシック・ダンサーのために考案された模範的な振付で、バレエのコードがすべて含まれているので、初めてクラシック・バレエを見る人にとっても最良の一歩となるでしょう。私たちがクラシック・バレエ作品に期待するすべてがあると言っても過言ではありません」
フローランス・ソーグ(写真週刊誌「パリ・マッチ」のリポーター)
「この映画を見たことは忘れ難い経験でした。オペラ座で観るよりも遥かによく舞台を観られました。非常に興味深いアプローチです。映画監督が演劇的な視点で撮影していて、作品のドラマに的を絞り、主要人物に光を当てています。私が残念に思えたのはコール・ド・バレエの部分です。抒情的なチャイコフスキーの音楽と動きで私たちが魅了される白鳥の場面は素晴らしいのですが、宮廷での踊り、キャラクター・ダンスは上手に踊ってはいるものの、何のためにこの踊りがあるのかが伝わってきません。映画はダンサーをクロースアップして映し、作品のインティメートな側面を強調して撮影されています。
IMAXは素晴らしいメソッドでバレエの撮影に成功しているので、これからもっと広がって行くと思います。それだけに、主役たちだけでなく、コール・ド・バレエのダンサーの一人一人が、何のための踊りを踊っているのか、ということを考えて舞台に立つことが必要です。ただ踊るのではなく、表現することです。バレエにおける演劇的な側面を考える必要があるのです。
これに対して、主要人物たちに扮したダンサーたちはみんな素晴らしく、人物になり切っています。人物になりきれれば、コール・ド・バレエのダンサーたちも一回り大きくなった演技を見せることができるでしょう。
アリアーヌ・バヴリエ(日刊紙「フィガロ」のバレエ評論家)
『パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX』
2024年11月8日(金)より7日間限定公開!
© Natalia Voronova 配給:東宝東和
https://tohotowa.co.jp/parisopera/movie/swanlake/
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