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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2016.06.10]

すみずみにまで細やかな気持ちが込められていたジルベールとムンタギロフの『ジゼル』

Ballet de l’Opéra national de Paris  パリ・オペラ座バレエ団
"Giselle" Jean Coralli、Jules Perrot
『ジゼル』ジャン・コラリ、ジュール・ペロー:振付

バレエファン待望の『ジゼル』が5月28日から6月14日までガルニエ宮で上演されている。
5月28日のプルミエにはミリアム・ウルド=ブラームとマチュー・ガニオの二人が予定されていたが、当日になってアマンディーヌ・アルビッソンとステファン・ブリヨンに配役変更された。劇場内部で配布される配役表にもウルド=ブラームとガニオの名前が印刷されており、変更は直前になってからウルド=ブラームが体調を崩したためという。
幕が上がると山の上に城が見える渓谷の村があらわれた。アレクサンドル・ブノワによる装置はハインリッヒ・ハイネの「ドイツについて」に心を動かされて『ジゼル』の台本を書いた、フランスの作家テオフィル・ゴーチエの想像した悲劇の背景にふさわしい。ぶどうの収穫期の農民たちや貴族たちの衣装も、19世紀のロマン派の芸術家たちが夢見た中世のイメージにぴたりと重なっている。

pari1606a_05.jpg アルビッソン、ブリヨン
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff

アマンディーヌ・アルビッソンはきちんとした踊りと誠実な役への取り組みが感じられたものの、相手役のステファン・ブリヨンが能面のように無表情に見え、素っ気無い立ち振る舞いに感じられたために、「相思相愛」の仲は熱くは感じられず、客席から見ていて少し気の毒に思えた。それでも相愛の仲の青年が身分違いのアルブレヒトと知って呆然とし、それまでの明るいまなざしが瞬時にして一転するところから、母親の腕に抱かれて絶命するまでの場面ではヒロインの絶望が伝わってきた。アルビッソンは2014年にエトワールに昇進したばかりだけに、これから回を重ねることで役を深めていったもらいたいものだ。ブリヨンは昨シーズンも『白鳥の湖』のジークフリート王子をプルミエで踊ることになっていながら、「出来が不十分」という理由でミルピエ バレエ監督に別のダンサーに配役替えされている。今回も感情があまり表現されず、せっかくの美貌が生かされないままにカーテンコールを迎えてしまった。一所懸命な演技には熱がこもっていたものの傑出した出来とは言い難かったヴァンサン・シャイエの敵役ヒラリオンの方が、ジゼルを思っているように見えてはドラマが成り立たない。
霧が立ち込めた森を舞台にコール・ド・バレエが演じる妖精ウィリたちが舞うロマンチックな「白い幕」(アクト・ブラン)の典型とされている第2幕も、これといった盛り上がりのないままに終わってしまった。二幕を通じて客席が沸いたのが、第一幕でぶとう刈りの男女が踊るパ・ド・ドゥでフランソワ・アリュがいつもながら高い跳躍を見せた場面だけというのでは、オペラ座公演としてはちょっと寂しい。カーテンコールではオペラ座バレエ団の公演では今まで聞いたことがなかった、客席からブーイングが投げかけられた。

pari1606a_06.jpg アマンディーヌ・アルビッソン
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_08.jpg ステファン・ブリヨン
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff

6月2日にはドロテ・ジルベールと英国ロイヤル・バレエのロシア人ダンサー、ワディム・ムンタギロフが登場した。
ムンタギロフは舞台後方の斜面をマントを翻しながら駆け下りるところから、思いを寄せているジゼルを一刻も早く目にしたい、という熱い胸のうちが伝わってきた。すらりとした長身から相手に投げかけられる優しいまなざし。恋人の肩にそっと手をかけるさりげない仕草といった細部のすみずみに気持ちがそっと込められていた。これに応えてドロテ・ジルベールも熱い視線を返して、二人の気持ちがいかに触れ合っているかは客席からも明瞭に見て取れた。ムンタギロフは婚約者のバチルドがいながら身分違いのジゼルに首ったけ、という女性によっては「いい加減な男ね」と批判されかねないアルブレヒトを、恋に夢中なあまりに自分自身がしていることがわかっていない男性、として自然にさりげなく演じ切った。また第2幕では高い跳躍中の細やかなバットリー、有名なヴァリエーションでのアントルシャで卓越したテクニックを見せてくれた。ドロテ・ジルベールも手堅い技術と表情豊かな演技で客席から喝采されていたが、できれば第1幕でもう少し純粋無垢の病気がちな娘という詩的な感じがあったら申し分なかったろう。

pari1606a_01.jpg ドロテ・ジルベール(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_03.jpg ジルベール、ムンタギロフ (C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff

二晩ともミルタはヴァランティーヌ・コラサントでそつのない演技だったが、数多い妖精ウィリーの女王としての気品やオーラは感じられなかった。
いずれにせよ6月2日の公演はプルミエからは一転して緊迫感にみちた舞台となり、ダンサーたちに客席から惜しみのない拍手が送られていた。
(2016年5月28日プルミエ、6月2日 ガルニエ宮)

pari1606a_13.jpg シャルリーヌ・ギーゼンダンナー
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_14.jpg ギーゼンダンナー、アリュ
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_12.jpg ヴァランティーヌ・コラサント(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_02.jpg ワディム・ムンタギロフ
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_04.jpg アルビッソン、ブリヨン
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff
pari1606a_11.jpg ヴァンサン・シャイエ
(C) Opéra national de Paris / Svetlana Loboff

『ジゼル』2幕バレエ
リヴレット テオフィル・ゴーチエ、ジュール・アンリ=ヴェルノワ・ド・サンジョルジュ
音楽 アドルフ・アダン
振付 ジャン・コラリ、ジュール・ペロー:振付(1841年)
アダプテーション パトリス・バール、ウージェーヌ・ポリヤコフ
装置・衣装 アレクサンドル・ブノワ
コーン・ケッセルズ指揮 パリ音楽院優等賞受賞者管弦楽団
配役 (5月28日/6月2日)
ジゼル アマンディーヌ・アルビッソン/ドロテ・ジルベール
アルブレヒト ステファン・ブリヨン/ワディム・ムンタギロフ
ヒラリオン ヴァンサン・シャイエ
ヴィルフリート セバスチャン・ベルトー
ベルタ アネモーヌ・アルノー
クープランド大公 ギヨーム・シャルロ
バチルド ステファニー・ロンベルク
ペザントのパ・ド・ドゥ シャルリーヌ・ギーゼンダンナー/リディー・バレイユ、フランソワ・アリュ
ミルタ ヴァランティーヌ・コラサント