パリ・オペラ座ダンサー・インタビュー:ロレンツォ・レッリ

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

Lorenzo Lelli ロレンツォ・レッリ(コリフェ)

前シーズンにパリ・オペラ座バレエ団に入団したロッレンツォ・レッリ。イタリア南部のアブルッツォ州に生まれた彼は、ロベルト・ボッレやアレクサンドラ・フェリたちが学んだミラノのスカラ座バレエ学校の出身だ。パリ・オペラ座のバレエ学校では全く学んでいない。昨年11月のコンクールの結果、今年1月からは早くもコリフェ としてステージに立っている。2月のパリ・オペラ座来日ツアーに参加し、『白鳥の湖』ではコール・ド・バレエでワルツ、マズルカを踊ったので、彼に注目したバレエファンもいるのではないだろうか。身長187cmで体のラインも美しい彼。ダンスはスケールの大きさ、正確なステップ、優美さが魅力である。2003年7月4日生まれの21歳の彼は、入団初年にして『ジゼル』で''収穫のパ・ド・ドゥ''に抜擢された。将来が楽しみな若手ダンサーの一人である。11月16日、彼にとって2度目となる11月のコンクールが行われる。結果はともあれ、日頃から稽古熱心な彼は見応えのあるパフォーマンスを見せてくれるに違いない。

Q:パリ・オペラ座では入団後最初の何ヶ月かは見習いなので、11月のコンコールには参加しないのが一般的です。なぜコンクールに参加できたのでしょうか。

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Photo Julien Benhamou/ OnP

A:入団前のシーズン2022/23に1年間契約団員だったので、シーズン2023/24に見習い期間なしに正式団員となったからです。契約団員時代の公演は2022年の年末公演『白鳥の湖』が最初で、その後ジョージ・バランシンの『バレエ・インペリアル』、そしてウェイン・マクレガーの『ダンテ・プロジェクト』に配役されました。

Q:2021年に入団してすぐにコリフェ に上がったニコラ・ディ・ヴィコと同じように、あなたも入団した年のコンクールに参加してコリフェ に上がっています。11月10日の男子の部コンクールに知らない名前があり、そのダンサーが課題曲も自由曲も誰も文句のつけようのない素晴らしいパフォーマンスを見せたことに驚かされました。その結果カドリーユからコリフェへの昇級者6名のうち一位で昇級。この結果についてどんな気持ちでしたか。

A:もちろん、とても幸せでした。でも、少しばかり非現実的な感じもあった(笑)。

Q:自由曲に選んだセルジュ・リファールの『白の組曲/マズルカ』はとても踊りなれているという印象がありました。踊り終えた時、自分のパフォーマンスにどんな感触がありましたか。

A:はい良い感じでしたね。でも入団したばかりなので、どうだろうか・・って。昇級という結果となって、とても満足しました。『マズルカ』はスカラ座のバレエ学校時代に一度踊ったことがあるんです。

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コンクール photo Svetlana Loboff/ OnP

Q:イタリア出身のあなたはいつ、どのようにバレエを始めたのですか。

A:2つ年上の兄が空手を習っていて、僕が4~5歳の頃だったか、地元の劇場でデモンストレーションがありました。その前に、ちょっとしたクラシック・ダンスのデモンストレーションが行われ、それを見てわぁー! となった僕は音楽をかけて踊りの真似事をするようになったんです。それで両親が、ダンス教室に通ってみたら? と。おばの知り合いにバレエ教師がいたので、6歳の時にその人の学校に通うことになりました。僕が生まれたのはアテッサという町で、アブルツォ州の山側と海側の中間に位置しています。そこから車で20分くらいのペラーノという街に学校があって、レッスンには両親やおばが車で往復しれくれていました。10歳になった頃、学校から僕にはもう教えることがないからミラノのスカラ座を試すようにと言われたので、オーディションを受けたんです。

Q:その頃のあなたのアイドルはロベルト・ボッレでしたか。

A:(笑)そうですね。彼のことは雑誌やテレビでもよく見る機会があったし・・・。

Q:パリ・オペラ座のことは聞いたことがありましたか。

A:ペラーノ時代は知らなかったけれど、11歳からスカラ座のバレエ学校に通う間にパリ・オペラ座についても知りました。パリ・オペラ座のナンテールと違ってスカラ座では学校とは別の建物だけど近くに寮があり、そこで8年過ごしたんです。僕はイタリアの南の出身なので、家族の結びつきがとても強いんです。だから寮の最初は家族と離れてることが辛くて、毎晩泣いてました。でもそのうち友達もできたので・・。学年の終わりの公演では照明を浴びてステージ上で踊って・・・これがとても楽しかった。

Q:学校時代の目標はボッレのようなダンサーになることでしたか。

A:はい。でも、僕の学校で5年間教えてくれた先生はフランス人でオペラ座出身だったんです。スカラ座の学校はワガノワ・メソッドだけど、彼は僕たちにフランスのテクニックを指導してくれました。フレンチ・スタイルはとても気に入りました。僕や他の生徒たちにパリ・オペラ座を試すようにと勧めたのが、彼なんです。

Q:いつダンスを職業にしようと思いましたか。

A: ...... おそらくスカラ座バレエ学校の最初の年だと思う。それ以前はホビーというかスポーツというか、放課後に習うという程度のバレエだったけれど。

Q:2022年に受けた最初の外部入団試験の結果は5位。入団はできず、1年契約を得てパリ暮らしを始めたのですね。

A:契約の提案に最初はイタリアの家族のことを思ったけれど、でもこれは素晴らしい機会だからパリでやろう!! って。両親も引き止めることはせず、僕の選択を喜んでくれました。フランス語が全然わからないので最初はちょっと苦戦しました。

Q:契約時代の最初の公演『白鳥の湖』では代役として舞台に立つことができましたか。

A:この時の公演ではマズルカで舞台に立っていました。そして1月1日の最後の公演のことなのでよく覚えてるのだけど、第一幕のワルツの後でチャルダッシュを踊る誰かが背中を痛めてしまったんです。それで ''ロレンツォ、彼の代わりに舞台で踊れるか?'' と聞かれたので、ええっ!!! と思ったけどウイと答えました。すぐにメークだ衣装だって僕の周りで次々事が運ばれて・・・ストレスというより、その時はもうアドレナリンが全身にいっぱいとなっていました。少しは間違ったかもしれないし、間違ってないかもしれない。とにかくうまく行きました。『白鳥の湖』のコール・ド・バレエの仕事について代役の僕たちはどのパートでも踊れるように稽古をしてあるとはいえ、突然どの部分を踊ることになるのだろうかって思いながら毎晩控えてるのはけっこうなストレスでした。

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収穫のパ・ド・ドゥ Photo Julien Benhamou/ OnP

Q:その1年半後、2023年5月から6月の『ジゼル』ではエリザベス・パティントン・正子をパートナーに ''収穫のパ・ド・ドゥ'' に抜擢され、あなたのヴァリエーションには観客席から大きな拍手と歓声が上がりました。

A:これは信じられない体験だった。夢のようでワォ! という感じ。最初は配役されてなかったんです。でも『リーズの結婚』の後にミラノにゆく途中で、オペラ座からの『ジゼル』の配役の改定版が届いて・・・わあ! と。うれしかったですね。でもこれ、技術的にはとてもハードなんですよ。最初は自分の体に取り込むのが難しくて、稽古を何度もなんども繰り返して。このパ・ド・ドゥのテクニック、とりわけ脚の使い方は僕のような長身向きではないんです。『眠れる森の美女』のブルー・バードもいつか踊ってみたいけれど、これもどちらかというと小柄なダンサー向きで・・・。

Q:今は『マイヤリング』のリハーサルが始まっています。何を踊りますか。

A:4人の将校の一人を踊ります。そしてコール・ド・バレエがあって。今、『パキータ』のリハーサルも始まってるんです。12人の村人の一人、そして2人のスペイン人・・・そして代役でパ・ド・トロワ。

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Photo Julien Benhamou/ OnP

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Photo Julien Benhamou/ OnP

Q:パリ・オペラ座でクラシック作品を踊りたいあなたにとって、前シーズン最後の7月20日に、パリ・オリンピック・カルチャーの一環としてオペラ・ガルニエで2公演あったサイード・レルー振付の『Apaches(アパッチ)』はどのような体験でしたか。ヒップホップのダンサー40名と一緒に踊ったのですね。

A:オペラ座のダンサーは僕を含めて35名くらいいたかな。みんなこのグループのスタイルに入り込むように努力しました。僕にとってとりわけ大変だったのはインプロヴィゼーション。最初、何をしよう?.....わからない、って感じになってしまって。僕はとてもシャイだし、それに音楽がテクノっぽくてそれに乗せて即興をするというのがとても難しかった。でもコンフォート・ゾーンを抜け出すということになって、良い体験ができたと言えます。

Q:オペラ座でいつか踊れたらと思っている役は何ですか。

A:ロメオ!! 物語が素晴らしく、バルコニーのパ・ド・ドゥも素晴らしい。音楽は信じられないほど美しく、聴いただけで鳥肌が立つほど。ジュリエット役ですか? まだ誰というようなダンサーはいません。何よりもまずロメオ役が踊れる時が来るのを祈るばかり。クラシック作品でなければ、ネオ・クラシックのクリエーションとかも。フォーサイスが踊れたらって思っています。

Q:『マイヤリング』の皇太子ルドルフのような役柄に興味はありますか。

A:ホワイ・ノット! でもさっきも言ったように僕はシャイで静かなタイプなので・・・・むしろ、そう『マノン』のデ・グリューのような役でしょうか。あ、『眠れる森の美女』のデジレ王子も踊りたい役の1つです。

Q:来年の公演で代役となって稽古できるといいですね。でも、まずその前に11月のコンクールがあります。自由曲のアイディアはもうありますか。

A:『ラ・シルフィード』の第三幕のヴァリアッション、あるいはハロルド・ランダーの『エチュード』のマズルカかなあと考えています。前回はリファールの『白の組曲』のマズルカだったので、また別の面が見せられます。でも、まだ課題曲が発表されてないので、それによって決めようと思います。

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2023年入団者のグループ写真(ロレンツォは後列の右側)Photo OnP

Q:2月のパリ・オペラ座ツアーで初めての来日したのですか。

A:はい。朝晩二回の公演があった日もあって、公演期間中は大変でした。でも一番大変なのは女性のコール・ド・バレエですよね。東京では同期入団のエリザベット(・パティントン・正子)が東京を案内してくれたんです。日本人はとても礼儀正しくて、几帳面という印象を持ちました。観客の僕たちに対する応対はとても温かい。公演後の楽屋口の行列を初めて見た時はびっくりしました。公演後だけでなく公演の前にも楽屋の出入り口でギフトを持って待ってる人もいて・・・僕が好きな抹茶のキットカットとか。こうした優しい心遣いは心に響きます。僕はこのツアーでは『白鳥の湖』だけだったけれど、『マノン』に残るダンサーたちには3日の休日がありました。それで僕もすぐに帰らず、『マノン』で踊る友達と富士山を見に行ったんですよ。伝統的な日本料理のレストランで食事をしたり・・・和食大好きです。

Q:あなたはイタリア人。アレッシオ・カルボーネのグループ『パリ・オペラ座のイタリア人』のガラには参加していますか。

A:はい、6月にフランス国内のカルカソンヌで公演がありました。クララ・ムセーニュと『海賊』を踊り、それからコンクールで踊ったリファールの『白の組曲/マズルカ』も!

Q:この他のガラに参加することもありますか。

A:ジェニファー・ヴィゾッキとイヴォン・ドゥモルの「Incidence choregraphique」のガラでは、ビアンカ(・スクダモーア)と『くるみ割り人形』のパ・ド・ドゥを踊りました。ルナ(・ペーニュ)と『海賊』を踊ったこともあります。またサミュエル・ムレーズのガラ「3eme étage」に参加したこともあります。ガラでは踊りたい演目というより指定された作品を踊ることがほとんどだけれど、それによってパ・ド・ドゥの稽古ができ、ステージで踊る機会にもなる。それに例えば『海賊』などでは、その役作りとか芸術面での解釈についても考えるようになるのでいいことです。

Q:自由な時間がある時は何をしますか。

A:なんだろう・・・ウィークデーはリハーサルやジムで忙しい。土曜のレッスンをとることがあって、その後は体の調子によるけれどジムをして、それから仲間たちとカフェへ行ったり。そうでなければ家に帰って掃除をする(笑)。

Q:食生活には気をつけていますか。

A:気をつけてるけど、もし目の前にチョコレートバーがあれば食べてしまう(笑)。パスタは確かに好きだけれど、ディナーではなくランチに食べるようにしています。夜はチキン・エスカロップとかを自分で作ったり。オペラ座にはたくさんのイタリア人がいるので、彼らと美味しいピザ屋を見つけたんです。ここはイタリア人経営なので、店内ではイタリア語が飛び交っています。

Q:オペラ座内でもイタリア人ダンサーとはイタリア語で話すのですね。

A:はい、でも友達のグループの中にはフランス人もいます。だから僕らがイタリア語を教えるようにしていて、僕たちの方はそうしてフランス語が学べるんです。

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