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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
Text by Mariko OMURA 
[2014.02.10]

オペラ座ダンサー・インタビュー : エヴ・グリンシュタイン

Eve Grinsztajn エヴ・グリンシュタイン(プルミエール・ダンスーズ)
2月はオペラ座で『オネーギン』のオルガ役と、『令嬢ジュリー』のヒロイン役。その後、3月の日本公演に参加し、『椿姫』でオランピア役とマノン役を踊る。昨年9月のガルニエ宮での公演でも、好評を博したこの二役。作品に深みを与える彼女のマノンは、とりわけ見応えがある。発音がいささか難しい名前だが、彼女のマノンを見る日本のダンスファンにとって忘れがたいものとなるだろう。

DVD『椿姫』で男から男へと誘惑的な視線を投げかける、若く美しい高級娼婦オランピアを演じる彼女をみることができる。こんな彼女を実の舞台で見るのも楽しみだが、なんといっても見逃せないのは彼女が踊るマノンだろう。この役を踊るために生まれてきたダンサーか、という気にさせられる。それも彼女のアーティストとしての幅広さゆえ。実際、ロビンズ作品を踊る彼女も捨てがたいのだから。知性が瞳に輝く、どこかミステリアスな美女。彼女は来日を今から心待ちしている。『オネーギン』のゲネプロまで後わずかという多忙なスケジュールの合間を縫って、大好きな日本のためにとインタビューの時間をとってくれた。

pari1402b_01.jpg 『眠れる森の美女』
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:もうじき『オネーギン』の公演が始まりますね。オルガ役は今回が初めてですか。
A:いいえ、今回で3度目。2009年のオペラ座の初演から踊っています。この役、とても好きですよ。物語は悲しい終わりかたをするけれど、オルガの役はとても陽気で‥‥。過去2回はオードリック・ブザールがパートナーだったけど、今回はフローリアン・マニュネと踊るんです。

Q:パートナーが変わることで、自分の役作りに変調が生じたりしますか。
A:いいえ。オードリックもフローリアンも素晴らしいパートナー。相手への気配りという点でも、素晴らしい2人です。フローリアンと今回一緒に仕事をできる機会が得られたことは、とても幸運だわ。彼も私の意見に耳を傾けてくれるし、パートナーにとても気を配る人なのよ。そういう相手との間には、信頼関係が築けますね。

Q:以前、演劇のクラスに通っていたと思いますが、演じる部分の多い役に興味があるということでしょうか。
A:オペラ座での仕事との関係で時間的に難しくて、演劇学校に通うのは諦めました。もちろん、 演じることは好きよ。例えばオルガの役のように、バレエが振付けられた当時のものに忠実でなくてはならず、コード化していてる役でも、ちょっとばかりは自由にできる部分があるの。ダンスで私が好きなことって、このように振付けがきっちりと決められて守られている場合でも、自分自身である方法をみつけるチャレンジをすることなの。何か自分らしさをプラスする、という。クラシック・バレエにおいて、これが私がすごく面白いと思うところ。それはヌレエフ作品を始め、あらゆるクラシック・バレエにいえることですね。

pari1402b_06.jpg 『椿姫』photo Michel Lidvac

Q:『オネーギン』では、いつかタチアナ役を踊ってみたいと思いますか。
A:もちろんよ。実現するかはわからないけど、いつかは、と夢にみるわ。でも、それはオルガより人物が面白い、という意味ではないのよ。タチアナという役で出来ることがたくさんあるからよ。オルガはプーシキンの原作ではあまり多く語られていません。だからこそ、できることがあるのだけど・・・。タチアナは原作の中でとても上手く描かれていていますね。この役の演劇的な面は、私が好むところのものだわ。それって『椿姫』のマノン役にもいえること。

Q:役作りはどのようにしますか。
A:本を読み、DVDをみて・・・あらゆることをします。なぜって、その役についてのイメージが必要なので。そうして得たイメージが私のステップに無意識にこめられることで、観客も私が踊る役から感じとれるものがあるようにと願っています。ジョンのバレエ『椿姫』では、マノンはマルグリットの投影として登場します。だから『椿姫』だけでなく、マノンを主人公にした小説『マノン・レスコー』も読んで、彼女の人生を生き、イメージを得ました。こうして自分を培うと、それが無意識に私のダンスにとけ込むというわけです。演じる役所に、より深い浮き彫りを与えられるんです。今、稽古している『令嬢ジュリー』もこれが当てはまる大きな例ですね。

Q:デュマ・フィスが書いた『椿姫』の原作では、マノンは登場しませんね。
A:原作でのマノンの存在は、アルマンが献辞を書いてマルグリットに贈る本でしかありません。ジョン(ノイマイヤー)の仕事の凄いところは、そのマノンをマルグリットに投影したことよ。

Q:『椿姫』ではマノンの登場は、2つのタイプがありますね。
A:そうです。劇中劇のヒロインとして舞台に、そして、マルグリットのヴィジョンの中に、と。舞台でのマノンは劇場の演目ですから、踊りや演技にも誇張があります。でも、マルグリットの悪夢の中に登場するときは、よりリアルで、より人間的。だからこそ、この役を踊るのが面白いの。登場シーンによって踊り方も異なっていて、3幕目のマノンのソロはそれまでと違って、彼女の心の秘めた部分を感じさせるもので素晴らしいわ。

pari1402b_07.jpg 『椿姫』photo Michel Lidvac

Q:バレエ『椿姫』を初めて見る人には、このバレエのマノンの存在を理解するのは難しいかもしれませんね。簡単に説明してもらえますか。
A:第1幕ではマルグリットとアルマンが見る劇場の演目が『マノン・レスコー』です。原作では2人が見るのはオペラですけど。この時のマノンは、舞台の中の登場人物であり、またマルグリットの頭の中の存在でもあると、という交替があります。舞台の中のマノンを見ているうちに、自分の未来をマルグリットはマノンに予見するわけですね。第2幕はマルグリットの悪夢の中のマノンで、彼女自身の不吉な面の投影なんです。宝石をみせつけたり、所詮金で買える女であるという、マルグリットが拒否したい面をマノンが強調してみせるの。マルグリットにとって その姿はかつては彼女もそうだったけど、今やそうはありたくないと思う自分なのね。マノンが登場する時の音楽って、他がコンチェルトのようなタイプなのに対して、ノクターンとかそういった曲なので、コントラストがつけられているのよ。

Q:不安をかきたてるようなショパンの音楽に乗ってマノンが出てくると、舞台の上から彼女の姿が消えて欲しい、って思ってしまいます。
A:そうなのよ、まさにマルグリットはそう言ってるの。自分の中のマノンを追い出したい、そう思ってるのよ。この二重性。それがマルグリットの存在の難しさなのよ。

pari1402b_03.jpg 『天井桟敷の人々』オーレリアン・ウェットと
Photo Julien Benhamou / Opéra national de Paris

Q:3度目に登場するのは、第3幕ですね。
A:マルグリットのヴィジョンの中ですね。ここにきて、それまでのマノンとマルグリットの間の反発が消えて、2人は1人になりはじめるのだってジョンは説明してくれました。2人が1人になって、同じ運命にたどりつくのよ。ここでのマノンのソロ、素晴らしいわ。次に登場するのは再び劇場の出し物の中で。 デ・グリューと死に近づくマノンのパ・ド・ドゥです。これはマルグリットが迎えようとする辛い終焉の予告です。最後の出現は、マルグリットの死に、マノンとデグリューが寄り添うというシーンです。マノンというアルマンからの象徴的な贈り物が、最後の最後までマルグリットに付き添うというわけです。

Q:『椿姫』ではマノン役だけではなく、オランピア役も踊っていますね。
A:マノンとはまったく別ね、この役は。オランピアって嫌な女よね。デュマ・フィスの原作では彼女のことがあまり描かれてないので、私なりのニュアンスをオランピアに与えることができるの。オランピアの踊りはマノンのとまったく異なるのよ。身振りもまったく別。これまた面白いわ。私、筋肉面でのテクニックを完全にマスターすることによって、こうした踊りの違いに対応できるように心がけているの。
例えばマノンのソロは、フロワー・ワークやコントロールを先に準備しておく必要があるの。

Q:原作によると、オランピアは見た目に美しい女性のようですね。
A:そう、彼女って、男性がぱっとみだだけで欲しくなるような女性なの。一方、マルグリットやマノンというのは、男性にとって得るためには努力が必要な女性。オランピアは手に入れやすい女性だけど、あいにくと男性の興味を長くひきつけておくことはできないの。舞台でもアルマンとの関係でそれがわかるでしょ。『オネーギン』のオルガも、ちょっとオランピア的といえるわね。こうして考えてみると、オルガもオランピアもヒロインの嫉妬をかきたてるために利用されてて・・・これって、あまり感じが良くないわね(笑)。でも、2人ともそういうこと、どうでもいいのね。こうしたことで傷つく女性たちじゃないのよ。

pari1402b_05.jpg 『アゴン』ステファン・ビュリオンと
Photos Sébastien Mathé /Opéra national de Paris

Q:マノンを踊ることについて特別な思いはありますか。
A:この役を踊ることで、深い感動を得られます。私がプルミエール・ダンスーズに上がってすぐにもらった役で、ある意味、私のキャリアにずっと付き添っている、という感じがあります。登場時間が毎回短く、また舞台と舞台の間の時間が長いことが難なのだけど...。5回の登場で私が見せる感情面がどれも大きく異なっていて、人物が成長してゆくのを短い時間に見せられることが素晴らしいと思う。これこそが女優的仕事の面白いところだわ。1人の人物であるマノンが呈するさまざまな感情!

Q:毎回異なる感情をもって登場するために、心の中でいろいろ思ってから舞台に出るのですか。
A:いいえ、この作品は振付けがよくできてることもあるけれど・・・。自分が舞台にでてないときも音楽に身をまかせて、マルグリットの心の動きに添っているのね。ピアノの音に浸りきって・・。私、音楽を聞いて、一種密室にはいったようになっていて、それから男性たちやマルグリットがいる舞台に出てゆくの。照明の中に入るや、すっとマノンになりきれてしまうの。この作品、照明も素晴らしく考えられているのよ。いえ、照明だけじゃなくって、音楽も衣装も舞台装置も素晴らしい。何もかもが宝石のような作品ね。マルグリット役は代役として稽古はしたけれど、まだ舞台で実際に踊ったことはないの。でも、何度も見てるので、この役についてはよく知ってるわ。

Q:東京公演のマノンのパートナーは誰ですか。
A:今のところの予定では、ヴァンサン・シャイエと踊ることになっています。これまで長いことクリストフ・デュケンヌが私のデ・グリューだったの。とても気を使ってくれるパートナーで、決して自分を前に出そうというようなこともしないダンサーなんです。彼とは他の作品も一緒のことも多くって・・・。パートナーとの関係はとても大切。ハーモニーを築き、エモーションを共に醸し出す相手なのだから。

pari1402b_02.jpg 『ダンシーズ・アット・ザ・ギャザリング』
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:今後踊ってみたい作品というのは何でしょうか
A:キャリアを重ねるうちに、何にでも興味が湧くようになったのよ。以前は、これは私のじゃないわ、と思ったものも、チャレンジによって、技術的にも自問する機会となって・・。分析しなくてはならないことに自分が追い込まれるでしょう。これがいいの。といっても、傷ついたり、苦しんだりという悲劇的な女性役には誰もと同じように惹かれるのはもちろんよ。でも、バランシンの『アゴン』のように、抽象的で当時にしてはとてもコンテンポラリーで、ひたすらフィジカルな作品でもすごく楽しめたことも確かなの。ステファン・ブリヨンと初めて組んで、ということもあったし。常に何かしら発見があるものなの。それにバランシンの振付なので、フェミニティには欠けてなかったし・・・。ロビンズの作品も私は大ファンよ。振付も素晴らしいし、それに彼の音楽が好きなの。『アザー・ダンス』『ダンシーズ・アット・ザ・ギャザリング』『コンチェルト』・・・・音楽は踊るうえで私にとっては、共鳴という点でとても大切な要素。今、稽古をしている『令嬢ジュリー』の音楽も好き。音楽に推される感じがあるの。そうそう、『優しい嘘』でキリアンと仕事をできたことは、とっても幸運だったわ。この音楽も素晴らしかった。
『ジゼル』やヌレエフの『ロメオとジュリエット』も踊れたらうれしいでしょうね。

Q:新芸術監督ミルピエが来ることでオペラ座のレパートリーはどう変わるのでしょうか。どういった変化を期待していますか。
A:難しい質問だわ。私、何も期待しないわ。今の私の生き方は、何も期待しないことなの。それは、驚かされたり、感嘆されられたりするためになのよ。私たちオペラ座のダンサーってこうしたことを忘れがちだけど、すごく幸運なのだということを認識するために。私、地に足をしっかりつけておきつつ、ああ、この作品を踊れるって何って幸せなことだろう、というように思いたいから。
ミルピエのことは、好きですよ。2006年に彼がオペラ座バレエ団に『アモヴェオ』を創作したときに、一緒に仕事をしています。私、その時はスジェで、あまり配役に恵まれていない時期だったの、正直に言ってしまうとね。だから、どうやったら前進することができるのかしらって、自分のアイデンティティという点で、いささか迷いがあった時期だったの。そんな時、『アモヴェオ』で彼がドゥミソリストに選んでくれて、一種の始動装置的役割をはたしてくれて・・・期待してないときに、何かが起きるものなのね。けっこう時間をかけて、彼とアトリエ的な仕事をしました。そのとき生まれた動きのすべてがバレエに使われたわけではないけれど...。この時に彼から得た信頼に、私はとても感謝してるのよ。この公演の後で私、プルミエール・ダンスーズに上がれたんです。

pari1402b_04.jpg 『アゴン』ステファン・ビュリオンと
Photos Sébastien Mathé /Opéra national de Paris

<10のショート・ショート>
1. プティペール:パスカル・オーバン
2. プティットメール:フランソワーズ・ルグレ
3. 時間があったらすること:友達と過ごす、映画や劇場に行く、和食を食べる
4. 好きな香り: オレンジの花、ジャスミン
5. 好みの色:ルビーレッド、ナイトブルー
6. ダンス以外に考えられる職業:医者
7. コレクション:旅、口紅、本
8. 最近感動させられたこと:ボーイフレンドの優しい言葉や励ましの言葉。ストリンドベリの『令嬢ジュリー』の再読
9. 時間があったらしたいこと:旅行
10. 東京でしたいこと:特別なあてなしに街を散歩