ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2006.06.10]

ライトフット&レオンの新作に沸いたNDTのオペラ座客演

 久々に、目の覚めるようなコンテンポラリーの秀作に出会った。こう思ったのは私だけではないだろう。その場にいた観客の熱狂的な喝采が、感動を物語って いる。NDT(ネザ-ランド・ダンス・シアター)のポール・ライトフットとソル・レオンの共同振付(美術、衣裳、ビデオも)による最新作『サイレント・ス クリーン』(2005年4月初演)である。

 NDTの3つのグループが5月9日から一週間ガルニエに客演し、二つのプログラムを上演したが、『サイレント・スクリーン』は、第2プロのNDT1の公 演にお目見えした。冒頭で、舞台奥のスクリーンに、暗い海岸の風景が映し出され、三人の人物が立っているかと思うと、二人(パルヴァネ・シャラファリとホ ルヘ・ナザル)がこちらに向かって歩き出し、映像の中の人物は、背を向けて海の方へに向かっていく。これは、一人の女性の回想なのか、旅立ちのような二人 のデュエットに続いて、林の木立や赤いコートを来た少女、星空の映像などがバックに現れ、郷愁を誘う。映像が単なる背景として機能しているのではなく、舞 台のダンサーの踊りやフィーリングとこれほど密接に結びついている作品も珍しい。

 音楽は、フィリップ・グラスのものを組み合わせているが、特に、ロビンスの名作で有名な『グラス・ピーシズ』の部分の振付が圧巻。緩急自在の振付は、おなじみのロビンスの振付を忘れさせてしまうほど、全く新しいニュアンスをこの音楽から引き出している。
 かつては、キリアンの影響が強かったライトフットとレオンだが、今では、師を凌駕する独自のスタイルを作り上げている。NDTのみならず世界のダンス界をリードしていくのはこの二人、という確かな手応えを感じさせる作品だった。

 この後にキリアンの最新作『トス・オブ・ア・ダイス』(2005年4月初演)が上演されたが、『サイレント・スクリーン』の印象があまりに強かったため か、少々影が薄くなってしまった感があった。この作品は、キリアンの良きコラボレーターで昨年亡くなった美術家のウォルター・ノッブに捧げられたもので、 新宮晋による尖ったコンパスのようなオブジェが回転する下で、ダンスが繰り広げられる。従来のキリアンの語法に沿った作風で、見る側の予想通りに進む展開 に、もう一つ新味が感じられないのが残念だった。

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 これに先立つ第1プロの方は、モーツァルト・イヤーにちなんだ選曲なのか、NDT2の出演による、キリアン振付『スリープレス』(音楽モーツァルトによ るハウブリッヒのオリジナル、2004年初演)とライトフット&レオン振付『ポストスクリプト』(音楽グラス、2005年初演)、そして5年前、埼玉でも 上演された、NDT3によるキリアン振付『バースデイ』(音楽モーツァルト、2001年初演)という組み合わせ。

 バックの切り込みの入ったカーテンの間からダンサーが現れては消えていくミステリアスな『スリープレス』、グラスの音響の中で、シャープに空間を切り裂 いていく『ポストスクリプト』を通して、アンドレア・シェルモリー、小尻健太などNDT2の若いダンサーたちの台頭がたのもしく感じられた。これからがま すます楽しみなNDTである。

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