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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2005.06.10]

●ピナ・バウシュに沸く5月のパリ

----テアトル・ド・ラ・ヴィル『天地』、パリ・オペラ座『オルフェオとエウリディーチェ』----
  5月のパリは、ピナ・バウシュ旋風が到来した。まず月初めは、ヴッパタール舞踊団がテアトル・ド・ラ・ヴィルに招かれ、昨年日本で初演された『天地』を上 演した(5月3日~16日)のをはじめ、5月30日からは、ガルニエでオペラ座バレエ団による『オルフェオとエウリディーチェ』が幕を開け(公演は6月 19日まで)、両公演ともピナ・バウシュがカーテンコールに現れると、客席総立ちとなるなど、相変わらず大変な人気だ。

『天地』については、改めて紹介の必要はないと思うが、市立劇場のすり鉢状の客席からは、クジラのしっぽや背びれが突き出した地面に、雪がゆっくりと積 もっていく様がよく見渡せた。日本ピースとは言いながら、従来作られてきた世界の各都市をテーマにしたシリーズに比べ、日本的色彩はそれほど濃くはないも のの、劇場を超満員にした観客は、悠久の時空間の中に、日本を感じ取ったのかもしれない。“かつてなくシンプル”と評されたこの作品だが、エネルギーとノ スタルジーを満載した踊りと独特のユーモアに引き込まれ、休憩入れて3時間の長さをそれほど感じさせない。瀬山亜津咲、高木賢二の二人の日本人ダンサー も、年々存在感を増してきたのがたのもしい。

なお、今回話題の一つは、長年カンパニーで活躍しているダンサーのドミニク・メルシーの親子共演であった。鮮やかなオレンジ色の衣裳をまとったトゥスネルダのソロは強烈で、近いうちにこのカンパニーのスターとなっていくだろう、という予感を抱かせた。

ピナ・バウシュ<天地>

 


ジロー&ブリダール
   オペラ座が初めて取り上げたグルック作曲のオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』は、ピナ・バウシュがヴッパタールの劇場に着任して一年後の1975 年に初演され、“タンツ・テアター”に傾倒していく以前の純粋な踊りのスタイルに貫かれた“踊られるオペラ”である。グルックのオペラ『オルフェオとエウ リディーチェ』には、イタリア語版とフランス語版があるが、ピナは、フランス語版を使用(ドイツ語で歌われた)、ただしハッピーエンドである第3幕の第2 場と3場をカットし、<悲嘆><暴力><平和><死>と悲劇で終わる4場構成としたのがピナ版の特徴である。

指揮のトーマス・ヘンゲルブロック率いるバロック・オーケストラ、バルタザール=ノイマン・アンサンブルと合唱団はオケ・ピットに入るが、三人の独唱者は三人の主役ダンサーの分身として、舞台上で歌いながら、時にダンサーと交流するという手法がとられている。

この作品は、1993年に、ヴッパタール舞踊団がガルニエに来演した際に紹介され、深い感銘を残した。この時の主演はマルー・エロド、ドミニク・メルシー。二人は75年の初演時のキャストでもあり、今回は指導に当たっている。


さて配役は例によって、間際まで決定せずファンをやきもきさせたが、初日は、オルフェオがヤン・ブリダール、エウリディーチェがマリ=アニエス・ジ ロー、愛の女神(アモーレ)がミテキ・クドー。独唱者は、順にメッツォのシャルロッテ・ヘルカント、ソプラノのジャエル・アッザレッティ、ソプラノのアレ クサンドラ・ザモイスカ。


ジロー&ブリダール

ブリダール


舞台は、エウリディーチェの死を悼む<悲嘆>の場で始まる。横倒しになった枯れた糸杉の大木が象徴的で、舞台美術家ロルフ・ボルツィクの秀逸なアイディ アが光る。まず、この大木の枝のうねりに呼応するように繰り広げられる、黒衣のニンフたちの踊りが流れるように美しい。とりわけポール・ド・ブラが雄弁で ある。オペラ座版では、全体に踊り手が若いためか、コール・ド・バレエの瑞々しい生命力にあふれたアンサンブルが堪能できた。

  ソリストでは、何といってもエウリディーチェのジローが圧巻。踊りの見せ場は第3場、至福の園から始まるが、暗黒の世界の中でジローのソロは、官能的でま ばゆいばかりだった。崇高なまでに神々しいジローに対し、ブリダール演ずるオルフェオは、最初は、恋人を失って焦燥したやや頼りなげな存在に見えた。最初 から最後までほとんど出ずっぱりなので、ソロではもう一つ迫力がほしいと思わせる場面もあった。しかし、ピナによれば、“自分のオルフェオは、決してヒー ローではない”という。どこか弱々しさを感じさせながら、最後のエウリディーチェの死の場面では、人間的な魅力を感じさせ、観客の共感を呼んだオルフェオ であった。

ピナ版では、オルフェオがエウリディーチェの死を嘆く、最後の最も有名なアリアが歌われる時、ダンサーは舞台後方に背を向けてうずくまったままである。十二年前の上演でも、この扱いについて賛否が分かれたが、個人的にはやはりここでもオルフェオのソロがほしいと感じた。
他に傑出していたのは、アモーレ役のミテキ・クドーの第1場での明るくたおやかな役作り。またウィルフリード・ロモリは、コール・ド・バレエの中にあっ ても異彩を放っていたが、冥府の場での三ツ頭の地獄のケルベロス(ほかにニコラ・ポール、キム・ヨンゴル)のシーンで、迫真の演技が印象に残った。

ジロー


第3場の至福の園では、淡いバラ色のチュニックに身を包んだ精霊たちのアンサンブルが見ものだが、クドーほかエレオノラ・アッバニャート、エミリー・コゼットらの初々しい踊りに魅了された。
この作品は、今から30年も前に創られたものだが、今回の上演で新しい息吹を吹き込まれ、現代によみがえったようだった。ピナの作品をオペラ座が取り上 げたのは、『春の祭典』に続いてこれが二作目だが、この『オルフェオとエウリディーチェ』も成功し、長くレパートリーに残ることだろう。


ジロー、ベラルビに、指導のエロド、メルシー

アッパニャート