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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2014.01.10]

男と女の身体がモーツァルトの音楽に溶解するプレルジョカージュの『ル・パルク』

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Angelin Preljocaj "Le Parc"
『ル・パルク(庭園)』アンジェラン・プレルジョカージュ:振付

12月のガルニエ宮ではアンジェラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』(庭園)が上演された。1994年にプレルジョカージュが初めてパリ・オペラ座バレエ団のために制作したこの作品は、今回20回の公演で通算100公演を超えることになった。

pari1401b_01.jpg ニコラ・ル・リッシュ
(C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

2009年3月にマニュエル・ルグリとオーレリー・デュポンの主役カップルで見た夜の衝撃は未だに忘れられない。今回は第1キャストが11月の勅使河原作品『黒馬は闇を隠す』での怪我から復帰したニコラ・ル・リッシュとオーレリー・デュポンだった。
2014年7月9日ニコラ・ル・リッシュのさよなら公演まで半年ちょっと、オーレリー・デュポンも来シーズンで引退するだけに、この二人の競演が見られるのも残りわずかな期間だ。

18世紀のフランス庭園で貴族の男と女の感情の道行きを辿りながら、現代における恋愛を問い返そうとした作品そのものについては、2009年4月のDance Cubeの記事をご覧いただきたい。今回、改めて感じたのは、振付家が18世紀の精神も最も直裁に表現したモーツアルトの音楽をいかに効果的に使っているかということだった。
3つの幕の最後に置かれたパ・ド・ドゥで流れるのは「男と女の出会い」(第1幕)では、ピアノ協奏曲第14番の「アンダンティーノ」(K.449)のピアノのソロとなる楽想で、一目惚れにも関わらず、恋愛遊戯に慣れた貴族が相手に対して距離を置き、ためらいがちに振舞うのとぴたりと重なっている。パ・ド・ドゥでありながら、ル・リッシュの手はデュポンの腕、それに靴とくるぶしに微かに触れるだけで(そのたびにデュポンは身を引く)、二人は平行に、あるいは背を向け合って踊る。互いを強烈に意識しがら視線も中々交差しない。

pari1401b_02.jpg オーレリー・デュポン
(C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

第2幕のパ・ド・ドゥは二人が次第に感情に身をゆだねていく夕暮れの場面だ。ピアノ協奏曲第15番(K.450)のアンダンティーノで男(ル・リッシュ)はピアノのソロに合わせて動くのに対し、女(デュポン)はオーボエのソロに導かれた動きを見せる。しかし、この二つの楽器の旋律が重ならないように、男と女も一体となることはない。女の方から男に歩みよって男の身体にやさしく触れる。こうして欲望を呼び覚まされた男が激しく迫り、女を4度抱き上げるが、いったん地面に崩れ落ちた女は立ち上がって額を男の胸に打ち付ける。男が後ずさりし、当惑した表情を見せるところで冷ややかに背を向けて女が立ち去り幕となる。
この最後の抵抗の後、第3幕では闇が降りてきて、二人を隔てていた見えない壁が取り払われる。四人の庭師にリフトされ夜着一枚となって男の前に運ばれてきた女は、甘美そのもののピアノ協奏曲第23番(K.488)「アダージョ」の旋律に乗り、感情の流れるままに男の身体に身を委ねる。女の方から男の首に腕を巻いての濃密な接吻、ここで木管楽器の流麗な旋律とともに男の身体を軸に唇をかさねたまま女が空中を旋回するところは、この作品のハイライトだろう。
ル・リッシュの野性味のある身体と女性らしい気品にあふれるデュポンとのカップルの陶酔感が、舞台から客席まで静かに広がっていった。
すでにニュースでお伝えしたが、この作品の12月20日公演で主役の女を演じたアリス・ルナヴァン(33歳)がエトワールに昇格した。
この夜の模様はパリ国立オペラ座の公式サイトで見ることができる。
http://www.operadeparis.fr/blogopera/alice-renavand-nommee-danseuse-etoile
(2013年12月7日 ガルニエ宮)

pari1401b_05.jpg (C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney pari1401b_06.jpg (C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney pari1401b_21.jpg (C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney
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pari1401b_07.jpg (C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney pari1401b_08.jpg (C)Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

Le Parc『ル・パルク(庭園)』
音楽 モーツアルト(弦楽とピアノのための作品抜粋)
音響クリエーション ゴラン・ヴェィヴォダ
振付 アンジェラン・プレルジョカージュ (パリ・オペラ座、1994年)
装置 チェリー・ルプルースト
衣装 エルヴェ・ピエール
照明 ジャック・シャトレ
配役
オーレリー・デュポン、ニコラ・ル・リッシュ
庭師 マロリー・ゴーディオン、シモン・ヴァラストロ、アドリアン・ボデ、アドリアン・クヴェ 他
パリ・オペラ座バレエ団
コーン・ケッセルズ指揮 パリ室内管弦楽団
ピアノ エレナ・ボネ