ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.10.10]

BALLET de l'OPERA National de Paris パリ・オペラ座公演から
HOMMAGE A JEROME ROBBINS 「ジェローム・ロビンズへのオマージュ」

 10年前の1998年7月29日、79歳で他界したロビンズへのオマージュとして、今シーズン開幕公演(9月20日ー30日)にパリ・オペラ座はロビンズの3作品とロビンズの影響を受けたと自負するバンジャマン・ミルピエの新作を上演した。
ロビンズの振付作品がパリ・オペラ座のレパートリーに入ったのは1974年から実に14作品を数える。もっとも、ロビンズ抜きに語れないニューヨーク・ シティ・バレエ団(NYCB)の公演を観た後での、パリ・オペラ座によるロビンズだ。9月24日、ガルニエ宮に足を運んだ。

 ロビンズの『En Sol』(1975) の作品名は、ラベルのピアノコンチェルト(ト長調=フランス語では、en sol majeur)に振付けたところに由来する。群舞の衣装は、まるでテニスウェアを思わせるようなカジュアルなスタイルで、白にピンク色や緑色、ブルーと いった横縞が入っている。主役のドロテ・ジルベールとクリストフ・デュケーヌは白一色。第一楽章、群舞による弾けるような動きの中でひと際目立ったのは、 やや褐色肌のマティルド・フロステだった。体の線の細さ、しなやかさと切れ味、跳躍やバットマンしたときの足先、上体を後ろに反らせたときの顔のつけ 方ーー自分の身体的特徴を存分に生かすよう計算されつくされたポーズで、他のダンサーとの意識の違いが見てとれる。難を言えば、「私は他のダンサーとは違 うの」がありありと顔に書いてあるような“ブリっ子ぶり”が鼻につくが、持ち前の向上心が手伝って、プレミエ・ダンスーズに昇進するのは時間の問題ではな いだろうか。
第二楽章は主役二人のパ・ド・ドゥ。左右、前後に男女のシンメトリーな動きを組み合わせた振付で、なかなか洒落ている。ジルベールのような伸びやかな大 きな動きができる女性を配し、振付に男女差があまりないことで、現代感覚に訴えるデュエットになっている。しかし、ジルベールのリズム感はいまいち、デュ ケーヌの動きにも切れ味が欠け、本来ロビンズが目指したであろう「互角の絡み」が見られなかったのは残念だった。

『En Sol』
SEBASTIEN MATHE/Opera National de Paris

 二作品目は、ミルピエによる新作『Triade』。ミリアム・ウルドブラムとオードリック・ブザール、ステファニー・ロンベールとニコラ・パウル という2組の男女によって異なるドラマがくりひろげられる。生で演奏されるピアノと2本のトロンボーンの破裂音やめまぐるしいシンコペーションが、舞台に 刺激をもたらしていた。やや小柄なウルドブラムとブザールは丁寧に、しっとりとした表情をつけるのに対して、大柄なロンベールとパウルは感情のもつれあ い、もどかしさ、葛藤といった不協和音を見せつける。人と人との関係性が作品のキーワードになっているロビンズの作風に、現代感覚を持ち込んだミルピエら しい作品になっていた。

『Triad』『イン・ザ・ナイト』『イン・ザ・ナイト』
SEBASTIEN MATHE/Opera National de Paris

 休憩を挟んで再びロビンズの『イン・ザ・ナイト』(1970)。ショパンのノクターン4曲が生演奏され、照明効果で天体をおもわせる舞台を背景 に、ロマンチックな衣装の男女3組が華麗なダンスを披露する。この日はレティシア・プジョルとジェレミー・ベランガール、エミリー・コゼットとカール・パ ケット、デルフィーヌ・ムッサンとニコラ・ル・リッシュの組み合わせだった。特にパケットの気品ある姿勢と身のこなし、薫り高いムッサンのオーラが夢のよ うな時間を提供してくれた。日本人ピアニストのRyoko Hisayamaの生演奏は、抑制が利きすぎている感もあったが、最後に3組が一緒に踊って盛 り上がる場面で一気に感情をほとばしらせるというシナリオが描かれていたのかもしれない。
NYCBの公演でもショパンの曲を用いたほぼ同時期に振付けられた『ダンシィズ・アット・ア・ギャザリング』(69年)が上演されたが、「誰が踊ってい るのか」と配役表を見たくなるソリストには出会わなかった。その点、野性味を忍ばせるベランガール、加齢による体型的な衰えはあっても存在感のあるル・ リッシュ・・・オペラ座エトワールたちの一人ひとりに個性が溢れ、作品に色彩をもたらしていた。

『The Concert』
SEBASTIEN MATHE/Opera National de Paris

  この日最後の演目はロビンズ初期のころの『The Concert』(1956)。コメディ作品で、登場人物一人ひとりの演技力が舞台をつくる。驚いたの は最初に登場したピアニストだった。しゃなりしゃなりと登場し、品をつくってイスに座って弾きはじめるかと思ったら、鍵盤上のほこりをパタンパタンとはた きだし客席の笑いをとった。「なんだ、ダンサーがピアニストの役を演じている」と思ったが、本物のピアニストだったのには驚かされた。ダンサーも役達者の 面々。中でもバレリーナ役のドロテ・ジルベールが、天然ボケの演技で出色の出来。恐妻のベアトリス・マルテル、頼りない夫のアレッシオ・カルボーヌ、ジ ル・イゾワールもニヒルな味を出して人間喜劇を盛りたてていた。
最後は全員、学芸会のノリで、蝶々のかぶり物を頭につけてヒラヒラと大真面目に舞台の上を舞い、客席が沸いた。『白鳥の湖』や『ジゼル』しかクラシッ ク・バレエだと認めないようなファンさえも巻き込み、最後はお腹の皮をよじらせてしまうような魅力がある。バレエは形式ありきではなく、踊るダンサーあり きなのだと、ロビンズの作品は教えてくれている。