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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
Text by Mariko OMURA 
[2017.02.10]

オペラ座ダンサー・インタビュー:レオノール・ボラック

Léonore Baulac レオノール・ボラック(エトワール)
12月31日、バスチーユ・オペラ座でマチアス・エイマンをパートナーに『白鳥の湖』を踊って、レオノール・ボーラックがエトワールに任命された。オデット/オディール役の代役だったが、ローラ・エケの降板により、たった一度だけ初役で踊る機会が得られ、その結果のうれしい任命である。

昨夏に「エトワール・ガラ」で来日し、ソリストとして素晴らしい舞台を見せたレオノール。この公演でも舞台を共にし、オペラ座で『くるみ割り人形』『ロメオとジュリエット』という大役を一緒に果たした仲良しのジェルマン・ルーヴェが、彼女の3日前に任命された。二人の任命はオレリー・デュポン芸術監督による新しい時代の本格的開幕を華々しく告げるようだ。

Q:エトワール任命、おめでとうございます。任命の噂は耳に届いていましたか。

pari1702b_09.jpg photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

A:はい。私が踊る唯一の『白鳥の湖』の公演日が12月31日に決まり、しかもパートナーがエトワールのマチアスとなった時点で、すぐに任命の噂も耳にはいってきました。でも、プルミエ・ダンスールがエトワールと踊ることになると、そうした噂がたつものなので・・・私は耳を貸さないようにしていました。

Q:オデット/ オディールを踊ったのは今回が初めてでしたね。

A:はい。私はもともと代役でしたが、ローラ・エケとジョジュア・オファルトが二人とも降板し、その結果、私が大晦日の公演をマチアス(・エイマン)と踊ることになったのです。初役だったので、任命されるかどうかということより、稽古に専心しました。私の目的は可能な限り素晴らしい公演にすること。なぜって、任命云々といっても、私が何かをできるわけではないのだから。これは、とにかく難しい役です。マチアスとはあいにくとリハーサルの時間があまりなくって、不安もがありました。プレッシャーも大きかったですね。

Q:任命日が12月31日ということについてどう思いますか。

A:大晦日のこの晩、あいにくと父と姉は来られなかったけれど、会場には母と妹がいたんですよ。初役でたった一度の『白鳥の湖』。踊る喜びを忘れて集中しなければならないシーンも時にはあったけれど、舞台上でこの作品を踊る味わいを得ることすらできました。任命が12月31日というのは、とても魅惑的な日付だと思います。それに少々象徴的とも言えるんですよ。というのも、オレリー自身も『ドン・キホーテ』で任命されたのが、12月31日。素晴らしい継承をここに感じることができます。オレリーから、こう言われました。「これで毎年12月31日に素敵なお祭り騒ぎをする良い理由ができたのよ ! 」って。

Q:エトワールになったといつ実感しましたか。

A:実感はあまりないんです。今年に入ってからインタビューをたくさん受け、おめでとうと繰り返されても、私自身は何も変わってないので・・・。1月の休暇があけてリハーサルが始まっても、エトワールになった私の欠点はあいかわらずだし(笑)。エトワールというタイトルは素晴らしいもので、私が小さいことから夢みていたもの。今、それに自分がなったというのがとても奇妙な感じです。

pari1702b_08.jpg photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

Q:ではエトワールという立場の責任について感じるのも、これからですね。

A:はい、今の所はプルミエール・ダンスーズとして配役されたプログラムが続いているので・・・。3月の訪日ツアーにしても、予告されている通りの役を踊ります。オペラ座で7月に『ラ・シルフィード』をジェルマン(・ルーヴェ)と踊ることになっていて、これが私たち二人がエトワールとなって初のクラシックの大役となります。

Q:彼とほぼ同時に任命されたことについては、どう感じましたか。

A:彼と私は、初体験ということを共にたくさん経験した仲です。まだスジェの時代に『くるみ割り人形』で二人してエトワールの役を一緒に踊り、それから『ロメオとジュリエット』という素晴らしい役も彼と一緒に・・・その他にもいろいろ。たくさんの美しい試練を共に克服した仲。これからも一緒にさまざまな作品を踊っていける、その彼と共にこの幸せを分かちあえるというのは、最高の喜びなんです。一人だけの任命だと一人で喜んで終わってしまうけれど・・・。エトワールになった、ということをジェルマンとお互いに言い合うことで、実感しようとしてるんです(笑)。

pari1702b_03.jpg 『ロメオとジュリエット』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:任命の時、舞台ではどのような気持ちでしたか。

A:舞台上でリスネール総裁が技術者など公演にかかわった大勢に対して、次々とお礼の言葉を述べるのが続いたので、ああ大晦日でもあるし、スタッフへの感謝のために二人(注 :リスネール総裁とオレリー・デュポン芸術監督)がステージに登場したのであって、任命とは関係ないことなんだ・・・と、一瞬思ってしまいました。それで、マチアスも「早く ! 早く !」となっていたのです。マチアスは本当に素晴らしいパートナーなんですよ。細かな気遣いができる人で、とても優しい。私は『ロメオとジュリエット』も彼と一緒に踊っています。このときは一度もリハーサルなしで、いきなり本番でした。彼は芸術的にも優れた人ですね。彼の視線にこめられているものはとても大きく、それで舞台上で私たち二人の間には何かが起きるんです。実は『ロメオとジュリエット』の公演時、私は肋骨が1本折れた状態だったので、彼は気配りをもってパートナーを務めてくれました。彼との仕事は喜びそのものです。

Q:『白鳥の湖』はオデットとオディールのどちらが踊りやすかったですか。

pari1702b_07.jpg photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

A:白鳥より黒鳥のほうが簡単・・・そう思いました。もちろんテクニック的にはすごく大変なのだけど、音楽や振付がこの人物を踊るのに必要な強さを共に作り上げてくれるからです。三幕になると、脚に痙攣がおきてしまうのでとても辛いのだけど、役創りはそう難しくないわけです。とても自分に自信があって、毒のある女性。視線をつねにプリンスとロットバルトに向けていて・・・・。白鳥も抑制が必要ということもあり、テクニック的に難しいですね。音楽が優しくて・・・だからほんのちょっとのミスもすごく目立つように思います。この役創りはとても難しい。オデットは女性でありながら白鳥という役柄。白鳥ってとても強く、そして生き物の中でも女王的存在。わが身の運命をただ悲しんでいるだけでなく、その強さ、それと同時に罠にはまってしまったか弱さ、それにメランコリーなど表現するべきものが多い。そしてプリンスに対する愛情もみせる必要があって・・・。

Q:白鳥の姿をしていても、本当は女王であることを観客にわからせる必要がありますね。

A:はい。オレリーからも「最初の登場シーンから、あなたが女王であるということを観客がわからなければいけない」といわれ、アドヴァイスをもらいました。パントマイムで王冠を表現するところをきっちりみせることや、白鳥のポーズを威厳をもってすること、怯えて下ばかり向いてるのではなく、などと。確かにプリンスが最初彼女を怯えさせるけれど、顎をあげて、強さをもって、自分は王妃であるとみせる必要があるのですね。『白鳥の湖』はクロチルド・ヴァイエが指導してくれたのですが、オレリーがリハーサルを見に来たことがあって、その時にこの貴重なアドヴァイをもらいました。

Q:この作品で任命されたことについてはどう感じていますか。

pari1702b_06.jpg photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

A:うれしいですよ。これは とても難しい役だったので、それを踊って任命されたということがとても誇らしいことに感じられます。クラシック・バレエの秀作ですから、満足感もあります。私の夢の役、それは何度も語っているように『ロメオとジュリエット』のジュリエット。『白鳥の湖』の役はジュリエット役に比べて、私にとってはけっこう難しい役だったので、クロチルドもすごく役作りを助けてくれたし、そして私自身もリサーチをし・・・そうした努力が実った、ということになります。しっかりと仕事をした作品で任命されたこと、それを誇りに思います。

Q:あなたのダンサーとしてのキャリアにおいて、良いタイミングの任命だと思いますか。

A:はい。ソリストとして主役を踊るようになって、1年以上もたっていましたから。
他の大役にも自分は準備ができている、と感じていたし・・・。今、26歳。これから多くの素晴らしい主役が待っています。

Q:一人の楽屋にはいつ入れそうですか。

A:プルミエール・ダンスーズのための楽屋に移れたのが、つい最近のことなんです。今、オニール八菜との二人部屋です。おそらくレティシアか誰かエトワールが去ったら、9月に新しい楽屋に引っ越せるのではないでしょうか。コール・ド・バレエ時代は仕事場も楽屋もグループだったけれど、エトワールとしての責任の大きさを考えると、一人の時間を持てる空間は大切だと思います。友達だちに会える機会が減るのは寂しいけれど、公演の前に楽屋で一休みできるというのはありがたいです。

Q:1月の休暇中、何かガラに参加しましたか。

A:今回は久しぶりに100パーセントの休暇でした。この5〜6年、1月に休暇を取ったことがなかったので・・・。携帯電話などから離れ外界を少々遮断して、たっぷりと休養がとれました。任命の後だったので、頭を空にして何も考えず、海岸で太陽を浴びて過ごして、と。休暇あけの強烈なスケジュールに立ち向かうために、これはよかったですね。

Q:今シーズンは今後オペラ座で何を踊る予定ですか。

A:5月2日からのラヴェルの音楽の公演・・・。バランシンの『ヴァルス』かロビンズの『アン・ソル』に配役されるのでは、と思っています。『アン・ソル』の音楽がとりわけ好きだし、これには素晴らしいパ・ド・ドゥがありますね。『ヴァルス』はyoutube で見ただけなので、今の段階でいうと『アン・ソル』が好みです。その後は『ラ・シルフィード』があり、そしてその後ニューヨークのツアーがあって、ジェルマンと『ジュエルス』のエメラルドのパートの2つめのパ・ド・ドゥを踊ります。

pari1702b_04.jpg 『ロメオとジュリエット』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:来シーズン2017/18のプログラムが発表されました。踊りたい作品はどれでしょうか。

A:たくさん踊りたいのがあるわ・・・。好き、というレヴェルでいうと、『春の祭典』がありますね。自分が配役されるとは思っていないけれど、いつか踊ってみたいと夢見ている作品の1つなんです。『ジュエルス』ではルビーのパートが一番好きなので、これを踊れたらうれしいですね。ジェルマンと ? わからないけれど、そうなったら素敵ですね。それから『ドン・キホーテ』も。これを踊れたら、すごいチャレンジで、今まさにするべきチャレンジだと思います。でも、同時に公演のあるアレクサンダー・エクマンの『プレイ』にも興味があって・・。両方を踊らせてもらえるものかどうか。『オネーギン』は、オルガ役とタチアナ役の両方にひかれています。オルガは今踊るのに良い役だけど、タチアナには若すぎる、というようには評価されたくないですね。いずれにしても、オルガからでもいいのでこの作品に配役されたいです。『リーズの結婚』は前回の公演で踊ることになっていたのだけど、足が疲労骨折で踊れずじまいとなったので、もし配役されたら、楽しい作品なのでうれしいです。でも、これはアメリカ・ツアーと重なっていて、私はおそらくツアー組だと思うんです。あ、もしかすると、『リーズの結婚』を踊ってから、ツアーに出ることになるかも・・・。そうなったらいいですね。ベジャールの『ボレロ』は幻想に過ぎないけれど、もちろんテーブルの上で踊ってみたいですよ(笑)。ピナ・バウシュの作品は好きなので『オルフェとユリディーチェ』も踊れたらうれしいし、サシャ・ワルツの『ロメオとジュリエット』にも興味があります。音楽はベルリオーズよりもプロコフィエフの方が好みだけど、この作品には美しい瞬間があるので・・・。『ティエレ、パイト、シェスター』はどれもこれも踊りたい。パイトの作品は前回は踊ってないけれど、一緒に仕事をしよう、というように彼女と話しをしているんです。だから、いつか ! と期待しています。それにしても、ジェームス・ティエレをオペラ座に招く、というのもすごいアイディアですね。来シーズン、ほぼ全作品を踊ってみたいという素晴らしいプログラムです。

Q:3月の訪日ツアーでは『ラ・シルフィード』でエフィー、『ダフニスとクロエ』でリセイヨンに配役されていますね。

pari1702b_01.jpg 『ダフニスとクロエ』
photo Agathe Poupeney/Opéra national de Paris

A:はい。エフィーは初役で踊ります。この人物・・・ジェームスが小さい時からよく知ってるという設定の女性ですね。ジェームスと結婚することになっている可愛くって感じのよい田舎の女の子・・・・・ジェームスへの愛はいっぱい。でも、村一番の賢い子でもなければ、女性としてそれほど興味深いところがない。結婚前にジェームスにふられてしまうので同情は少し得られるけど・・・という役どころ。彼がなぜシルフィードに心を奪われたのかがわかる、という人物像を作り上げる仕事なので、これはなかなか簡単ではないです。この役を私が踊ることで面白いのは、ミリアムとの二重性ですね。ミリアムと私は外見的に似ているところがあります。マチアスが演じるジェームスと、ミリアムのシルフィード、そして私のエフィーによるパ・ド・トロワ。ジェームスの左右に似通った二人の女性がいて、一人は現実の存在、もう一人は想像上の存在という・・とてもよいアイディアだと思います。こうした狙いがあっての配役、と私は思っています。

Q:リセイヨンはオペラ座ですでに踊っていますね。

A:『ダフニスとクロエ』の初演時に、踊りました。これはエフィーとは正反対の女性ですね。クロエの存在を知っていながら、ダフニスを誘惑するのですから。

Q :『椿姫』であなたが踊ったオランピアに近いといえますか。

A:オランピアも誘惑者だけど、若くてフレッシュ、それにイノセントです。それに引き換え、リセイヨンは原作によると若い女性ではなく、人を裏で操る悪意のある女性です。

Q:振付についてなにか思い出はありますか。

A:ミルピエの他の作品同様、オーガニックな動きでとても快適に踊れる作品です。リセイヨンとドルコンのパ・ド・ドゥは、舞台裏にいるコーラスの歌声に合わせて踊ったのだけど、歌声が後方から聴こえてくるというのはとっても感動的でした。バイブレーションが感じられました。私は信心深いとかそういうタイプではないけれど、この時は神聖な気持ちになりました。ステンドグラスのような舞台セットとおとし気味の照明、そこに歌声が・・・とても奇妙な感じがありました。リセイヨンという女性は自信あふれる女性です。だから、舞台に登場するときに、一瞬の迷いもあってはなりません。どんな役でも舞台に最初の一歩を踏み出すときって、ちょっとばかり自分に疑問をもってしまうもの。他の作品ではそれはさほど問題ではないけれど、このリセイヨン役ではそんな疑問はゼロでなくてはならない。私が踊るときのクロエ役はオレリー。クロエを見下ろすような感じの役となると、これはさらに難しい仕事となりますね。

pari1702b_02.jpg 『レイン』 photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

Q:訪日ツアーの作品では、代役の仕事もありますか。

A:はい。『ラ・シルフィード』のヒロイン、『ダフニスとクロエ』のヒロイン、そして『アザー・ダンシイズ』。たくさんの振付を同時に覚える必要があるんです。とりわけシルフィードは覚えるのにとっても時間が必要なんですよ。ソロも6つくらいあるし、パ・ド・ドゥも。ステップがとても似ているので、他の役よりも覚えるのが難しいです。

Q:昨夏には「エトワール・ガラ」でソリストとして来日しましたね。

A:エトワール・ガラでは短期間の間に何度も複数の作品を踊るということで、とても実り多い経験ができました。疲労してる、していないに関係なく、テクニック面での難しさに立ち向かう必要があって、でも、毎回こなすごとに進歩していることが確認できて・・・。こうした経験はエトワールになったときのための、よいトレーニングだったといえます。「エトワール・ガラ」は 少人数のグループで雰囲気もよくって、快適な時間がすごせました。日本では毎度のことながらとても暖かい歓迎を受け、大勢の人たちから「次はエトワールとしての来日を楽しみにしています ! 」って言われ・・・。この時点では『白鳥の湖』は代役でしかなかったので、なんとも答えようがなかったのだけど、私もジェルマンも期待に応えてエトワールとして訪日できることになりました。嬉しいですね。

Q:東京では何か新しい発見がありましたか。

A:はい !!!   代官山を初めて知りました。ジェルマンとユーゴと3人で、毎日のように通ったんですよ。とても静かな地区で、どのレストランでもとても美味しい食事ができて・・・。今回も行こうと思っています !!

pari1702b_05.jpg 『ロメオとジュリエット』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris