ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2013.01.10]

フォーサイスの主題と変奏、ブラウンの不思議な空間をオペラ座のダンサーが鮮烈に踊った

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団    
William FORSYTHE、 ¨In the Middle、 Somewhat Elevated¨ “Woundwork I” “Pas./Parts” Trisha BROWN 、 “O Zlozony/ O composite“
ウイリアム・フォーサイス振付『In the Middle、 Somewhat Elevated』 『Woundwork I』 『Pas./Parts』 トリシャ・ブラウン振付『O Zlozony/ O composite』

ガルニエ宮のパリ・オペラ座バレエ団のクリスマス公演ではウイリアム・フォーサイスとトリシャ・ブラウンの作品がとり上げられた。

pari1301b1_01.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau

幕が開くと、「舞台中央のちょっと高い位置」に金色のさくらんぼが下がっているが、これが「In the Middle、 Somewhat Elevated」という題名になっている。フォーサイスが考案した装置で、床には何もない。呼吸音を録音し、増幅して繰り返したようなミニマリスムのすかすかの無機質な音楽は、それだけ聴いたらちょっとたえがたいだろうが、ブルーマリンの衣装を付けたダンサーの動きによって逆に意味が与えられていく。
1987年の初演ではローラン・イレール、マニュエル・ルグリ、イザベル・ゲラン、シルヴィ・ギエムらが踊ったが、今回はアリス・ルナヴァン、ヴァンサン・シャイエ、オーレリア・ベレといった若手が舞台に立った。フォーサイスはクラシック音楽(例えばバッハ)で使われた「主題と変奏」という構造をダンスの世界に持ち込んだ。まずアリス・ルナヴァンが「主題」の動きを提示し、それを他のダンサーたちが繰り返すが、少しづつその形が変わるとともに、人数が増えていく。
手首や腕を折ることで、なだらかな身体の線が壊されていく。肘を大きく動かす鳥が羽ばたくような動き、空中でさまざまな角度に曲げられる膝、指先を足先にふれようと身をくねらせたりと、多様な動きが違う速度で同時に進行する。中央の光の当たっている空間と、舞台後方の闇に沈んだ空間との対比も鮮やかで、あらゆる意味や物語を剥ぎ取られた、緻密そのもののダンサーの身体の動きだけに観客の目は釘付けにされた。

pari1301b1_02.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau pari1301b1_05.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau
pari1301b1_03.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau
pari1301b2_03.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau

緊迫感にあふれるフォーサイスと好対照だったのは、トリシャ・ブラウンの世界だった。夜空に星が無数に瞬くヴィジャ・セルミンスの幻想的な装置をバックに、薄闇に白い衣装をまとった三人のエトワールのシルエットが流れた。オーレリー・デュポン、ニコラ・ル・リッシュの1999年の初演メンバーに、マニュエル・ルグリに代わってジェレミー・ベランガールが加わった。がっしりした二人の男性の四本の腕に支えられたオーレリーの身体が空中をなめらかに回転し、三人が次第に舞台奥に消えていくシークエンスは、作品の最初と最後に置かれているが、その詩情は比類がない。ブラウンは身体の所作によってアルファベットを作り、それを重ねることで「フレーズ」を組み立てていく。それぞれのシークエンスは二分間で、音楽に合わせてポーランドの詩人チェスラー・ミローズの『鳥へのオード』が響く。スラブ言語ならではの数多い音色豊かな子音と、美妙に交錯するローリン・アンダーソンの効果音とがダンサーの身体をやわらかく包み込み、穏やかな、重さの感じられない、不可思議な空気にあたりを支配した。

pari1301b2_01.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau pari1301b2_02.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau
pari1301b3_02.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau

休憩後はフォーサイス『Woundwork I』はパ・ド・ドゥとその延長としてのパ・ド・キャトルの「Work」として作られている。二人のダンサーの身体が船の綱のようにきつく巻き付けられ(wound)、またさっと解かれる。「『n the Middle、 Somewhat Elevated」と同じトム・ヴィレムスの音楽を使っているが、ロック調の激しさと変わって、クラリネットのゆったりした、哀切な響きがダンサーの静かな動きによく調和している。フォーサイス自身による微妙な照明により、ダンサーの身体が光と影の間を行き来して、動きの変化にさらに鮮やかな陰影を添えていた。
華やぎのあるアニエス・ルテステュと優雅なエルヴェ・モロー、がっちりしたニコラ・ル・リッシュの腕に支えられた艶麗で抽象的な動きにも個性的なドラマを宿らせたイザベル・シャラヴォラと、4人のエトワールの競演はブラウン作品とともに、当夜の白眉だった。

pari1301b3_01.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau pari1301b3_03.jpg (C)Opéra national de Paris/Anne Deniau
pari1301b4_05.jpg(C)Opéra national de Paris/Anne Deniau

最後を飾ったフォーサイスの『Pas./Parts』もトリオ(三重奏)、クワルテット(四重奏)といった具合に音楽用語を使って20のシークエンスが構成されている。チャチャチャの不安定なリズムに乗って、ダンサーの身体は安定を失いかけるように揺れる。刻々と変わる照明によって多彩なカラーの衣装が乱舞し、観客は3つの白い壁に囲まれた、水槽の中を泳ぎまわる熱帯魚を見ているかのような幻覚にとらわれた。たくましくダイナミックなマリ=アニエス・ジローとそのパートナー、オードリック・ブザール、トリオでこの二人と共演したセバスチャン・ベルトー、躍動感あふれるジェレミー・ベランガールをはじめとするダンサーの熱気が、フォーサイスの緻密な世界に迸るエネルギーを与えていた。
(2012年12月3日プルミエ ガルニエ宮)

pari1301b4_01.jpg(C)Opéra national de Paris/Anne Deniau pari1301b4_02.jpg(C)Opéra national de Paris/Anne Deniau
pari1301b4_03.jpg(C)Opéra national de Paris/Anne Deniau pari1301b4_04.jpg(C)Opéra national de Paris/Anne Deniau

『In the Middle、 Somewhat Elevated』
オリジナル音楽/トム・ヴィレムス
振付・装置・衣装・照明/ウイリアム・フォーサイス
振付アシスタント/ローラ・グレアム
ダンサー/アリス・ルナヴァン、ヴァンサン・シャイエ、オーレリア・ベレ
ヴァランティーヌ・コラサント、マルク・モロー、ローレーヌ・レヴィ、ダニエル・ストークス、エレオノール・ゲリノー、シャルロット・ランソン
『O Zlozony/ O composite』
オリジナル音楽/ローリー・アンダーソン
振付/トリシャ・ブラウン
装置/ヴィジャ・セルミンス「夜空♯18」(1999年)   
衣装/エリザベス・カノン
照明/ジェニファー・ティプトン
振付アシスタント/ニール・ビアズレー、キャロリン・ルカス
ダンサー/オーレリー・デュポン、ニコラ・ル・リッシュ、ジェレミー・ベランガール
『Woundwork I』
オリジナル音楽/トム・ヴィレムス
振付・装置・照明/ウイリアム・フォーサイス
衣装/ステファン・ギャロウェイ
ダンサー/アニエス・ルテステュ、エルヴェ・モロー、イザベル・シャラヴォラ、ニコラ・ル・リッシュ
『Pars./Parts』
オリジナル音楽/トム・ヴェレムス
振付・装置・照明/ウイリアム・フォーサイス
衣装/ステファン・ギャロウェイ
ダンサー/(出演順)サブリナ・マレム(ソロ)、マリ=アニエス・ジロー、オードリック・ブザール(パ・ド・ドゥ)、ノルヴェン・ダニエル、クリストフ・デュケンヌ、オーレリアン・ウエット(トリオ)、クリストフ・デュケンヌ(ソロ)、カロリーヌ・バンス、カロリーヌ・ロベール、ジェレミー・ベランガール、ヤニック・ビットンクール(クワチュオール)、エレオノール・アバニャート、ジェレミー・ベランガール、オードリック・ブザール、セバスチャン・ベルトー(デュオ)、ステファニー・ロンベルク、クリストフ・デュケンヌ(パ・ド・ドゥ)、ジュリエット・イレール(ソロ)、マリ=アニエス・ジロー、オードリック・ブザール、セバスチャン・ベルトー(トリオ)、ステファニー・ロンベルク、カロリーヌ・バンス、ローレーヌ・レヴィ、キャロリーヌ・ロベール、ジェレミー・ベランガール、クリストフ・デュケンヌ、ヤニック・ビッタンクール(セッチュオール)、ジュリエット・イレール、サブリナ・マレム(デュオ)、オーレリアン・ウエット(ソロ)、ジュリエット・イレール、サブリナ・マレム、セバスチャン・ベルトー(トリオ)、オードリック・ブザール(ソロ)、エレオノーラ・アバニャート、ジェレミー・ベランガール(パ・ド・ドゥ)、セバスチャ・ベルトー(ソロ)
ノルヴェン・ダニエル、オーレリアン・ウエット(パ・ド・ドゥ)、ステファニー・ロンベルク、サブリナ・マレム、カロリーヌ・ロベール、ヤニック・ビットンクール(クワチュオール)、ノルヴェン・ダニエル、オードリック・ブザール、オーレリアン・ウエット、セバスチャン・ベルトー(クワチュオール)
全員(フィナーレ)