ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2015.01.13]

ユレルとマルシャンのフレッシュなコンビとなったパリ・オペラ座の『くるみ割り人形』

Ballet de l’Opera national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"Casse-Noisette" Rudolf Noureev 『くるみ割り人形』ルドルフ・ヌレエフ:振付

パリ・オペラ座バレエ団の年末のクラシック・バレエは、11月26日の初日から12月31日の最終日まで実に21公演のロングランだった。事前に予想されたことだが、ダンサーに怪我人が続いて出た結果として、キャストはしばしば変更された。筆者が見た12月10日も当初、クララ役にドロテ・ジルベール、マチュー・ガニオの王子という初日と同じエトワールカップルが予定されていたが、会場に着いてみるとメラニー・ユレルのクララに12月3日の昇級試験でスジェに昇進したばかりのユゴー・マルシャンに代わっていた。
パリ・オペラ座バレエ団の『くるみ割り人形』上演は2009年以来5年ぶりになる。その時に見たのはミリアム・ウールド=ブラーム(クララ)とニコライ・ツィスカリーゼ(ドロッセルマイヤー/王子)という組合せだった。(Dance Cube2010年1月号をごらんください)

バスチーユオペラの座席に着くと、すぐ目の前に大きなくるみ割り人形を抱き、かわいらしいドレスに身を包んだ金髪の少女が母親と座っていた。その一列前も同じように着飾った母と娘で、クリスマス公演らしい雰囲気が開演前から周囲に漂っていた。

pari1501_13.jpg メラニー・ユレル、ユゴー・マルシャン
(C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

幕が上がると20世紀初頭のヨーロッパのとある町の街頭が姿をあらわした。この光のないヨーロッパならではの冬の夜の闇が、第2場のシュタールバウム家のクリスマスの夜会の華やぎと好対照をなしている。一方、この漆黒の夜が常に明るい部屋やヒロインのクララの胸の中にも忍び込んでくるところに、この物語の原作者であるE.T.A.ホフマンの特徴がある。ニコラス・ジョージアディスによる趣味のよい装置はこの対比を明瞭に表現している。
2003年にプルミエール・ダンスーズに昇級したメラニー・ユレルを主役で見るのは始めてだ。夜会のはじめには硬さが感じられたのは、エトワールのドロテ・ジルベールの代役として、この夜急遽踊ることになったことの当然のプレッシャーだったろう。(11月26日の初日から29日夜、12月3日と7日の合計4回踊ったジルベール/ガニオの組合せは、ジルベールの怪我により年末まで予定されていた舞台はすべてキャンセルされた)
しかし、メラニー・ユレルは夜会が進むにつれて、心もとなげな視線や周囲大人たちの輪から身を引く所作によって、その心が別の世界に遊んでいることをはっきりと見せた。この作品では現実と夢とが交互に現れるのが普通だが、ユレルの演技は現実にあってもすでに夢の世界に入り込んでいるようだった。
ユゴー・マルシャンは対照的に大柄なエネルギーあふれる若手ダンサーだ。最初の通りの場面でも不気味な感じはなく、やさしい男性という印象が強い。ユレルとのパ・ド・ドゥでは大きな身長差がわざわいしたのためか何度か危うい場面があったが、ソロの場面で切れ味のよい踊りを見せただけでなく、少女の憧れの王子らしい気品を備えていた。
影のあるドロッセルマイヤーと優雅な王子の二人を一人のダンサーに演じさせることで、一人の男性が持つ二面性を描きだそうとしたヌレエフの意図とはかなり異なっているものの、ほのぼのとした童話の世界を思わせる無邪気なカップル像をこの二人が描き出していたことは間違いない。回を重ねれば理想的なカップルに近づいていくだろう。
第1幕第5場のコール・ド・バレエによる雪の精の優美な舞いは衣装の魅力もあって何度見ても目を奪われた。第2幕第3場でアラビアダンスを官能性たっぷりに踊ったファニー・ゴルスにも観客から大きな拍手が送られた。
今回はオーケストラピットにパリ・オペラ座管弦楽団が入り、チャイコフスキーの音楽の魅力を余すことなく聞かせてくれたことも、舞台に花を添えていた。
(2014年12月10日 バスチーユオペラ)

pari1501_05.jpg pari1501_07.jpg
pari1501_03.jpg 『くるみ割り人形』(C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé(すべて)

『くるみ割り人形』
音 楽 チャイコフスキー
振付・演出 ルドルフ・ヌレエフ(1985年12月19日パリ・オペラ座 プルミエ)
原振付 マリウス・プティパ、レフ・イワノフ
装置・衣装 ニコラス・ジョージアディス
ケヴィン・ローデス指揮パリ国立オペラ座管弦楽団
<配 役>
クララ:メラニー・ユレル
ドロッセルマイヤー/王子:ユゴー・マルシャン
ルイーズ:カロリーヌ・ロベール
フリッツ:ダニエル・ストークス
父:ブリュノー・ブーシェ
母:ローランス・ラフォン
祖父:アレクシス・サラミット
祖母:カリーヌ・ヴィラグラッサ
アラビアン・ダンス:ファニー・ゴルス ミカエル・ラフォン
中国ダンス:シリル・ミティリアン アドリアン・クーヴェーズ シモン・ヴァラストロ
パストラール:セヴリーヌ・ヴェスターマン オーベーヌ・フィリベール フロリモン・ロリユー
招待客の子供たち・兵士たち・ねずみたち:パリ・オペラ座バレエ学校生徒
雪の精:クリステル・グラニエ  レテシィア・ガローニ
スペインダンス:カロリーヌ・ロベール ダニエル・ストークス ミリアム・カミオンカ