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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)Text by Mariko OMURA 
[2010.11.10]

オペラ座ダンサー・インタビュー:ユーゴ・ヴィリオッティ

Hugo Vigliotti ユーゴ・ヴィリオッティ(カドリーユ)
入団2年目、『ランデヴー』の難役を踊って注目された20歳
pari1011d00.jpg ユーゴ・ヴィリオッティ
(C) Mariko Omura

オペラ座2010〜2011年度の開幕公演は『Roland Petit』(ローラン・プティ)だった。その三作品の1つ、『Rendez-vous(ランデヴー)』でニコラ・ル・リッシュとミカエル・ドナールという大先輩と共に舞台にたったユーゴ・ヴィリオッティ。その軽快で敏捷な踊りと見事な演技が注目された。2008年9月に入団し、現在はカドリーユ。イタリア人を祖父母に持つ、イル・ド・レ出身の20歳の青年である。

Q:『ランデヴー』でニコラ・ル・リッシュとミカエル・ドナールにはさまれて踊る。どんな気持ちでしたか。
A:入団2年目のぼくにとって、これは最初の大役でした。こうした二人と同じ舞台にたてるなんて・・大感動です。ミカエル・ドナールは楽しい人ですが、同時に強い印象を残す人ですね。
ニコラはぼくのアイドルなんですよ。小さいときから彼の踊りが好きで、写真集とか持ってるくらい。だからこの作品に配役され、しかも彼が若者役と知ったとは、ちょっとばかりストレスを感じてしまいました。でも、みんなが彼は優しい人だよ・・・って。本当に素晴らしい人でした。とてもオープン・マインド。でも、子供っぽいところもあって・・。リハーサルは快調に進み、二人の間に良い関係が築けました。

Q:振付けたローラン・プティとはどんな関係ですか。
A:2008年の学校公演でぼくはプティの『レ・フォラン(旅芸人)』でピエロの役を踊ったんです。その時、プティと彼の作品のリハーサル・コーチのヤン・ブルックスと稽古をしました。今回の『ランデヴー』は自分が配役された背中に障害のある男の役はおろか、作品すら知りませんでした。ファビアン・ロックがこの役の創作時のダンサー。プティはぼくのこと覚えてなかったみたいだけど、今回もまたヤン・ブルックスに多くを教えてもらう機会となりました。

pari1011d01.jpg 「ランデヴー」
(C) l'Opéra national de Paris
Anne Deniau

Q:今回の大抜擢について話してください。
A:実は最初は代役だったんです。この役を知ってる人が、悪くない役だよって・・・。それがなぜファーストキャストで踊ることになったのかというと・・・これは、ちょっと複雑なんだ。稽古が始まって、ローラン・プティが代役のぼくをみて、”彼だ!”っていってくれたんです。プティはこの役に小柄なダンサーを描いていたので、それでぼくに役がまわってきたというわけです。
うれしいけど緊張しましたよ。それに代役がいきなりファーストキャストというので、他のダンサーに対して、ちょっと落ち着かない気持ちもありました。
でも、舞台上で一人で踊ることができて、しかも共演者がニコラで・・と、これはぼくにとって明らかに素晴らしいチャンス。自分を観客にきちんと見せられるこの機会を決して逃してはならない! って思いました。幸い評判良かったようで安心しました。でも、まだまだみせたいことはたくさんあるのだから、ここで止まってる場合じゃないんです。

Q:役作りや振付で苦労はありましたか。
A:まずはファビアン・ロックが踊ったビデオを見ました。でも彼の真似にならないようにって、リハーサル・コーチに強くいわれました。ぼくなりの役作りをしないと自然に見えないからって。また、リハーサル時間外も常に背中にこぶのある人間の動きを探るようにとも言われました。だから朝から鏡に向かって・・。身体が不自由な役なので、舞台ではずっとその姿勢をキープしてるわけですね。だからテクニック的にはそれほどじゃないけど、肉体的にはきつい仕事でした。
舞台にたったのは合計17回かな。マチネと夜の2公演があった日は特に辛かった。脚をずっと折曲げてる姿勢なので、腿とお尻が痙攣してしまって・・。背中を曲げてる姿勢って、クラシック・バレエの姿勢と正反対のもの。その姿勢で、しかも大きな靴をはいて、ピルエットしたりターンしたり。これも大変でした。

pari1011d02.jpg 「ランデヴー」
(C) l'Opéra national de Paris
Anne Deniau
pari1011d03.jpg 「ランデヴー」
(C) l'Opéra national de Paris
Anne Deniau

Q:どうしてバレエの世界に入ることになったのですか。
A:これまたちょっと複雑なんだ(笑)。他のダンサーたちとは異なるんでね。クラシック・バレエをはじめたのは遅いんです。最初、8歳のときにディスコ・ダンス。TVでトラヴォルタとか見て、友達と始めました。大きくなったらクラブで踊りまくろう! って感じでした。ぼくが生まれ育ったのはレ島(大西洋に浮かぶ、観光地として有名な島)ですから、クラシック・バレエに触れる機会なんてないでしょう。9歳、今度はモダーン・ジャズ。これまた友達と始め、そして島の小さなダンス教室の先生について、というように。その学校の先生が、ぼくには才能があるって・・。11歳のころです。ダンスが大好きだったので、じゃあ、仕事になるだろうかって思いました。あらゆるダンスのベースになるからって、先生からクラシック・ダンスを学ぶことを提案されました。クラシックねえ・・・と、どちらかというと女の子がするものだという先入観もあって、最初はちょっと戸惑ったんです。でも、試しても悪くないだろうって、ラ・ロシェル(島の向かい側の本土の町)のコンセルヴァトワールのオーディションを受けました。始めてすぐに、もう他のダンスはいらない。クラシック一本だ! って、なりました。そして学校で先輩たちが踊るのをみて、これは素晴らしい! とますます・・。

Q:そしてオペラ座のバレエ学校を選んだのですか。
A:13歳のときに試験を受けました。ラ・ロシェルのコンセルヴァトワールの先生のソフィーはベジャールのところのソリストだったダンサーですが、ぼくの進歩が著しくて、もうじき教えられることが自分にはなくなるって・・。
彼女にオペラ座行きを勧められたんです。ええ、彼女に負うものはすごく多いですね。第5学年に入り、その後5年間在学。毎年落第なしに上がって、18歳でバレエ団に入団しました。

pari1011d04.jpg「ランデヴー」
(c)Michel Lidvac

Q:今後踊ってみたい役は何ですか。
A:『レ・フォラン』のピエロ役もそうでしたが、ダンスでぼくが好きなのは演技する役なんです。いつか踊れたら、って学校時代から思ってるのは『若者と死』です。若い男の役だし、テクニックだけでなくパーソナリティを演じることも要求される役なので興味があります。
『ランデブー』で背中に障害のある男を踊ったので、『ノートル・ダム・ド・パリ』のカジモド役が踊ってみたくなるのも自然な流れですね。同じ身体つきでも、まるで別のタイプの人間。『ランデブー』のは陽気な性格で、たとえコブがあっても、生きる喜びにあふれています。それでニコラが踊る若者のモラルを上げようとする。でもカジモドは違う・・・。
『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』では入団した年にフルート吹きを踊ってます。
これは最初の小さな役でオペラ座に感謝してますが、この作品でいつか表現力が物を言うアラン役を踊ってみたいですね。
『椿姫』のデ・グリユー役? あ、それは確かに面白そう。『白鳥の湖』のロットバルトも悪くない・・・。もちろんプリンスの役だって夢みてますよ! まだ2年しかやってないのですから、いろいろ探ってる最中。すべての役にオープンです。

Q:クラシックとコンテンポラリー。どちらが好みですか。
A:正統派クラシックが好き。でも、学校の最終年にネオ・クラシックに開眼したんです。二ル・クリストの『Symphonie en trois mouvments』を踊ったときです。ネオ・クラシックでもこんなにも気持ちよく踊れるんだ・・・と自分でも意外でした。入団してから、『ル・パルク』では庭師の代役以外、クラシック作品に配されることが多いですね。

Q:ダンサーとして自分の強みは何だと思いますか。
A:演技力かな。今のところ、陽気な役が多いけど、心に傷を抱えてる、といった役どころにも興味ありますよ。テクニック的にはジャンプとバッテリーが得意です。バウンドに優れてるんで、けっこう簡単に上がれるんですよ。今年のコンクールの自由は『ラ・シルフィード』を選びました。昨年これを踊ろうと思ってたのに、コンクールの2〜3日前にに怪我をして、参加できなかったんです。この選択はバッテリーを見せられるから? そう(笑)。それで選んだんです。初めてのコンクールで、演技だけでなく、これまで披露の機会があまりなかったけどぼくはテクニックもいけます、というところみせたいと思ってます。

このインタビューが掲載される頃には、11月6日の昇級コンクールの結果がでている。上がれば来年1月1日からはコリフェとなる。カドリーユの男性ダンサーへの課題は『ジゼル』。バレエ団の入団試験のときと同じ課題だそうで、「これはラッキーだ。良い運をもたらしれくれるといいなあ・・」とつぶやいていた。

pari1011d05.jpg「ランデヴー」
(c)Michel Lidvac
pari1011d06.jpg「ランデヴー」
(c)Michel Lidvac

《10のショート・ショート》
1 プティ・ペール:セバスチャン・ベルトー
2 プティット・メール:ジュリー・マルテル
3 趣味は? 音楽、映画。とどちらもジャンルは問わず。今よく聞いてる音楽はMUSE。
4 昨日の小さな幸せ:近所の和食屋でテイクアウトしたお寿司を美味しく食べたこと。
5 他人に褒められる良い面:いつも上機嫌なこと
6 自分で思う欠点:今日できることも明日にのばすこと。
7 ダンス以外に考えらる仕事:舞台俳優。あるいは映画俳優。笑わせるのが好き(好きな俳優はロマン・デュリス)。
8 ダンス以外で好きなこと:スポーツ。オペラ座のバレエ学校にはいるまで柔道、バスケット、サッカー、テニス、ウインドサーフィンなどいろいろ経験。得意は短距離走だった。ぼくのふくらはぎはスプリンター・タイプ。これは競歩でフランスのチャンピオンにもなった母から受け継いだもの。
9 将来の大いなる野望:素晴らしい役を得ること。良いダンサーとして認められること。
10 エトワール任命の予測年:エトワールになれるのは夢。コリフェ、スジェ、プルミエと毎年上がってゆくとして・・なれるとしたら6年後だ!