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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2012.10.10]

デュポンとル・リッシュの風格のあるパ・ド・ドゥ、オール・バランシン・プロ

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
“Sérénade“ “Agon“ “Le Fils prodigue“ by George Balanchine
 『セレナーデ』『アゴン』『放蕩息子』ジョージ・バランシン振付

パリ・オペラ座バレエ団の新シーズンがオール・バランシン・プログラムで始まった。
まずチャイコフスキーの『弦楽オーケストラのためのセレナードハ長調作品48』をバックにした『セレナーデ』で始まった。
バーバラ・カリンスカ考案の薄青いチュール素地のチュチュから長く延ばされたダンサーたちの腕の白がまぶしい。対角線上に配置されたダンサーたちがゆったりと大きく腕を振る。筋書きは一切ないが、音楽と一体となった身体が出会いと別れ、喪失と再会、といった若い男女の恋愛模様の雰囲気をかもし出していく。
14歳で初めてミハイル・フォーキンの『ショピニアーナ』(後に『レ・シルフィード』と改題)を見て、バランシン(1904・1983)が「筋のないバレエ」から受けた衝撃がどれほど強かったかがうかがわれた。群舞から放射される詩情は1934年の初演から80年近くが経過してもその香りを失っていない。
ソリストではしばらく舞台から遠ざかっていたエレオノーラ・アバニャートが登場するとともに、昨シーズン、ヴァルツ振付の『ロメオとジュリエット』で復帰したエルヴェ・モローののびやかな姿が見られた。3月にエトワールに昇格したリュドミラ・パリエロの安定した技術が、パートナーのモローによって一段と引き立てられていた。

pari1210a01.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1210a02.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé
pari1210a03.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1210a04.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé
pari1210a05.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé

続いて1957年初演の『アゴン』。ギリシャ語の題名で、古代ギリシャでスポーツ競技の儀式を指し、「ダンスによる闘い」が表現されている。「参加者の紹介」「競技」「解散」の三つの部分から成る。
最初と最後は4人の男性ダンサーが客席に背を向けて立っているのが印象に残ったが、これは振付家ではなくストラヴィンスキーが楽譜で指定したそうである。
二つあるパ・ド・トロワの最初では、のびやかな脚がきれいなマチュー・ガニオに周囲から大きな拍手が沸いた。後の組ではアレッシオ・カルボーネの機敏さと力強さとを兼備した動きが目に付くとともに、6月にエトワールに昇進したばかりのミュリエル・ウルド=ブラームの落ち着き払った、気品ある踊りがストラヴィンスキーの音楽にぴったり寄り添っていた。
男性的な野性味たっぷりのニコラ・ル・リッシュと、40歳をこえても若さに陰りのないオーレリー・デュポンのパ・ド・ドゥはベテランらしい風格のあるものだった。

pari1210a06.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé pari1210a11.jpg (C) Opéra national de Paris/Sébastien Mathé

休憩後は新約聖書に題材を取った『放蕩息子』で、バランシンとしては珍しく筋書きがある。第1場で父の家を出た息子が、第2場の宴会で娼婦と出会い、酒を無理強いされて、酔っている間に身ぐるみはがされてしまう。第3場で後悔して戻った息子を父親が赦して迎え入れる。
幕が開くとディアギレフに依頼されたジョルジュ・ルオーの背景画が目に飛びこんできた。1929年という初演の時代がはっきり刻印された装置だ。左手に置かれた柵は、途中でひっくり返されて宴のテープルとなり、次いで放蕩息子を会食者たちがいたぶって磔にするための台になる。パントマイム、アクロバットも随所に使われ、物語が明快に身体で表現されていった。抽象的な作品で知られるバランシンが物語りの「語り手」としても卓越していたことがはっきりわかる作品だ。
父親の家を出て堕落する息子はジェレミー・ベランガールが演じた。演技が少々一本調子なのが気になったものの、炸裂するようなエネルギーにみちた反抗ぶりや、改悛の場面で天に向かって差し伸べられた腕は表現力たっぷりだった。
放蕩息子を誘惑する「娼婦」はマリ=アニエス・ジローだった。美貌のダンサーだが、バランシンが描こうとした「冷ややかで計算高い女性」の悪女ぶりをもっと濃厚に出してもよかったのではないだろうか。
ともあれ、杖をつき、膝をいざって戻ってきた息子が父親に幼児のように抱かれる幕切れまで、父親(ヴァンサン・コルディエ)や妹二人、それに会食者たちの熱の入った演技によってドラマの緊迫感は途切れることがなかった。
(2012年9月28日 ガルニエ宮)

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『セレナーデ』
音楽/チャイコフスキー
振付/ジョージ・バランシン(1934年)本上演用指導 ポール・ボース
衣装/カリンスカ原案
照明/ペリー・シルヴェ
ソロダンサー/リュドミラ・パリエロ、レティシア・ピジョル、エレオノラ・アバニャート、エルヴェ・モロー、ピエール・アルチュール=ラヴォー
『アゴン』
音楽/ストラヴィンスキー
照明/ペリー・シルヴェ
ソロダンサー/マチュー・ガニオ、メラニー・ユレル、ミュリエル・ズスペルギー、ミリアム・ウルド=ブラーム、アレッシオ・カルボーネ、クリストフ・デュケンヌ、オーレリー・デュポン、ニコラ・ル・リッシュ
『放蕩息子』 3場
音楽/プロコフィエフ
振付/ジョージ・バランシン(1929年)本上演用指導 ポール・ボース
装置・衣装/ジョルジュ・ルオー原案
照明/ペリー・シルヴェ
配役
放蕩息子/ジェレミー・ベランガール
二人の友人/ピエール・アルチュール=ラヴォー、グレゴリー・ガイヤール
二人の妹/ナタシャ・ジル、モード・リヴィエール
父親/ヴァンサン・コルディエ
娼婦/マリ=アニエス・ジロー

演奏 ファイサル・カルイ指揮パリ国立オペラ座管弦楽団