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クララ・ムーセーニュ=インタビュー「ヌレエフ版『眠れる森の美女』のオーロラ姫をオペラ・バスティーユで初めて踊って」

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

バスチーユ・オペラではルドルフ・ヌレエフ振付の『眠れる森の美女』が2013年以来12年ぶりに再演されている。マリウス・プティパの振付を最大限に尊重しながらヌレエフが1989年に作ったヴァージョンは、高度の技術が求められている。上演時間3時間15分という長大なダンスの饗宴だけに、ソロのダンサーへの負担は大きく、今シリーズでもセウン・パクの相手役に予定されていたポール・マルクが降板している。パリ・オペラ座バレエ団は1989年以降、ヌレエフ版のみを上演してきており、若かったマチュー・ガニオがデジレ王子を踊った映像によっても広く知られている。
7月まで続くシリーズの前半では三人の若手ダンサーがオーロラ姫に起用された。イネス・マッキントッシュ(デジレ王子はトマ・ドッキール 3月11日)、ホアン・カン(王子はロレンゾ・レッリ 3月14日)と並んで、クララ・ムーセーニュが3月23日にロレンゾ・レッリを相手に踊った。その翌日にパリ市内のホテルのカフェでお話をうかがうことができた。

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

クララ・ムーセーニュ 私がオーロラ姫を踊った舞台では上演が始まって間も無く、第2バルコンのお客様で気を失った方がいらして、周りの人がパニックになってしまい、公演が一時中断されました。プロローグが始まったばかりで、私は舞台の後ろの方にいました。第1幕で16歳になったオーロラ姫に起こる未来の出来事(魔女に渡されてオーロラが手にしていた花束の中にあった針で指を刺してしまう)を前もってパントマイムで演じる場面を待っているところでした。そこでいったん幕が下がってから、もう一回、魔女が舞台に現れるところからやり直しになりました。でも、私は踊っているところでなかったので、大丈夫でした。こんなことは初めての経験でちょっと驚きましたけれど。(こうしたアクシデントは)人間の世界ではあることなので仕方ありません。(笑) でも、最初は何が起こっているのか全然わかりませんでした。客席の上の方で人が叫んでいるのは聞こえていて、「大丈夫かな」と思っていました。

----いよいよ演技を始めよう、というところだったので、緊張されませんでしたか。

ムーセーニュ いいえ、踊っている途中でなかったので問題ありませんでした。それでも約15分間のかなり長い中断になってしまいましたので、観客の方々にそのことを忘れてもらえるように、と思いながら演技を始めました。オーロラが登場すると、太陽が上って周囲に光が差すような感じになることを目指しました。踊りそのものは、自分の思っていたようにできました。

----マルティネス監督からオーロラ姫の話があったのはいつごろでしたか。

ムーセーニュ 1ヶ月半前でした。1月の終わりくらいです。

----ロレンゾ・レッリさんとは初めてでしたが、パートナーが彼だと分かった時、どう思われましたか。

ムーセーニュ うれしかったです。オーロラ姫はずっと前から踊りたかった役でしたし、ヌレエフ振付の作品も初めてでした。とにかくオーロラ姫を踊りたかったのです。オーロラ姫は物語の中で成長します。16歳から100年寝ますが、寝て目が覚めた後は違う人間に生まれ変わっています。自分自身の年齢にちょうど合っていたし、この役を踊ることでダンサーとして大きく成長することができました。それに、ロレンゾとも初めてだったけれど、若いダンサーと踊れたからよかったです。彼はいいパートナーで、安心して踊れます。二人で一緒に踊るので、安心できるかどうかが大切です。一人で踊る場面もありますが、パートナーと一緒に踊る時は、お互いの気持ちが見る人に伝わらないといけません。ロレンゾにはカリスマ性もあります。パートナーとは一緒にいて同じ世界に入れるかどうかが特に大切です。

----クララさんとロレンゾさんは息がよく合っていると客席からは感じられました。

ムーセーニュ これからも彼と一緒に踊れたら嬉しいですね。

----リハーサルはいつ始まりましたか。

ムーセーニュ 公演の1ヶ月くらい前、2月半ばでした。

----エリザベット・モーランさんの指導でしたね。

ムーセーニュ モーランさんに教えていただけてありがたかったです。オーロラ姫を踊った経験がある方なのでとても助かりました。体力の配分や、どこで息をついたらいいか、視線の投げ方、足の位置といった実に細かいところまで教えてくださいました。特に目がどこを見ているか、ということについて丁寧な指導がありました。バレエで視線は本当に大事です。また、振付のことだけではなくて、舞台全体の中での場所の使い方も大事です。モーランさんはまるで舞台のお母さんのように助けてくださいました。今回彼女は私とロレンゾの二人だけを指導したので、本当に集中して取り組んでくださいました。彼女がここまで連れて行きたい、というところまで徹底して導いてくださったので本当によかったです。他のコーチが複数のオーロラ姫役を指導していたのとちょっと違っていたのです。

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

----モーランさんはオーロラ姫をどのようにイメージしていましたか。

ムーセーニュ リハーサル前にまず話してくださったのは、最初に出てきた時の印象がとても大事だということでした。特に若い感じ、フレッシュな感じを出すことです。それから、第1幕から第2幕、第3幕と成長して大人になっていく、ということも教えてくださいました。

----具体的にはどうやって成長していく表現をつくったのでしょうか。

ムーセーニュ 第1幕のイメージはいつも飛んでいるような感じです。上半身から足まで優雅さ、エレガンスが出るようにしました。動き方が風のように、身体が滑っていくような感じです。第3幕になると歩き方もそれまでと変わります。歩くだけでなくプリエの仕方でも違いを表現できます。言葉で説明するのはむずかしいですけれど、いろいろな点に注意してくださいました。成長して王妃のようになっていくけれども、きつい感じではありません。第1幕のフレッシュな感じも保っていくようにしました。王妃になったら威厳は生まれるけれど、心の中には清心さをずっと持ち続けています。

----新鮮な中にも落ち着きが出てくるということでしょうか。

ムーセーニュ そうです。

----ミリアム・ウールド=ブラームさんのレッスンも受けたそうですが、なぜ彼女に習いたいと思われたのですか。

ムーセーニュ たまたまミリアムさんと話したら、彼女も21歳でオーロラ姫を踊っていて、スジェになって最初のソリストの役だったことがわかりました。ミリアムさんの踊りは個性的でした。私は彼女の真似はしないけれど、彼女の踊りには独特のなめらかさがあります。柔らかさと繊細さを教えてもらいました。彼女のデリケートでお姫様らしい感じを特に教えてもらいたかったのです。彼女は個性があるから好きでした。彼女は私の個性を一緒に探してくれました。モーランさんもミリアムさんも、私に合った振付にしてくれました。
ミリアムさんは「オーロラ姫は太陽のような存在、太陽の明るさを忘れないでね」と繰り返しアドヴァイスしてくださいました。オーロラ姫は針が刺さった後、100年眠るけれども、彼女が眠ってしまうとみんなが眠ってしまい、彼女が目を覚ますとみんなも目を覚まします。ともかく舞台上で光ること、さわやかな輝きがないといけません。第2幕でオーロラ姫とデジレ王子という二人の魂が合わさるということも教えられました。エリザベットさんとミリアムさんは昨日見にきてくださったのですが、二人ともちょっと泣きそうになっておられました。うれしかったみたいです。初めてこの役をコーチして、私と一緒に役を作っていったからでしょう。役について私と同じ考え方だったので助かりました。私にとって忘れられない舞台になりました。舞台の上にいる時も、一人ではなく、二人が一緒に踊ってくださっているように思えました。一緒に同じように息をしているかのようだったのです。すごくいい先生方だったので本当に助かりました。終わった後でミリアムさんは「素敵だったわ」と言ってくださいました。

----2013年以来ですから、『眠れる森の美女』は12年ぶりの上演でしたが、来シーズン以降もまたいつか再演があると思います。

ムーセーニュ 絶対にまた踊りたいですね。

----次回は、どういう新しい工夫をしてみたいと思われますか。

ムーセーニュ たった一度でも踊っていてすごく楽しかったので、もう一回踊れたら、もっと楽しみたいと思います。踊りは毎回違います。お客様も違うし。今回はアクシデントもありましたし。踊りそのものは別に変える必要はないと思います。オーロラ姫は太陽みたいにともかく光輝く、他人が近づけないような感じを出したいです。オーロラ姫には大きなオーラがあるから。大事なのは、毎回舞台を楽しむことです。この世界(=42歳が定年となるオペラ座バレエ団のダンサーの世界)の時間は短いので。

----パリ・オペラ座以外で踊ったことはありますか。

ムーセーニュ 12歳の時に日本のコンクールで第3幕のヴァリエーションを踊っていて、今回は二十歳で通して踊れたので思い入れのある役です。

----今回のシリーズではもうすぐ引退するドロテ・ジルベールが初めてオーロラ姫を踊りますが、シリーズの出演者でクララさんが一番若いオーロラ姫ですね。

ムーセーニュ オーロラ姫の年齢に近い、若い時に踊った方がいい役だと思います。この役で本当にすべてが変わったので、今、踊れてよかったです。オペラ座でダンサーの年季があまり問題にならないようになってほしいので、一番適当な時期にダンサーが踊るのがいいと思っています(注 階級を重視してベテランを主役に起用すること)。若くてもできるならば、やるべきだと思います。チャンスをもらうのは大変だったけれども、本当に頑張って練習したので、ご褒美をもらった気分です。踊り手は一人ではないので、役を一回でも踊れたのはありがたいことです。でも本当はもっと踊りたかったですね。

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

----マルティネスさんから何かコメントはありましたか。

ムーセーニュ 嬉しそうで、「すごくよかった」と褒めてくれたし、「今週中に二人で話そう」と言ってくださいました。「オーロラ姫の役をくださってありがとうございます」とお礼を言ったら「君はこの役をもらうに値するダンサーだよ」と言ってくださったので、「よかった」と思いました。ジョゼはダンサーのことをよくみてくれているので安心しています。オーロラ姫の振付はテクニック面でむずかしい役です。(ポワントで静止している時に)客席の人に震えているのがわかるのは本当に嫌です。明るい話なので、観客が危ないと思うようではダメです。「振付を自分のものにして、それを忘れるところまで行って、お話の中にみんなを連れて行きなさい」とミリアムさんはおっしゃってくださいました。

----クララさんは四人の王子を前にしてポワントで立っている時に、軸が全くぶれない圧倒的な安定感があり、相手から離れる時に微笑を王子に贈るという余裕が感じられました。

ムーセーニュ ああ、ローズアダージョのことですね。軸がぶれないことが大事なのです。彼女は16歳になったから結婚しなければならないので、四人の王子が違う国からわざわざ来ています。お姫様ですから、相手が心配になるような演技になってはいけません。ここは特に有名なところで、軸がブレたらだめです。四人とできるだけ長く立っているようにする。知らない人はわからないけれど、バレエファンはみんなそこを待っています。それを楽々とやるダンサーとしての見せ所なのです。

----公演の時、私の隣に座っていた80歳くらいのフランス人男性は5歳からガルニエ宮に通っていて、ヌレエフの舞台も最初から観ていたそうです。

ムーセーニュ わー、すごい。

----その人は最初、始まる前は「エトワールが一人も出ていない回しか切符が取れなかった」とぶつぶついっていたので、「マルティネス監督が期待していて、これからオペラ座で活躍してほしいと思っている若手ダンサーをオーロラ姫とデジレ王子に起用したのですよ」と言ったら、「まあ、見てみよう」という返事でした。そしてローズ・アダージョのところで、「おっ」という感じになって、二人が踊り終わるたびに大きな拍手を送っていました。最後には「こんないいカップルを見られて運がよかった」と喜んでいました。

ムーセーニュ 観客は毎回変わるし、人によって受け止め方は違いますね。自分のことを知らない人もいるから、一回目に観た時に「楽しいな」と感じてほしいと思いながら舞台に立っています。昨日は初めてバレエを観る子供たちと家族もたくさん来ていたので、ともかくお話の中に連れて行きたかったのです。来てくださった人がもう一回、バレエでもオペラでもいいから、オペラ座の公演を見に来てほしいという気持ちでした。

----「初めてのオペラ座 」(Première fois à l'Opéra)という特別企画の公演で、事前にローラン・ノヴィスさんが作品の解説もしてくださっています。

ムーセーニュ ああ、そういう解説もあったのですね。初めての子供たちにも、とても良かったと思います。この日に起用されたことで、期待されていることはわかっていました。オーロラ姫という役は大役であることはわかっていました。毎日練習してきて、ロレンゾも怪我をしないで、当日まで来られたのは奇跡だと思いました。

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

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© Maria Helena Buckley:Opéra national de Paris

----クララさんにとって忘れられない舞台になったのではありませんか。

ムーセーニュ 生まれ変わったみたいな感じでした。これは初めての経験で、これからもどんどん踊っていきます。よく「ドキドキしますか」と聞かれますけど、実は毎日ドキドキしています。「この役を踊ってください」「どこか違う国へ行って踊ってください」とか言われますが、毎回きちんと準備しないといけません。それとオーロラ姫はエトワールの踊る役で、さっきも言ったようにヌレエフ振付を踊る初めての演目でした。素晴らしい役です。第2幕が終わったら、「これで第3幕も踊れる」というような感じで、それがうれしかったです。第1幕から踊るところがたくさんあるのがいいです。衣裳もきれいだし。音楽もチャイコフスキーだったから助けられました。小さい時にチャイコフスキーを聴いて大きくなったので、チャイコフスキーが好きなのです。観ていた子供たちもチャイコフスキーの名前は知らなくても、聞いたことは絶対にあると思います。よく宣伝にも使われているし。これからも彼の音楽で踊りたいです。
スタジオの練習と舞台の本番での経験とは全然違いますね。役を覚えてコーチを受けるのもいいけれど、実際に舞台で踊らないとだめです。舞台で踊るのが一番大切な経験だから。
舞台に着いた途端に安心しました。後ろにいて待っている方が長い感じで、舞台に出るとまるで家にいるみたいで安心します。本当に舞台が好きなのです。舞台の上で踊るのはマジックみたいなものがあって、舞台から力をもらえます。

----舞台で踊っていてお客さんからのエネルギーを感じますか。

ムーセーニュ ええ、やっぱり感じます。あまり寝ていなくて眠くても、病気でも、何か問題があっても、私は怪我しなかったけれども、怪我をしている人でも舞台にいるとアドレナリンで痛みを忘れてしまいます。それはすごい力なのです。

----クララさんが舞台に入ってくると、すーっと光が射して、明るい雰囲気が広がりましたね。

ムーセーニュ 本当に楽しんで踊っているからでしょうか。オーロラ姫が花を持って踊っていて、針が刺さった時に、自分では子供だから何が起こったのかがはっきりとはわかっていません。でもびっくりして、「今から死ぬのかしら」という不安で悲しい気持ちはあるので、それが観ている人に伝わらないといけません。それとオーロラ姫って、踊っている時に心がきれいでないといけないんです。気持ちがまっすぐでないとダメです。観ている子供にも気持ちが伝わらないといけないからです。ダンサーが思っていることは観ている人には絶対に伝わります。これはすごい経験です。100年眠っているけれど、100年ぼーっとして眠っているのではなくて成長しているのです。

----ヌレエフの振付作品はバスチーユ・オペラで上演することになっていますが。ガルニエ宮とバスチーユ・オペラでは舞台で踊っていて、何か違いがありますか。傾斜も同じではありませんね。

ムーセーニュ それは違うけれど、あまり気にしないことにしました。今、バスチーユ・オペラとガルニエ宮で踊れるのは本当にありがたいことだからです。2年後にガルニエ宮もバスチーユ・オペラも閉まります。だから、ともかくそれまでに踊れるだけ、一回でも多く踊りたいのです。前は二つの劇場の違いを気にしていたけれど、今は気にしないようになりました。今回はコロナ禍もないし、ストもなく、中断はあったけれど、それ以外は大丈夫だったので。本当に奇跡かと思いました。

----昨年末にダンサーのストがありました。クララさんはどのように思われましたか。「実際はメークや衣裳を着るのに2時間かかるのに、30分しか支払われていないから、開演の30分にならなければ来ない」ということでしたね。

ムーセーニュ 舞台をキャンセルしたのは良くなかったと思います。遠くから来たお客さんもいるし、そうでなくても、それぞれの人が公演を楽しみにしてきてくださったのですから。奥さまを喜ばせようと思ってご主人が切符を買った人もいるし、それぞれの人に期待があったでしょう。だから、舞台準備に時間がかかるのは確かだけれど、公演のキャンセルは良くなかったと思います。

----もうすぐ来シーズンのプログラムが発表されますね。クララさんにはクラシック作品で役がつくだろうと思いますがぜひ踊ってみたい作品はありますか。

ムーセーニュ バスチーユ・オペラではヌレエフ振付の『ドン・キホーテ』もあります。オーロラはお姫様だからプログラムにあったらぜひもう一度踊りたいですね。『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』のリーズを踊りましたけれどお姫様ではないし、ミルタは幽霊です。だからお姫様を踊れたのが特に嬉しかったです。お姫様のエレガンスを見せられたのが嬉しかったですね。

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© 三光洋

----クララさんはリーズのような農婦よりお姫様がいいのでしょうね。

ムーセーニュ ええ、リーズの役をもらったのはありがたかったですけれど。

----リーズを踊っていてどう思われましたか。

ムーセーニュ コメディですし、楽しかったです。でもヌレエフとは全然振付が違いますね。ダンサーのいいところは、それぞれの人物の人生を経験できることです。例えばオーロラ姫は死んでしまったかのように眠っています。リーズはお母さんが全部決めている感じですけれど、実際には自分の運命は自分で決めるところがいいですね。「私は好きな人と結婚して、子供を作るわ」みたいな感じですね。それはすごいと思いました。『白鳥の湖』では王子が白い白鳥を見て好きになったけれど、黒鳥を白鳥と間違えてしまったせいで、最後に彼は死ぬことになります。「白鳥」は寂しい終わり方ですけれど、今回のオーロラはハッピーエンドだったのが好きでした。それにいっぱい役を踊りたいですね。バスチーユ・オペラで踊るのはあと『シンデレラ』があるし、「白鳥」も踊りたいですね。ガルニエ宮で踊る役もあります。ヌレエフはオペラ座で一番大切なレパートリーでオペラ座でしかやれない振付だから、たくさん踊りたいですね。ヌレエフと一緒に踊った人から教えてもらえるのも素晴らしいことです。ステップがすごく多いけれど、私は好きですね。いつも踊っている感じで好きじゃない人もいるけれど、変な感じはなくてちょうどいい感じなので私は好きですね。

----オーロラ姫のヴァリエーションは前に踊ったことがあるのですね。

ムーセーニュ 日本のコンクールの時に踊りました。今度、オーロラ姫が終わっても、赤い衣裳の役(第1幕第5ヴァリエーション)も三人で踊る宝石の水色の衣裳の役もあります。主役もセミソリストも、というのは大変だったですけれども。一週間前に昼はオーロラの練習で、夜はギターを手にして踊る役と、赤い妖精と、最後は水色の宝石、という全部を踊らなければならない日がありました。それは体力があるかどうかをテストされたのだと思います。あれで6幕でもできるとわかったから、もう大丈夫です。(笑)群舞もすべて踊らされましたけれど、全然、軸がぶれないことがわかったのでよかったです。試されているのはわかってましたけれど、私は負けません。

----7月に昇級の発表があるかもしれませんね。

ムーセーニュ あ、そうなんですね。コール・ド・バレエはずっと舞台にいるけれど、それも大事だと思います。ソリストとして踊る時に、コール・ド・バレエの気持ちもわかるからです。コール・ド・バレエも1幕、2幕、3幕ともすごく人が多いですね。私はコール・ド・バレエの時にオーロラ姫がどうするかをずっと観ていました。主役をやりたかったのです。どうやって身体を使うか、舞台がどんな世界を表しているか、その雰囲気がよくわかるから観ておいて助かりました。コール・ドはソリストを引き立てる役にもなっています。
今回はまるでコンクールみたいでした。コール・ド・バレエの時もオーロラ姫もジョゼに観られているとわかっていましたから。だから毎回怖くはないけれど、ずっと観られているというストレスはありました。
スジェでは私だけがオーロラの役をもらって、コール・ド・バレエも6幕くらい踊らされたけれど、それでも生きていることがわかったから。「ああ、この人ならできるな」という感じになったみたいです。

----長い時間きちんと踊り続けられるというのは強みですね。

ムーセーニュ そうですね。午後1時半から4時半までオーロラの通しのリハーサルがあって、それからオペラ座のクリップ用の赤の衣裳でのヴァリエーションの撮影があり、その後ブルーエンさんが主役の本番でコール・ドとセミ・ソリストをやるということがありました。こうすると3幕を二度繰り返して踊ることになるので6幕分くらいになりますけれど、最後まで完璧に踊れたというので、オペラ座の中で大きな話題になったそうです。元エトワールの人たちから「自分もそれをされたから、大丈夫よ」と言ってもらえました。誰もが一度は通らなければならない道だと思います。

----今日はお疲れのところ長い時間を割いていただきありがとうございました。クララさんのこれからのいっそうのご活躍に期待しております。

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