ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2014.06.10]

デュポン、モロー、アバニャートが鮮烈に踊ったミルピエ振付の『ダフニスとクロエ』世界初演

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
George Balanchine "Le Palais de cristal"『水晶宮』ジョージ・バランシン:振付
/Benjamin Millepied ”Daphnis et Chloé”『ダフニスとクロエ』バンジャマン・ミルピエ:振付 世界初演

5月のパリ・オペラ座バレエ公演は、バスチーユオペラでジョージ・バランシンが第2次大戦直後にパリ・オペラ座のために振付けた『水晶宮』と、来シーズンから舞踊監督に就任するバンジャマン・ミルピエ振付の『ダフニスとクロエ』の世界初演との組み合わせだった。
5月21日の第5回公演を見た。(プルミエは5月10日)前の列にドロテ・ジルベールとマチアス・エイマン、もう少し前の列には元エトワールのファニー・ガイダ、エリザベット・モーラン、モニク・ルディエールが隣り合って並び、平土間中央の貴賓席にはジョン・ノイマイヤーの姿も見られた。

pari1406a2_03.jpg (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

前半の『水晶宮』はビゼーが18歳で作曲した『交響曲ハ長調』の4つの楽章構成(アレヴロ・ヴィーヴォ、アダージョ、アレグロ・ヴィヴァーチェ、アレグロ・ヴィヴァーチェ)に忠実に振付けられている。
背景の青のスクリーンに今回新たにクリスチャン・ラクロワがデザインしたルビー、サファイヤ、エメラルド、ダイヤを表す、まばゆいカラーのチュチュが4つの楽章を際立たせていた。(ラクロワはすでにバランシンの『ジュエリー』の衣装も手がけている)
中央に主役カップル、その左右脇に二組のソロカップル、その背後に8人の女性が並んで全体として扇形となり、モーツアルトやメンデルスゾーンをちょっと思わせる若々しい曲想に乗って、さまざまなヴァリエーションが展開される。第4楽章後半は4組全員が一堂に会して、実に華やかなフィナーレとなった。バラシンシンの振付はどの作品でも音楽にぴたりと寄り添って、一人一人のダンサーの身体がくっきりと、実にきれいに映えて見えるのに改めて目を奪われた。主役ではエトワールに昇進したばかりのアマンディーヌ・アルビッソンの晴れやかな姿(第1楽章)、カール・パケットの安定したリフトに支えられたリュドミラ・パリエロののびやかな肢体(第2楽章)、優雅な動きのピエール・アルチュール・ラヴォー(第3楽章)が印象に残った。 

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pari1406a2_08.jpg 『水晶宮』Photos : (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney
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(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

休憩後はいよいよ世界初演のバンジャマン・ミルピエ作品である。『ダフニスとクロエ』は、エーゲ海に浮かぶレスボス島を舞台に、少年少女の牧歌的な恋愛を古代ギリシャの作家ロンゴスが描いたもの。ヨーロッパだけでなく、世界的に知られている物語にバレエ・リュスを率いていたディアギレフが目をつけ、作曲をラヴェルに依頼し、1912年、ミハイル・フォーキンの振付でニジンスキーとカルサヴィナが踊っている。
今回の世界初演にあたってパリ・オペラ座は総力を動員した。オーケストラピットには音楽監督のフィリップ・ジョルダン指揮のパリ・オペラ座管弦楽団と合唱団が入り、パレ・ロワイヤルに設置されたコンセプト・アートで賛否両論を呼んだダニエル・ビュレンが装置を担当した。ビュレンは青、赤、黄といった色の円や菱形、正方形を天井から吊り下げた。ギリシャの牧場の緑、太陽の黄色、地中海や空の青、と抽象的な色彩の組み合わせによって各場面の雰囲気が暗示されるとともに、ダンサーの身体がくっきりと浮かび上がった。装置が煩瑣でないために場面転換が円滑に行われた点も見逃せない。
この新作の製作に当たって次期舞踊監督のミルピエと音楽監督のフィリップ・ジョルダンという、30歳代の好奇心にあふれる二人が一体となって作業した意味は大きい。これからのパリ・オペラ座の両輪がかみあえば、バレエ公演に新たな展望が開ける。ジョルダンはラヴェルの曲が『ダフニスとクロエ』の物語を楽器の音楽を巧みに利用して、映画音楽のようにまざまざと表現していることをミルピエに伝え、物語の展開がどの観客にもわかりやすいような振付となるように助言したという。

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『ダフニスとクロエ』Photos : (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

当夜5人の主要人物を踊ったダンサーは、いずれも役柄にぴったりと合っていた。羊飼いダフニス役エルヴェ・モローは視線だけとっても、恋人クロエが誘拐された場面での不安、再会後に相手を包み込む柔らかなまなざしなどで、恋する若者の焦燥と愛情をあますことなく表現していた。アレッシオ・カルボーネのヒロインに横恋慕する牛飼いドルコンも、刺すように鋭い視線とで強烈な嫉妬と欲望を燃え立たせた。まとわりつくようなまなざしと物腰でダフニスを誘惑しようとするエレオノーラ・アバニャートの妖艶さは、清潔感の漂う優雅なオーレリー・デュポンのヒロインと対照的だった。昨年秋の昇級試験でプルミエ・ダンスールとなったフランソワ・アリュが、海賊の頭ブリアクシス役で見せたピルエットと跳躍に客席が沸いたことも忘れられない。
最後はパステルカラーの衣装をまとった群舞のバッカス神の踊りで、結ばれたダフニスとクロエを称える色鮮やかな大団円となった。この世界初演の成功はフランスだけでなく欧米のメディアから広く報じされ、バンジャマン・ミルピエ次期舞踊監督による新時代への期待が大きくふくらんだ。
(2014年5月21日 ガルニエ宮 ※『水晶宮』の写真は取材日とは 異なります

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pari1406a1_11.jpg 『ダフニスとクロエ』Photos : (C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

Le Palais du cristal『水晶宮』
音 楽 ジョルジュ・ビゼー『交響曲ハ長調』1855年
振 付 ジョージ・バランシン(1947年)
照 明 マジッド・ハキミ
リハーサル指導 コリーン・ニーアリ
配 役:
第1楽章
アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ
第2楽章
リュドミラ・パリエロ、カール・パケット
第3楽章
ヴァランティーヌ・コラサント、ピエール・アルチュール・ラヴォー
第4楽章
ノルヴェン・ダニエル、エマニュエル・ティボー

Daphnis et Chloé『ダフニスとクロエ』
音 楽 モーリス・ラヴェル 1912年
振 付 バンジャマン・ミルピエ
装 置 ダニエル・ビュレン
衣 装 ホリー・ハイネス
照 明 マジッド・ハキミ
配 役:
クロエ オーレリー・デュポン
ダフニス エルヴェ・モロー
リセニオン エレオノーラ・アバニャート
ドルコン アレッシオ・カルボーネ
ブリャクシス フランソワ・アリュ
フィリップ・ジョルダン指揮パリ国立オペラ座管弦楽団
合唱指揮 アレッサンドロ・ステファノ