ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2007.07.10]

TEATRE DE LA VILLE パリ市立劇場から

Pina Bausch/Tanztheatre Wuppertal:Vollmond
ピナ・バウシュの新作『満月』にみた新境地

 パリの市立劇場で6月16~24日、ドイツに拠点を置く振付家ピナ・バウシュの新作『満月』(2006年)が、ヴッパタール舞踊団によって上演された。
舞台には巨大な岩がひとつ。やがて、月光のような柔らかい光があたり、その背後から滝が姿を現す。天上の高いところから水煙を立てて勢いよく水が流れ落 ち、床の上に跳ね返った水滴が舞う。水滴は川をつくり、岩を挟むような形で上手から下手へと流れる---。

舞台の上で繰り広げられる大自然の営みと同時進行して、男女が集い、戯れる。人間は、水に触れると、童心に返るのだろうか。水のエネルギーを得て、大胆に なり、岩の上からすべり落ちたり、川を列になって泳いだり、マッチで火をつけたところに水をかけて消したり、と、子供も考えるような“水との戯れ”を次か ら次へと展開する。

作品は二部構成。第一部では、様々なペアによる視覚的なコラージュとコラージュの間に、ダンサーたちによるクリエーションが繰り広げられてゆくのだ。 男と女、男と男、女と女・・・ソロもある。体格のいい女性が小柄の男性を顎で使ったかと思えば、男性に殴られかけた女性が「大丈夫?」と、自分を叩こうと した男性の手を労わる。股関節の柔らかい日本人ダンサーが、手の甲を反らせると東南アジア系の女性には叶わなかったりするシーンにも、ピナの優しい視点が のぞく。
多国籍ダンサー、背格好も多種多様なヴッパタール舞踊団ならではの身体ヴォキャブラリーの豊かさは、舞台の上で世界の縮図をみせてくれる。そして、人それ ぞれの個性が世の中をいかに楽しいものにしてくれるか、というメッセージを含んでいる。
芝居やセリフが、リアルタイムな人間関係を見せてくれる一方で、ダンサーのうねる身体や長い黒髪を用いた表現には、エロスも香る。

第二部は、ダンサーたちがもっと自由に、水をかけあったり、泳ぎまわったりと、シンセサイザーを用いた音楽の高揚感にともなって、人間の本能をむき出しに してゆく。しかし、後半には再び第一部で見せたペアによるコラージュの断片が提示され、ソナタ形式のような音楽的手法を思わせる。

ヴッパタール舞踊団創設時からのメンバーのひとり、ドミニク・メルシーは創作過程をこう話してくれた。
「ここ数年、ピナはまず僕らにアイデアをぶつけてくる。一人ひとりがその問いかけにどう答え、どう表現するか、宿題が出されるわけです。それを精査しなが ら作品をまとめてゆくのはピナ。つまりダンサーの持ち味でつくるインプロ部分が、ピナの構想力を得て、メッセージを発していくのです」
市立劇場では『満月』に先立って『バンドネオン』(1980)も上演された。四半世紀前のピナは、内なる葛藤や苦悩を演劇的手法によって表現する振付家と して知られたが、この『満月』では、もっと自然体で、感性に目を向けた新境地を伺わせる。


難を言えば、音楽の使い方。既製の録音を組み合わせたという。フォーク調あり、弦楽四重奏曲風あり、ロック調ありで、ポリシーが感じられない。クライ マックスを表現するのにも、シンセサイザーの音量の力を借りている面も否めず、やや安易な感じがした。
今後の上演予定は、以下のとおり。

2008年2月29日~3月3日、香港・香港カルチャーセンター

ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団 日本公演(予定)
2008年3月20日(木・祝)~3月23日(日)テアトロ ジーリオ ショウワ(新百合ヶ丘)「パレルモ、パレルモ」
2008年3月27日(木)~3月30日(日)新宿文化センター(東京)「フルムーン」
2008年4月2日(日)滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール(大津)「フルムーン」