ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.02.11]

THEATRE DE LA VILLE パリ市立劇場公演 Anne Teresa De Keersmaeker/ROSAS : ZEITUNG アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル/ローザス 世界初演:『ツァイトゥング』(新聞)

  パリの市立劇場で1月11日~20日、ベルギーに拠点を置く女性振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル率いるダンスカンパニーのローザスが、『ツァイトゥング』(新聞の意味)を世界初演した。

 舞台は極めて殺風景で、配管がむき出し、ただの板張りの床で、稽古場か舞台裏を思わせる。装置は、グランドピアノ一台だけ。舞台の両側の袖に計10人の ダンサーが控えるが、リハーサル前といった和気あいあいムードが漂う。やがてジーンズにTシャツといった姿のピアニストが登場、ゆっくりとバッハの「フー ガの技法」を弾き出すと、音楽に操られるようにダンサーがぱらぱらと舞台に引きずり込まれてゆく。

 動きの基本は、音楽をなぞり、音楽に導かれ、ハーモニーにあわせて男女が戯れることによって、自ずと舞台上に「ドラマ」が描かれてゆく----。作為的 な “振り” は、ひとつとして見当たらない。音楽は大半がバッハで、一曲一曲が2~3分という長さの平均律曲集のプレリュードやフーガが次々に演奏される。途中に ウェーベルンやシェーンベルグといった現代作曲家の作品も流れるが、全編を通してバッハが一定の秩序をもたらし、そこに生まれるエスプリやアドリブの妙を 楽しむといったクラシックなつくりだ。

 この作品の一番の見所は、ダンサーひとりひとりの力量だろう。加えて、男性ダンサーの体格の差が大きく、それぞれが個性となって舞台にアクセントをもた らしている効果は大きい。もう一つの特徴は、まるでバスケットボールの動きで用いるピボットと同じように軸足を支点として、もう片方の足で宙にコンパスを 描くような動きだった。すべての動きが、このように点から点を結んでつくられていたり、小さな動きをモチーフとしてつなぎ合わせていたりして、そのコンセ プト自体がバロック音楽のそれに呼応していた。

 ダンサーの個性そのものが動きの特徴となるため、一曲ごとにソロやデュエット、トリオなどの組み合わせによって舞台上の空気は変わるが、実験的といった 感は否めない。作品全体を通した大きな流れはなく、まさにタイトルの「新聞」が意味するように、小さなドラマ(情報)を集めただけの休憩なしの2時間だか ら、後半になって席を立つ観客も数人見受けられた。その意味でも、最後まで渾身の演奏でバッハの魅力を余すところなく伝えたピアニストのアラン・フランコ の貢献度は高い。

 ローザスの創立以来のメンバー日本人の池田扶美代は、おかっぱでロングヘア、赤いハイヒールを履いて踊る東洋人といった目立つ存在で登場。他のダンサー とは一線を画したイメージで注目を集めたが、ヒールを履いて歩く姿にぎこちなさがみられた。全体的にも動き自体はやや型どおり、伸びやかさが感じられな かったのが残念だった。

 今後、この新作は6月までブリュッセルやアムステルダム、バルセロナ、グルノーブルなどをツアーする予定だ。