ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2007.01.10]

BALLET DE L'OPERA パリ・オペラ座から

DEMONSTRATIONS Ecole de danse
バレエ学校公演 各学年の進歩の軌跡をたどる

 毎年恒例のオペラ座バレエ学校のデモンストレーションが12月10日、13日、17日にガルニエ宮で行われ た。午前10時半から下級生(一番下の6学年、5学年、4学年)、午後2時半からは上級生(3学年、2学年、一番上の1学年)が出演。基本的には、各学年 の男女が日々行っているバレエクラスを15~20分ほどに短縮した内容だ。バーレッスンからセンター、そこにアダージオやピルエット、ジャンプなどを組み 合わせて見せる。世界最高峰パリ・オペラ座団員を養成する機関で行われているエリート教育とはどのようなものなのか。10日午後の部と13日午前の部を見 学した。

  午前の部は、まずベルトラン・バレナ先生が率いるボーイズクラス。今年1月から6ヶ月間研修を受けた9~11歳未満で今秋から正式に学生として入学を許可 された7人と、今秋から1年間の研修生として入ってきた3人をあわせた10人が登場した。最初に行ったのは横隔膜を鍛えるエクササイズ。両足を肩幅に開い て立ち、両手で拳をつくって自分の横隔膜をバンバンと、リズムよく叩く。バレナ先生いわく「横隔膜がピルエットやジャンプの基本」だからだそうだ。


 続いてタンデュやデガジェ、フォンデュなどを見せてくれたが、どの男の子たちにも共通した体格があることに気づく。かなり細身で脚がまっすぐ。そして何 よりも足先がやわらかく甲がよく出ている。身体がどこまで柔軟性に富んでいるかどうかは不確かだったが、この足先は何よりも重要らしい。だから、歩行が美 しい。片脚の骨盤の上に体重をしっかり乗せてからもう片方の脚を後ろから前にデベロップするようにすっと伸ばし、アンデオールに開いたつま先、踵の上に体 重を移動させてゆく---。
この一番下の学年の中には、まったくの初心者として入ってくるケースもあるという。それが1年間でこのレベルに到達できるのは、英才教育もさることながら天分の身体によるところが大きいためだろう。

 実際よくみていくと、6学年(12歳まで)と5学年(13歳まで)あたりは、さしてテクニックは要求されていない。まずは膝をまっすぐ伸ばし、足先が美 しく見えるよう脚を使うこと、そしてプリエしたときに膝の位置(プレースメント)などを徹底させるエクサイズに終始している。だから子供たちにとっては退 屈しかねない内容だが、以前にも書いたとおり、そこはピアニストの技量がものをいう。

 全体的には、女子の方が粒がそろってレベルが高い。体つきも、男子の方にはかなりの開きがあるが、女子は押しなべて似ている。中に1人、少々肉付きのよ い女の子がいて「研修生か、留学生か?」と思ってしまったが、関係者に聞いたところ「最初からずっと優等生できていた」という。ダンスに真剣、勉強も飛び ぬけて出来る子で、首席扱いで昇級試験に受かってきたのだが、最近、体型が変わってきてしまったらしい。子供のころの食生活などが成長期に思わぬ形で影響 する場合も考えられる。先生たちから「痩せなさい」といわれても、本人の努力だけではバレエ向きの身体は手に入らない。来年の進退がかかっているという彼 女の身の上を知って、過酷な現実を思い知らされた。

 午後の部は、3学年(16歳未満)から1学年(18歳未満)まで。身体的にはぐっと大人びる。クラス内容にも難易度の高いテクニックが盛り込まれ、デモ ンストレーションの途中で脚を痛めて退場せざるを得ない男子(3学年)もいた。低学年でしっかりと基礎を身につけた女子たちは、ポワントの修練を基調とし たエクササイズばかり。一方の男子は、ブリゼや脚の交差を何度も行うジャンプが大半を占める。最終学年にクラスになると、集中力も高い。何かに取り付かれ たように舞い、跳躍する学生たちの一途さには胸を打たれるものがあった。


それにしても驚いたのは、男女組んでのアダージオの授業だ。1学年の男女と2学年の男子が参加して行われたのだが、バレエを本格的に学びはじめて6年目で こんなウルトラC級テクニックをマスターできるのだろうか。すべては、6学年の単調な「基本」の繰り返しがベースになっている。そして一学年ずつ、段階的 に学ぶべきときに学ぶべきものを学んでいる賜物だ。さらには、6年間のきちんとした構想計画に則って磨けば光る逸材が集まっているということだ。バレエの 鉄則とは正反対だが、労少なくして実り多しが、オペラ座バレエ学校では、多少なりともあたっている面がある。

もう一点、興味深かったのは純粋フランス人以外の生徒が、各学年にほぼ1人まじっていたことだ。日本人のハーフでも、最高学年の男子6人の中にタケル、そ の2年下に弟のジュンタロウ、女子では3学年に加藤レイチェル、一番下の6学年にエイドリアン=マモルがいた。髪の色が濃く、端正な体つきがよく目立つ。 とりわけ1学年のクラス発表では、先生がえこひいきではないかと思うほど「タケル」の名前を連発した。現在団員の藤井美帆に次いで、この中から将来、何人 がオペラ座に入団するのか楽しみだ。