エトワールたちとともにマッキントッシュ、サン=マルタン、ルガサ、デュボスク、ムーセーニュなど次を担う世代も注目を集めた、パリ・オペラ座『うたかたの恋』
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"Mayerling" Kenneth MacMillan
『うたかたの恋』ケネス・マクミラン:振付
ケネス・マクミラン振付『うたかたの恋(マイヤリング)』が10月29日から11月16日までガルニエ宮で上演された。2022年10月25日にパリ・オペラ座バレエ団のレパートリーに入っている。
オーストリア皇太子のルドルフと17歳の男爵令嬢マリー・ヴェッツェラが1889年にウイーン郊外の狩小屋マイヤリングで情死した事件が題材だ。今回は悲劇のカップルを六組のダンサーたちが踊った。ユゴー・マルシャン(4回、11月8日以外のマリーはドロテ・ジルベール)、マチュー・ガニオ(4回、マリーは当初予定されていたリュドミラ・パリエロが負傷でレオノール・ボーラック。ボーラックは11月8日に負傷したドロテに代わって録画された公演も踊った。)、ジェルマン・ルーヴェ(3回、マリーはブルーエン・バッティストーニ)、ポール・マルク(2回、マリーはホアン・カン)、フロラン・メラック(2回、マリーはオニール八菜。そのうち一回は貸切公演)の五人がルドルフを踊った。
このうち、マチュー・ガニオ(レオノール・ボーラック)、ユゴー・マルシャン(ドロテ・ジルベール)、ジェルマン・ルーヴェ(ブルーエン・バッティストーニ)の三組を見た。
ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ユゴー・マルシャン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ユゴー・マルシャンとドロテ・ジルベールの組み合わせは11月6日に見た。前回も同じ組み合わせで踊っているが、ユゴー・マルシャンはリフトの多い難役において複数のパートナーを相手にしたパ・ド・ドゥやソロのヴァリエーションでスピード感のあるダイナミックな踊りを見せてくれた。パートナーに対する配慮も行き届いていて、安定感があった。ヒロイン役のドロテ・ジルベールはいつもながら安定した抜群の技術を見せていた。オペラ座バレエ団の女性エトワールで飛び抜けた人気を博しているドロテも2025年の9月25日には42歳の誕生日を迎えることもあってか、前回に比べるとやや疲れが感じられた。この印象は間違っていなかったようで、録画が予定されていた11月8日の公演は降板となり、レオノール・ボーラックが急遽代役を務めた
11月13日はジェルマン・ルーヴェとブルーエン・バティストーニだった。気品のある貴公子にふさわしいジェルマン・ルーヴェと若々しいブルーエン・バティストーニの二人は立っているだけで絵になるカップルだった。それだけに、次回は広大なハプスブルク帝国の世継ぎという重圧に苦しみ、麻薬や放蕩に救いを求めたルドルフ大公の内面の葛藤、皇太子の心の闇をすぐに見抜き、その狂気の世界を共にするマリー・ヴェッツェラ男爵令嬢という人物造型にもう一歩踏み込んでもらいたいものだ。
ブルーエン・バティストーニ、ジェルマン・ルーヴェ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ブルーエン・バティストーニ、ジェルマン・ルーヴェ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
結局、三組の中で最も印象が強かったのは10月30日のマチュー・ガニオとレオノール・ボーラックだった。当初マリー役に決まっていたリュドミラ・パリエロの怪我が治らなかったためにレオノール・ボーラックに白羽の矢が立ったのである。パリエロは2012年3月にガムザッティを踊ってエトワールに任命されて以来、10年以上にわたって優れた演技力でパリのバレエファンを魅了してきた。今年10月15日に42歳を迎えるため、来シーズン初めにアデュー公演となる見通しだ。降板は残念な限りだったが、代役のボーラックが持ち味を出した。バンジャマン・ミルピエに才能を見出された人だが、テクニックが秀逸というわけではない。彼女の持ち味は物語性のある作品において、自分の扮した人物に存在感を与えられることにある。今回も、まだ残る幼さと自分の恋した男性の苦悩を見抜く成熟さの両面を視線やさりげない仕草で巧みにだし、実話では17歳のヒロインに固有の輪郭を与えることに成功していた。
マチュー・ガニオ(1984年3月16日生まれ)は2025年3月1日に定年よりも早くジョン・クランコ振付『オネーギン』で引退することが決まっている。2004年5月に『ドン・キホーテ』のバジル役を踊って弱冠20歳でプルミエール・ダンスールを飛び越えてエトワールになり、優雅な姿とパートナーへの心遣いで高い人気を保ち続けた。当夜はマルセイユから駆けつけた元エトワールの母親ドミニクが見守る中で全力を振り絞った。自分よりもはるかに若いマリーに対して見せたすがりつくような視線、頭蓋骨を手にした場面での底の知れない絶望は観客を釘付けにした。
マチュー・ガニオ、エロイーズ・ブルドン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
マチュー・ガニオ、レオノール・ボーラック
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
マチュー・ガニオ、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロが間もなく次々に舞台を去ってゆく今、次の世代の奮起が期待されている。今度のシリーズで皇太子の愛人である女優ミッツィ・カスパーを艶やかに演じるとともに、エリザベート皇妃も踊ったロクサーヌ・ストヤノフが12月28日に『パキータ』でエトワールに任命されている。皇太子にかえりみられない不幸なステファニー皇女役で評価されたイネス・マッキントッシュとシルヴィア・サン=マルタン、皇太子のお付きブラットフィッシュをしなやかな身ごなしで演じたパブロ・ルガサ、マリー・ラリッシュ伯爵夫人役のナイス・デュボスクとエロイーズ・ブルドン(エリザベート皇妃としも出演)、若さあふれるミッツィ・カスパーのクララ・ムーセーニュといった中堅や若手が世代交代後のエトワールを目指している姿も見逃せなかった。
(2024年10月30日、11月6日、13日 ガルニエ宮)
ジェルマン・ルーヴェ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
イネス・マッキントッシュ、ジェルマン・ルーヴェ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ジェルマン・ルーヴェ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ホアン・カン、ポール・マルク
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ホアン・カン。ポール・マルク
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
マチュー・ガニオ、レオノール・ボーラック
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ホアン・カン、ポール・マルク
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
マチュー・ガニオ、エロイーズ・ブルドン、イレーヌ・マッキントッシュ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
レオノール・ボーラック、ナイス・デュボスク
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
エロイーズ・ブルドン、ナイス・デュボスク
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
パブロ・ルガサ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
シルヴィア・サン・マルタン、ユゴー・マルシャン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
シルヴィア・サン・マルタン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ドロテ・ジルベール
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ドロテ・ジルベール
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ユゴー・マルシャン、オニール 八菜
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
エロイーズ・ブルドン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
ロクサーヌ・ストヤノフ、アントニオ・コンフォルティ、ロレンゾ・レッリ
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
シルヴィア・サン・マルタン、ユゴー・マルシャン
© Opéra national de Paris/ Maria Helena Buckley
「マイヤリング」 3幕バレエ
振付:ケネス・マクミラン
振付再現:カール・バーネット
音楽:フランツ・リスト(アダプテーション&オーケストレーション ジョン・ランシュヴェリ)
リブレット:ギリアン・フリーマン
装置・衣装:ニコラス・ジョルジアディス
照明:ジョン・B・リード
招聘オペラ歌手:ジュリエット・メィ
マーティン・イェイツ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
配役(10月30日 11月6日、13日)
ルドルフ皇太子:マチュー・ガニオ/ユゴー・マルシャン/ジェルマン・ルーヴェ
マリー・ヴェッツェラ男爵令嬢:レオノール・ボーラック/ドロテ・ジルベール/ブレーエン・バティストーニ
マリー・ラリッシュ伯爵夫人:ナイス・デュボスク/オニール八菜/エロイーズ・ブルドン
ステファニー皇女:イネス・マッキントッシュ/シルヴィア・サン=マルタン/イネス・マッキントッシュ
フランツ・ヨーゼフ皇帝:マチュー・ボットー/レオ・ド・ブーセロール/ケイタ・ベラリ
エリザベート皇妃:エロイーズ・ブルドン/エロイーズ・ブルドン/カミーユ・ボン
ミッツィ・カスパー:クララ・ムーセーニュ/ロクサーヌ・ストヤノフ/マリーヌ・ガニオ
ブラットフィッシュ:ジャック・ガストフ/パブロ・ルガサ/アントワーヌ・キルシャー
エレーヌ・ヴェッツェラ男爵夫人:クレール・ガンドルフィ/ファニー・ゴルス/ファニー・ゴルス
ベイ・ミドルトン大佐:ジェレミー=ルー・ケール/ジェレミー=ルー・ケール/トマ・ドキール
ターフェ伯爵:アルチュス・ラヴォー
ルイーズ皇女:アンブル・キアルコッソ/ビアンカ・スクダモア/ビアンカ・スクダモア
他
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