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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
Text by Mariko OMURA 
[2016.12.12]

オペラ座ダンサー・インタビュー:ジェルマン・ルーヴェ

Germain Louvet ジェルマン・ルーヴェ(スジェ)
この夏「エトワール・ガラ」にレオノール・ボーラックと共に参加し、日本のバレエファンにその魅力を知らしめたジェルマン・ルーヴェ。11月4日の昇級コンクールで、プルミエ・ダンスールの1空席を獲得した。来年1月1日から、プルミエ・ダンスールとしての活躍が楽しみだ。

2015年のコンクールでは、親友のユーゴ・マルシャンが彼に先んじてプルミエ・ダンスールにあがった。これでまた肩を並べることになった二人が、今後オペラ座バレエにどんな新風を巻き起こしてゆくのだろう。クリスマスから年末にかけて、オペラ・バスチーユでエトワールのリュドミラ・パリエロをパートナーに、『白鳥の湖』の王子ジークフリートを初役で踊る彼。そして、来年のオペラ座ツアーにはソリストとして来日する。彼をまだ見たことがない人は、オペラ座のサイトで、彼とオニール 八菜が踊る『Ascension 』を見てみるといいだろう(https://www.operadeparis.fr/3e-scene/ascension)。また、彼が創作に参加した『クリア、ラウド、ブライト、フォーワード』のリハーサルを追った映画『ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』も12月23日から上映が始まる。

pari1612b_07.jpg 『クリア、ラウド、ブライト、フォーワード』 photo Michel Lidvac

Q:11月4日に行われたコンクールについて話してください。

A:今回に限らずコンクールというのは毎回ストレスを感じるものです。公演とは異なる雰囲気なのでプレッシャーはあるし、それにプルミエのポストは空きが一席しかなかったので、これを得るにはとても上手くできなければ!ということで・・。でも一旦ステージに出てしまったら、調子よく踊れました。

Q:課題曲と自由曲を踊り終えたあと、どのように思いましたか。

A:上手く行った、これ以上良くは踊れない、というように思いました。とはいっても、他の参加者の出来がどのようなのか僕は見てないのだから・・・と、自分に言い聞かせたんです。ショートメッセージが届いて昇級を知ったのですが、コンクール終了後、わりとすぐのことでした。

pari1612b_03.jpg 2015年コンクール『白鳥の湖』
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

Q:課題曲は『眠れる森の美女』第二幕のスロー・ヴァリエーションでした。

A:好きなヴァリエーションなので、これが課題曲と知った時はうれしかったですね。コンクール前は「ジョージ・バランシン」の公演があって、僕は「ブラームス/シェーンベルグ・カルテット」を毎晩のように踊って、さらにヴィオレッタ・ヴェルディへの追悼として新たに加わった「ソナチネ」もあり、おまけに『白鳥の湖』のリハーサルも始まって、というように、すごく忙しくてコンクールの準備の時間をとるのが大変でした。でも、このヴァリエーションは準備を始めるや、“これ、踊るのが楽しい !”となって・・・。

Q:『エチュード』のマズルカを自由曲に選んだのはなぜでしょうか。

A:スピードが速く、課題曲の対局にあるようなヴァリエーションを選びました。『眠れる森の美女』は抒情的でソフトです。だから技術的にはマスキュリンなもので、僕が持つ別の一面を見せられるものを、と思って。これに決めたときは他には誰も選んでなかったのだけど、最終的にはファビアン(・レヴィヨン)と重なってしまいました。

Q:誰かコーチとコンクールの準備をしたのですか。

A:もう3〜4年になるかな、ステファニー・ロンベール(プルミエール・ダンスーズ)に、コンクールやガラで踊るときなど指導してもらっています。自由曲は僕のアイディアで選んだけれど、彼女も賛成してくれて、たくさんのアドヴァイスをくれました。『エチュード』のマズルカは、とても短いものです。課題曲は6分以上と長く、パーソナリティ、持久力、抒情的なソロのテクニック、プティット・バッテリィ、ダブル・アッサンブレなど、その中に見せるべき多くの要素が含まれているヴァリエーションなんです。だから自由曲は長いものを選ぶ必要がなく、スピーディで短くて効果的なものがいいだろう、って。

Q:その結果昇進が決まり、さらにエトワール任命がそう遠くないという噂があります。

A:確かに僕の耳にも、そうした噂は届いています。これは、僕にとっては励みになりることですね。でも、それが自分の中での重大関心事にならないようにしないといけないと思っています。もし、そうなったら喜ばしいことだし、そうでなくても大したことじゃない、と。今もらっている仕事にベストを尽くすだけです。任命というのはカンパニーにとって、僕のキャリアにとって大切なことだけど、任命の翌日に何かが僕の内側で起こって突然ダンスが変わる、というようなことはないのです。まだ23歳と若いのだし、学ぶこと、するべきこと、築き上げることが山ほどあるので、だからあまりそうした噂については考えないようにしています。

pari1612b_02.jpg 『くるみ割り人形』 photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

Q:プルミエ・ダンスールにあがると、楽屋も二人部屋に変わるのですね。

A:スジェから二人部屋、というのが通常なのだけど、ずっと空き部屋がなくって実は今もカドリーユ時代と同じ大勢一緒の楽屋に入るんですよ。2017年9月から、ユーゴと一緒の楽屋に入れることになっています。

Q:来年3月のオペラ座ツアーでは、バンジャマン・ミルピエの創作『ダフニスとクロエ』にソリストとして配役されていますね。

A:はい。オペラ座で2015年にこの創作があったとき、僕はコール・ド・バレエで踊っています。青、黄色、緑の3色のコスチュームがあって、僕は緑でした。この作品、大好きです。それに僕にとって、これはちょっと特別なんです。この作品に僕をコール・ド・バレエに配役したのは当時芸術監督だったブリジット・ルフェーヴルですが、この作品の創作時、公演時にバンジャマン(・ミルピエ)が大勢で踊る中の僕を見出してくれ、その後、芸術監督となった彼によって、僕は『くるみ割り人形』『ロメオとジュリエット』という大作の主役に配されています。だから、今回『ダフニスとクロエ』のソリストを踊るというのは、物事がくるりと一周して、きれいに完結するという感じが僕の中にあります。

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『ロメオとジュリエット』photos Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:芸術監督がオーレリー・デュポンに変わったことについて、どう思っていますか。

A:僕はバンジャマンとは意見も合うし、彼が動きに対してもつ美意識、そして彼がダンサーの仕事についてもつビジョンに賛同していたので、彼が辞めると知ったときには、とてもがっかりしました。彼が進めた改革を最後までやり遂げる前に・・・と、とても残念に思いました。でも、後任がオーレリーだとわかったときは、ああ、彼女なら穏やかな変化にとどまるだろうな、と安心したんです。彼女は僕が尊敬しているダンサーです。大好きですよ。『くるみ割り人形』の主役を踊ることになったとき、彼女が僕とレオノール(・ボーラック)を2か月間コーチしてくれるという幸運がありました。ソリストとして初の大役に挑む僕は、この時に彼女のおかげでたくさんのことを学ぶことができたんです。とても良い関係なんですよ、僕たち。僕がどのように機能するダンサーなのかを『くるみ割り人形』の稽古を通じて、彼女は完璧に把握しています。

pari1612b_01.jpg 『ソナチネ』
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

Q:『ダフニスとクロエ』ではアマンディーヌ・アルビッソンがクロエ役ですね。

A:はい。はこれまで彼女と一緒に踊ったことはないのだけど、バカンスも一緒にすごす仲間の一人なんです。僕がバレエ学校に入ったとき、彼女は最終年のプルミエ・ディヴィジョンにいて、わーお !という存在でした。彼女が入団してからは、ずっと彼女の舞台を見ています。そして彼女がエトワールに任命されたとき、偶然にも公演を見に行っていて居合わすことができました。

Q:ダフニス役についてはどのように考えていますか。

A:『ダフニスとクロエ』にはもともとはストーリーがあるのだけれど、バンジャマンのは抽象的ですね。ロマンティックなダンサーのエルヴェ・モローが僕は大好きで、彼がこの作品の創作ダンサーなんですね。彼が鳥が羽を開くかのように腕や脚を大きく広げると、舞台空間が満たされるようで素晴らしい。顔立ちも体つきも彼は美しく、そしてダンスは流れるように滑らかで・・・これはバンジャマンのスタイルにはとても合うことなんです。彼を模範にして、ダフニス役にとりくむつもりです。

Q:ダニエル・ビュランによる舞台装置について、どう思いましたか。

A:素晴らしいですね、あれは。舞台で踊っているとわからないのだけど、僕は『ダフニスとクロエ』の初回のリハーサルを会場で見ることができ、また公演のビデオでも見ていて・・ビュランが使用する透明なゼラチンの色と光の仕事がとにかくきれいですね。とてもコンテンポラリーでアブストラクト。唯一、黄色いサークルが太陽を思わせる、というだけ。もしかすると好き嫌いが分かれるかもしれない・・・。彼の作品は今パリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトンでも見られるのだけど、時間がとれずにいて、まだ見ていないんです。聞くところによると、光が色を反射させるので晴れた日に行くとすごくきれいなようですね。

Q:ラヴェルの音楽についてはいかがですか。

A:美しいけれど、とても難しい曲です。ラヴェルはクラシックな構成の枠を取り払って、少し自由をとりいれています。四拍子とか六拍子といったリズミックな音楽の構造からもはみだしています。だけどプロコフィエフのように表現にあわせてフレージングされているので、音楽が僕たちの動きを先導してくれるんですね。感動が難なくわいてきて・・つまり音楽がするべきことを教えてくれる、という曲です。

Q:年末公演では『白鳥の湖』でジークフリートを初役で踊りますね。

A:これは小さいときから踊りたいと夢見ていた作品です。ビデオで繰り返し見ていますし、また過去のオペラ座の公演ではパ・ド・トロワやマズルカを踊っているので、よく知っている作品といえます。ガラでも第二幕、第三幕のソロを踊ることもよくあるし。主役に配役されたのはコンクール前のことでした。スジェの僕がこれを踊れると知ったときは、とてもうれしかった。オーレリーはエトワールを配役すると宣言したように、今回も僕以外はヒエラルキーに沿ったものでした。だからこそ、これはぼくにはたいそう幸運なことで、それゆえに失望させるようなことがあってはいけない・・・コンクールが今回特にストレスだったのは、そういう背景があったのです。上層部の期待にふさわしい存在でなければ、というプレッシャーですね。『白鳥の湖』の主役を踊るんだ、自分はたった一人のスジェなんだ、というように考えていたら、ストレスが大きくなりすぎてしまって・・・。『白鳥』 ? OK !という感じに、考えることにしました。

pari1612b_08.jpg 『クリア、ラウド、ブライト、フォーワード』
photo Michel Lidvac

Q:ヌレエフによる『白鳥の湖』は技術的に難しい作品といわれています。

A:はい、簡単だとは言えません。それは確かなことですね。でも、小さい時から学校で実践していることの延長上・・・到達点にヌレエフのクラシシズム、彼の『白鳥の湖』があるのです。言い換えれば、僕たちのこれまでの人生でやってきたことのすべては、このジークフリート役のためと言えます。怠ることなくクラシック・バレエの仕事をしてきたのなら、ごく自然に踊れるものなんです。そして、僕はコンクールやガラで『白鳥の湖』の王子のヴァリエーションを踊っているし、バンジャマン・ペッシュのDVD(注:「パリ・オペラ座エトワールが教えるヴァリエーション・レッスン」)の中でも、この第3幕のヴァリエーションを踊ってもいますし・・・。

Q:2016年の夏は、バンジャマン・ペッシュが座長をつとめるエトワール・ガラに参加しましたね。

A:はい。おかげで、ソリストとして初めて日本で踊る機会が得られました。プログラムのAもBも、さらに両方の幕間後も含めて、開幕は偶然にも僕が踊る作品で・・公演初日のプログラムAで『グラン・パ・クラシック』を踊るときは、さすがに緊張しました。それはテクニックの問題ではなく、ローラ・エケと踊るということゆえにです。いえ、彼女は優しい女性ですよ。問題はエトワールと踊る、ということにありました。7月にオペラ・ガルニエでフォーサイスの『Blake Work1』の公演があり、それではエトワールのリュドミラ・パリエロとのパ・ド・ドゥがあったけえど、これはコンテンポラリー作品で、それに配役されている全員がオペラ座のヒエラルキーに関係なく踊るというものだったので。だからエトワールと踊ると言っても、ちょっと違います。スジェの僕がエトワールと踊る、ということにすっかり緊張してしまったんです。素晴らしいダンサーのローラがパートナーなのだから、自分も同じように素晴らしくなくては、というストレス。でも、こうした機会があるのは、とても、やる気をかきたてられることですね。エトワール・ガラでは何もかもが素晴らしくオーガナイズされていて、すべて順調に行きました。日本の観客は、ダンサーを温かに迎えてくれるし、バレエへの情熱に溢れていて・・・嬉しいことですね。エトワールたちに囲まれての舞台で、感動的な経験をしました。とても良い思い出として、心に残っています。

pari1612b_06.jpg 『Blake Work1』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
pari1612b_09.jpg 3eme Scène 『Ascension』James Sutton