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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.11.10]

THEATRE NATIONAL DE CHAILLOT シャイヨー劇場から
ANGELIN PRELJCAJ:BLANCHE NEIGE
アンジュラン・プレルヨカーユの新作『白雪姫』

アンジュラン・プレルヨカーユの新作『白雪姫』

 リヨン・ダンスビエンナーレで今秋、発表されたプレルヨカーユ(日本ではプレルジョカージュと表記されるが、正しい発音はプレルヨカーユに近い)の新作『白雪姫』が10月10日~25日、パリのシャイヨー劇場で公演された。
メトロ構内などに張られたポスターには、日本人ダンサー白井紗が上半身裸でリンゴに囲まれて寝台に横たわり、仮死状態の白雪姫を連想させるという衝撃的な写真が用いられた。フランスでは人気振付家のプレルヨカーユだけあって、全公演が売り切れ。
白雪姫、王子、女王はダブルはキャストだったが、白井が白雪姫を演じた10月15日の舞台を観た。

 今回の作品では、過去にプレルヨカーユと組んだ仲間が名前を連ねた。衣装は『ロメオとジュリエット』のジャン=ポール・ゴルチエ、美術は『ヘリコプター』のティエリー・ルプルースト。音楽は、ほぼ全編でウィーンの世紀末作曲家マーラーの9つの交響曲が使われた。
プレルヨカーユは「『白雪姫』というとウォルト・ディズニーの映画が有名になってしまったが、私はグリムの原作に忠実につくってみた。またインスピレー ションを得たというのではなく、あえて物語をなぞった」と説明するように、構成・スタイルは1990年に発表した傑作『ロメオとジュリエット』に近い。
冒頭、暗がりの中を下手から、冠をつけ黒衣をまとった女性(白雪姫の母)が苦しそうにお腹をかかえ、這うように出てくる。“死” と “出産” が印象的に明示されるシーンだ。続いて、王と戯れる幼い白雪姫が成長した白雪姫に早変わり、ナレーションめいたやや安易な場面展開だった。
王宮の中での舞踏会シーンは、クラシック・バレエのステップをちりばめた群舞が披露されるが、いたって古典的な振付で冗長。プレルヨカーユの作品だろうか、と疑いたくなるほどだった。
しかし、新しい女王として迎えた白雪姫の継母が登場すると雰囲気はガラリと変わった。黒いレザーのSMクラブの女王かと思うようなセクシーなレオタード を身につけ、素肌の露出が大きい。冒頭に全身黒衣で登場した白雪姫の母親と対照的だ。「女」を秘めるのか、「女」を見せつけるのか、二人の女性のコントラ ストが『白雪姫』のエッセンスであることを全面にみせつける演技だった。同時に、「何歳になっても美貌だけは死守したい」という狂信的な女性の性へのこだ わりに対するアンチテーゼが読み取れて、物語の展開に期待を呼び起こした。

 踊りという点でいえば、白雪姫の白井が秀逸だった。西洋人のダンサーと比べれば決して恵まれたスタイルではないのに、ひとつひとつの動きに甘さが ない。空間に足で描く弧線、体のしなりが、白雪姫の魅力を伝えてあまりある。見栄がまったく感じられない動作で、純真な白雪姫を見事に演じていた。
演出面で面白かったのは、七人の小人たちの採掘シーン。H・アール・カオスの舞台でよくみる手法だが、天井からの紐で体を固定し、上下への移動、空間で の回転を駆使する。マーラーの『交響曲第1番』第3楽章に出てくるフランスの童謡「Frere Jacques」(短調で演奏されるが)が使われ、無邪気に暮らす小人たちのほのぼのとした雰囲気にほっとさせられる。ほかの森の場面でも、ホルンなどを 用いた牧歌的な楽章が見事に調和していた。

 しかし、何と言っても圧巻だったのは、毒りんごを食べ仮死状態だった白雪姫を引きとった王子が絶望して、白雪姫との別れのデュエットを踊る場面 だ。白雪姫役の白井は、完全に脱力したまま身体を長身の王子(セルジオ・ディアズ)にゆだね、王子は生気を取り戻したいと、むしろ白雪姫を揺さぶるように して踊る。『ロメオとジュリエット』の、過激な墓場のデュエットを彷彿とさせる振付だが、白井の柔軟性が手伝って、手荒な感じがしない。生身の男女の生理 的な感情を身体表現にぶつけるというプレルヨカーユ真骨頂のデュエットに、客席は静まりかえった。
エンディングでは、女王が煙の上がる焼けた鉄の靴を履かされ、踊らされながら殺されるというグリム童話の結末そのままである。女王役のセリーヌ・ガリが残酷なシーンでも美への執着心を放った演技をみせ、壮絶なクライマックスに強烈なインパクトを残した。
振付も然ることながら、音楽、照明、ダンサー・・・どれをとっても非の打ちどころのない作品。11月中旬にエクサン・プロヴァンスでも上演されるが、来日公演の機会が訪れることを望んでいる。
(2008年10月15日 シャイヨー劇場)