ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2011.05.10]

ガニオのロメオ、プジョルのジュリエット、エイマンのマキューシオが競演

Ballet de l’Opéra national de Paris
パリ・オペラ座バレエ団
Nudolf NOUREEV ROMEO ET JULIETTE  ルドルフ・ヌレエフ振付『ロメオとジュリエット』
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幕があがるとルネッサンス時代のヴェローナの町が広がった。騎馬像のある広場は装飾を施したきらびやかな館に囲まれている。イタリア絵画にインスピレーションを得て構想されたエジオ・フリジェリオの装置は華麗な衣装とあいまって豪華な書割となっている。色彩に対する趣味のよさはやはりイタリア人ならではのものがある。
もっとも、舞台のトーンは甘いものではない。ヌレエフの視線が最初から「死」にぴたりと当てられているからだ。広場を横切る黒服の葬列はペストの死者だが、悲劇の結末と重なってみえる。二人の恋人を秘密に結婚させるローラン神父は頭蓋骨を手にしている。シェークスピアのドラマにぴったり寄り添った明快な視点とともに、ヴィニチオ・ケリの巧みな照明にも助けられたテンポのよい場面転換によって繰り広げられる場面場面が、映画にも似た映像美と速度をもっていることは、この振付の特徴だろう。

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銀の縫い取りのある青いジレに白いタイツをはいたマチュー・ガニオは、その姿が現れただけで女性観客からため息のもれるほどロメオにぴったりの容姿に恵まれている。最初のソロの着地でぐらついてハッとさせられたが、その後は優雅な動きと安定した踊りをみせた。特に女性に対して差し出された指先の表現はきれいだった。ただ惜しまれたのは表情が今ひとつとぼしいことで、踊っていないと棒立ちになってしまうことがしばしばあった。書割が華やかなだけに、ダンスだけでなく視線や表情といったあらゆる面で卓越していないと、存在感が薄れてしまう難しい役なのだろう。
レティシア・プジョルのジュリエットは一言で言えば「お転婆娘」だろう。生き生きとした表情は最初は少女らしいが次第に情熱に燃える一人の大人の女性へと変貌していく。ロメオの仮面をはぎとるところのいたずらっ子のような表情、寝室に忍んできたロメオに気づいて一瞬逃れようするものの、すぐ逆に自分から飛びついていくところなど、ヌレエフが想定した闊達なヒロイン像にぴたりと重なっていた。これはシェィクスピアやベッリーニ、グノーが描いた「深窓の令嬢」とは一味違う。

二人の恋人たちのインティメートな情愛の場面の間には、カピュレット家とモンテギュー家の配下が火花を散らす激しい戦いの場面が割って入る。プロコフィエフのコントラストに富んだ音楽の特徴を最大限に使って、見事に濃淡が付けられた振付にはただただ圧倒された。
あくまでもロメオを挑発しようとするティボルトの悪意が全身から発散されたようなブリオン、若さが迸る直裁なマキューシオをダイナミックな跳躍と切れのよい身ごなしで体現したマチアス・エイマンが舞台を引き締めていたことも忘れられない。デルフィーヌ・ムッサンの妖艶なキャピュレット夫人やミリアム・ウルド・ブライムの浮薄なロザリーヌも舞台に華を添えていた。
(2011年4月11日プルミエ バスチーユ・オペラ)

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Photos:(C)Julien Benhamou/Opéra national de Paris
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音楽/セルゲイ・プロコフィエフ
演出・振付/ルドルフ・ヌレエフ(パリ・オペラ座バレエ団 1984年)
装置/エジオ・フリジェリオ
衣装/エジオ・フリジェリオとマウロ・パガーノ 
照明/ヴィニチチオ・ケリ
パリ・オペラ座バレエ団
ヴェロ・ペーン指揮 パリ国立オペラ座管弦楽団
 ロメオ/マチュー・ガニオ
ジュリエット/レティシア・プジョル
ティボルト/ステファーヌ・ブリヨン
マキューシオ/マチアス・エイマン
ベンヴォリオ/クリストフ・デュケンヌ
ロザリーヌ/ミリアム・ウルド・ブライム
パリス/ジュリアン・メザンディ
キャピュレット/ヴァンサン・コルディエ
キャピュレット夫人/デルフィーヌ・ムッサン
乳母/ジルレーヌ・レシェール
ローラン神父/アルノー・ドレフュス