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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2014.01.10]

オーロラに扮したミリアム・ウルド=ブラームの初々しく品のある誇り高い踊り

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Rudolf Noureev "La Belle Au Bois Dormant" Chorégraphie et mise en scène d’après Marius Petipa
『眠れる森の美女』ルドルフ・ヌレエフ:振付、マリウス・プティパ:原振付

今年のパリ・オペラ座バレエ団のクリスマス公演は『眠れる森の美女』だった。12月4日のプルミエから1月4日の千秋楽まで23公演のロングランである。
クリスマス前の23日にプルミエの日のキャストであるエレオノーラ・アバニャートとマチュー・ガニオを見るつもりだったが、アバニャートが4日、7日、11日の三回踊っただけで怪我で降板し、リュドミラ・パリエロとジョシュア・オフェルトに変更になっていた。当日、バスチーユ・オペラに入って配役表を見ると、アマンディーヌ・アルビッソンとフロリアン・マニュネとなっていた。(パリエロとオファルトはその後も踊っているので、配役変更の理由は不明である)アルビッソンは11月の昇級試験で2014年1月1日付けでのプルミエール・ダンスーズ昇進を決め、12月21、23、27日と三回主役に起用された。
25日は予定通り、ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンのカップルという映画館で同時上映された組み合わせだった。

pari1401a_01.jpg (C)Opéra national de Paris/Sébastien Mathé

オーケストラの演奏が始まって前幕が上がると白百合の紋章がある王朝風の中幕が現れた。フランスのブルボン王家の紋章である。この中幕が引き上げられると、左右に装飾された円柱が並び、18世紀のロココ絵画にインスピレーションを受けたエジオ・フリジェイオの豪華かつ趣味のよい装置が広いバスチーユの舞台に広がった。
プロローグのゆりかごの場面(洗礼の場)は太陽王ルイ14世に招かれ、ヴェルサイユ宮殿の室内装飾やリュリ作曲のオペラの衣装を考案したジャン・ベラン(1640・1711)の衣装がもとになっている。『眠れる森の美女』の原作者シャルル・ペロー(1628・1703)の同時代人であるだけに、舞台を見ていると当時のフランス宮廷の雰囲気が明瞭に伝わってくる。
フロレスタン王と貴族たちの入場に続いて妖精たちが登場し、6つのヴァリエーションとなった。姫に贈り物を約束する妖精たちにもともとあった名前がヌレエフ版ではなく、リラの精が踊らないマイム役になっている。1月からプルミエール・ダンスーズとなるアマンディーヌ・アルビッソン(25日、第3ヴァリエーション)、スジェのサブリナ・マレム(23日、第5ヴァリエーション)、1月にスジェ昇進するセ・ウン・パク(25日、第2ヴァリエーション)といったこれからが期待される若手たちの競演となった。

pari1401a_03.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé

続いて、洗礼式に招待されていなかったカラボス妖精が雷光とともに自分と同じ濃紺色の怪獣たちを従えて登場すると周囲が暗くなり、善のリラの精との対決が始まった。ヴィニチオ・ケリの照明は登場人物の性格と場面に応じて微妙に明暗が変わり、特にカラボスとリラの精の対照的な性格を闇と光によって明瞭に見せてくれた。ステファニー・ロンベルクの扮するカラボスの顔の赤いメークは歌舞伎の隈取を思わせ、不気味なマイムの仕草も加わり、周囲の子供たちは思わず両親の手を握っていた。ジュリエット・ゲルネーズも優しい落ち着きのある演技で生命を源としてのリラの精にふさわしかった。
「オーロラ姫が指に傷を受けて死にはしないが、眠りにおちる」という預言がなされてから16年の歳月が流れ、第1幕「呪い」が宮殿の門の前で始まった。ここでもカラボスが登場して、紡ぎ棒を農民の女三人に与えて、物語の影の主役であることが改めて示されていた。
求婚の場面では、最後に現れる姫への期待が高まるが、その緊迫感の行方は二晩で全く違っていた。アマンディーヌ・アルビッソンにはあふれるような若さとすがすがしさがあり、振付もきちんとこなしていたが、初めて大きな役を委ねられた緊張からか、硬さが感じられた。これから舞台を重ねるに連れて素敵なヒロインになりそうだ。

pari1401a_05.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé

一方、ミリアム・ウルド=ブラームが姿を見せた途端、周囲にぱっと柔らかな春の日差しが射した。初々しいあどけなさを残しながら、あくまでもしなやかな、品のある誇りに満ちた自然な動きに観客は息を呑んだ。優しい影のない視線はオーロラ(フランス語のオーロール「あけぼの」)という名前にぴったりだ。技術を見せびらかすのではなく、身体とまなざし、表情でオーロラ姫をあらわしてくれた。バランスがむずかしいローズ・アダージョでも安定した演技を見せた。こうしたてらいのない優雅さはパリ・オペラ座のエトワールにふさわしい。
パートナー役のデジレ王子は、23日はフロリアン・マニュネがはつらつとした演技でアルビッソンのオーロラ姫とつりあったカップルだった。25日はマチアス・エイマン。ほとばしるようなエネルギー、高い跳躍と切れ味のよい動きに客席が沸いた。これにエルヴェ・モローやマチュー・ガニオの気品が加味されたら、というのはないものねだりだろうか。
第3幕の婚礼に招待された宝石の精と御伽噺の人物たちのヴァリエーションを踊った若手たちの競演も見ごたえがあった。中でもピエール・アルチュール・ラヴォー(宝石の精の頭)、フランソワ・アリュ(青い鳥)、八菜・オニール(ルビーの精)は特に拍手を集めた。長靴を履いた猫と白猫のユーモラスなパ・ド・キャラクテールが子供たちだけでなく大人からも喝采されていたのは言うまでもない。
コール・ド・バレエの踊りも隙がなく、晴れやかな婚礼の場面に彩りを添えていた。
最後になったが、今回の公演で高揚感を味わえた大きな立役者がファイサル・カルイ指揮のパリ・オペラ座管弦楽団だったことを付け加えておきたい。音色に富んだソロの管楽器、うるおいのある弦楽器はチャイコフスキーの音楽によって、ダンサーたちの身体を包み込んだ。想像力を羽ばたかせてリュリやラモーといった宮廷音楽を念頭に置きながらも模倣ではないチャイコフスキーが独自の作曲技法によって作り上げた音の世界に酔った。
(2013年12月23日、25日 バスチーユ・オペラ)

pari1401a_02.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1401a_04.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé
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pari1401a_08.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1401a_09.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé

La Belle Au Bois Dormant『眠れる森の美女』
音楽 チャイコフスキー
振付・演出 ルドルフ・ヌレエフ(パリ・オペラ座、1989年)
原振付 マリウス・プティパ 
装置 エジオ・フリジェッロ
衣装 フランカ・スカルチアピーノ
照明 ヴィニチオ・ケリ
配役(23日/25日) 
オーロラ姫 アマンディーヌ・アルビッソン/ミリアム・ウルド=ブラーム
デジレ王子 フロリアン・マニュネ/マチアス・エイマン
フロレスタン14世 ヴァンサン・コルディエ/ニコラ・ポール
王妃 クリスティーヌ・ペルツァー
リラの精 ジュリエット・ジェルネーズ
カラボス ステファニー・ロンベルク
カタラブット ブリュノー・ブーシェ/パスカル・オーバン
青い鳥 ヴァランティーヌ・コラサント、ピエール・アルチュール・ラヴォー/ヴァランティーヌ・コラサント、フランソワ・アリュ他
パリ・オペラ座バレエ団
ファイサル・カルーイ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団

pari1401a_10.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1401a_11.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé
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pari1401a_16.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1401a_17.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé