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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.10.10]

OPERA NATIONAL DE PARIS, COMPAGNIE INVITEE:New York City Ballet

パリ・オペラ座の招待カンパニー: ニューヨーク・シティ・バレエ

 9月9日から21日まで、4プログラム計14作品を上演したニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)のパリ公演は、連日キャンセル待ちで長蛇の列ができる人気だった。
NYCBの主要レパートリーであるジョージ・バランシン、ジェローム・ロビンズ、ピーター・マーティンズに加えて最近NYCBへの振付で注目されている 英国の振付家クリストファー・ウィールドンによる作品を取りそろえた豪華な第3プログラムを9月13日、オペラ・バスティーユで観た。

 バランシン振付『デュオ・コンチェルタント』(1972年)は、ストランヴィンスキーが著名ヴァイオリニストに捧げたヴァイオリンとピ アノのための曲を用いて、舞台上の演奏と男女デュエットを組み合わせる。バランシンらしい簡素な舞台、下手に置かれたピアノの脇に、白いレオタード姿の男 女ダンサーが立つと、ややストイックなピアノとヴァイオリンの演奏が始まる。
第一楽章の演奏が終わると、二人は中央に出て踊りを始める。続く2ー4楽章、音楽に感化され、まるで身体が勝手に動きはじめたかのような振付だ。途中、 二人のダンサーはピアノの元に戻って休み、音楽に耳を傾け、再び踊り始めるーー。音楽をこよなく愛したといわれるバランシンならではの構成になっている。 ダンサーもよく音楽によく反応し、そつなく踊っていた。しかし、それ以上の何ものも感じられなかったのは何故だろう。バランシンが本来、演奏家とダンサー との間の相乗効果を期待して振付けた作品だとすれば、音楽とダンスの間にもっと意思疎通があってもよかったのではないか、またはダンサーに音楽を全身で感 じる資質が備わっていれば印象が変わったのではないか・・・、そんなことを思った。

 マーティンズ振付『ハレルヤ・ジャンクション』(2001)は、舞台奥手の暗闇に置かれた2台のピアノが奏でる現代作曲家ジョン・アダムズの曲に、3人のソリストと群舞を組みあわせている。
白と黒の衣装、幾何学的な動きに、バランシンのスタイルが色濃く反映されている。ダンサーはそれぞれに技術に優れ、見分けがつかないほど身体的特徴が一 律化している。振付も「個性」を排除しているから、見方によっては万華鏡の中でキラキラ動き回るパーツのようだ。バレエのテクニックを駆使しているとはい え、どのダンサーからも感情がのぞかない舞台は正直、辛かった。

 ウィールドン振付『アフター・ザ・レイン』(2005)の前に、NYCB初のレジデンス・アーチストとして作品を量産している英国生まれウィールドンの不思議な運命を紹介したい。
8歳からバレエを学び、ロイヤル・バレエ学校に入学、1991年にローザンヌで金賞を受賞してロイヤル・バレエ団に入団・・・と、輝かしいスタートを 切ったが2年後に怪我で一時中断。一日中テレビ観賞で暇つぶしをしていたときに、たまたまCMで「フーバー社の掃除機を購入の方に漏れなくニューヨーク往 復券をプレゼント」を観て掃除機を購入、ニューヨークへ。
怪我の状態もよくなり、観光の合間にNYCBで数クラス受講したら入団を勧誘され、20歳でNYCBへ。5年後にはソリストに昇格するも、その2年後にあっさりとダンスを断念。「自分の生活、全エネルギーを振付に注ぐため」だった。
以来、世界中のカンパニーで30作品以上を発表しているウィールドンだが、今回の『アフター・ザ・レイン』はNYCBのために振付けた11番目の作品だ。
エストニアの現代作曲家アルヴォ・ペルトの代表作「タブラ・ラサ」を用いて、3組の男女が3様の人間模様を描く。二部構成で、第一部の動きはシャープで 妥協はないが、バランシンやマーティンズのようなハイソサエティ志向の“気取り”がない。淡々と簡素な振りにも、感情の片鱗がのぞく。第二部では、がらっ と大胆に、動きも大きくなり、各カップルの関係が発展してゆく様、収束する様を身体表現で見せてくれる。音楽と感情が動きの中で絡まりあい、若手振付家の 才能がほとばしっていた。

 ロビンズ振付『ダンシィズ・アットア・ア・ギャザリング』(1969)は、ショパンのピアノ曲に振付けられた一種の『レ・シルフィード』だ。数組のダンサーが入れ替わり立ち替わり、曲の表情に呼応したダンスを見せる。何のてらいもなく、純粋に美しい。
パリ・オペラ座への振付作品でも知られるバンジャマン・ミルピエが登場、小柄でなかなかのテクニシャンだが、振付の鬼才ぶりと比べるとダンサーとしては やや線が細いと感じた。バレエ本来のもつ優雅さに独特のエスプリを重ねたロビンズの振付にほっとさせられたものの、NYCBダンサーの無個性ぶりには少々 がっかりさせられた、というのが私の正直な気持ちだ。続くパリ・オペラ座による「ロビンズへのオマージュ」公演では、どのようにロビンズを踊ってくれるの か、期待が高まった。