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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.04.10]

BALLET DE L'OPERA NATIONAL DE PARIS パリ・オペラ座バレエの公演から

NICOLAS LE RICHE : CALIGULA ニコラ・ル・リッシュ振付『カリギュラ』

パリ・オペラ座のエトワール、ニコラ・ル・リッシュが2005年にオペラ座のために初めて挑んだ本格的な振付作品『カリギュラ』が3月15~28日、ガ ルニエ宮で再演された。私が観た3月18日は、ル・リッシュと実の妻クレール=マリ・オスタというベスト・カップルの組み合わせで上演された。

 カリギュラはローマ皇帝に即位した当初は人民から親しまれたというが、若くして精神病を患ったと推測されている。発病してからは身内や側近を処刑するな どの恐怖政治を行い、暴君、狂人、性的倒錯者として悪名高かったカリギュラ。その複雑な人物像を描きだすというドラマトゥルグの作業にル・リッシュと共に 関わったのは、コメディー・フランセーズ会員のギヨーム・ガリエンヌだった。

主な登場人物と、役回りは以下のとおり。( )内は、私が観たときの配役
ローマ皇帝カリギュラ:専制君主、英雄 (ル・リッシュ)
元老院議員:英雄 (ウィルフリード・ロモリ)
パントマイム:運命 (バンジャマン・ペッシュ)
月:カリギュラの幻影、直接的なエロス (クレール=マリ・オスタ)
カリギュラの馬:同性愛的なエロス (ジル・イゾワール)
元老院議員たち (コール・ド・バレエ)

 ヴィヴァルディの室内楽『四季』が演奏されるなか、作曲と同じように春・夏・秋・冬と区切って作品を構成。しかし、物語が進むなかで、演奏が中断される 場面が何回かあり、作曲家に対する配慮が欠けているように感じた。また、途中で効果音を挟む個所もあり、最初から“編曲”という手法で臨めばそれほど違和 感がなかったのではないか、と思った。

 作品全体に関しては、一言で言えば総花的。カリギュラの人物像が、様々な人物や象徴化された役柄との関係において描かれてゆくのだが、どれにも明快なコ ンセプトがみえない。細かいステップや踊りのフォーメーションにこだわりすぎている感が否めない。ソリストにしろ群舞にしろ、ダンサーたちはいい動きを見 せてくれるだけに、振付の問題点が浮かび上がった。
 しかし、ル・リッシュの動きは目を見張るものがあった。第1幕第2場の登場の瞬間から、度肝を抜かすような高い跳躍を見せ、アレグロのテンポに乗って速 いパを踏み、ピルエットを決める。火の玉のようなエネルギーで、カリギュラという人物像を強く印象づけた。さらに、オスタとのパ・ドゥ・ドゥでは、極悪非 道だとレッテルを貼られたカリギュラが、内面では純愛を求め、逃避願望を募らせていたのではないかと、同情を引くほどだった。しかし、カリギュラの知られ ざるナイーブな一面をクローズアップしすぎた嫌いがあり、乱交の場面や同性愛の相手とのデュエットではル・リッシュは羽目を外せない。陽と陰、動と静のコ ントラストが弱かった。

 他方、カリギュラの支えとなった元老院議員役のウィルフリード・ロモリは、ダンサーを超えた演技力で、人間味を出していた。またカリギュラを殺害するバンジャマン・ペッシュは冷酷な「運命」を体現するように、シャープな切れ味を見せていた。

オスタ、ル・リッシュ ニコラ・ル・リッシュ
オスタ、ル・リッシュ オスタ、ル・リッシュ
オスタ、ル・リッシュ 『カリギュラ』


ウィルフリード・ロモリが引退を発表
 今年45歳のエトワール、ロモリが5月6日にバスティーユでの公演を最後に定年で引退する。当日は、バランシンの『フォー・テンペラメント』、ヌレエフ の『ライモンダ』、フォーサイスの『アーティファクト組曲』が上演されるが、この日はロモリのための特別プログラム付き。昨年引退したローラン・イレール が友情出演し、これまでいく度となくロモリと共演したアンジュラン・プレルジョカージュ振付の『Un Trait d’union』をデュエットする。
ロモリは9歳でバレエを始め、翌年にオペラ座バレエ学校に入学。1979年、16歳でオペラ座に入団、1989年にプレミエ・ダンスールに昇格するまで順 調に昇級してきたが、エトワールに任命されたのは41歳のとき。2005年、ス-ザン・リンケ作『私は・・・』終演後だった。40歳を超えてのエトワール 任命は異例の遅さだが、クラシックからコンテンポラリーまで、幅広い役柄で存在感を見せてきた。
ヌレエフ演出の『白鳥の湖』『ライモンダ』『ロミオとジュリエット』などで活躍、なかでも『ラ・バヤデール』のソロル役が当たり役として知られる。また、 主にノイマイヤーやローラン・プティ、マギー・マラン、マッツ・エック、ピナ・バウシュといったコンテンポラリー・ダンスを得意とし、プティ『ノートルダ ム・ド・パリ』のカジモドやカデール・ベラルビ『嵐が丘』のヒンドリーなど、個性ある役柄で突出した演技を見せた。
最近の舞台は、昨年末のサシャ・ヴァルツの『ロミオとジュリエット』でのローラン神父、上演中の『カリギュラ』での元老院議員など。