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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2005.03.10]

●リヨン・オペラ座バレエ団がギエムによるエック版『カルメン』などでパリ公演

 ヨルゴス・ルーコス率いるリヨン・オペラ座バレエ団が久々にパリ公演。フィリップ・ドゥクフレ振付『トリコデックス』とシルヴィ・ギエム主演のマッツ・エック版『カルメン』他という二つのプログラムが上演された(2月8日から20日まで)。

  エック振付の『カルメン』は、1992年にテアトル・ド・ラ・ヴィルで、クルベリ・バレエ団によって上演されているが、そのとき主演したエック 夫人アナ・ラグナがこれ以上考えられないほどのはまり役だったので、ドン・ホセを好演したマルク・ウォンとともに、それは鮮烈な印象を刻み付けた。音楽に は、シチェドリンの編曲が使われ、今でもこの曲を聞くと、30年以上前に見たプリセツカヤの名演が思い出されるのだが、エックは、ラグナのために、全く違 う独自のヴァージョンを作り上げ、その大胆さに驚かされたものだ。エック版は、スペイン人であるラグナの、自由奔放で野性的な魅力や、燃えるような情熱を 引き出すことに成功し、さらに夫人の持ち味を生かした素朴で、コミックな側面も振付に加え、ほとんどラグナのための作品とも言えた。

『カルメン』

 


『カルメン』
  このように、一人の強烈な個性のために創られた作品に挑むことに、ギエムにもためらいはなかっただろうか。ギエムのカルメンは、既にロイヤル・バレエ団で も評判になっているもので、初演のラグナとは全く異なリ、エックのというよりギエムのカルメンである。あでやかな立ち居振る舞いに、驚くほど瑞々しく、流 れるように優雅。エック版のカルメンとしては、品が良すぎた感があるものの、スターの貫禄で十分に観客を魅了した。

相手役のホセは、マッシモ・ムッルで、繊細でカルメンに操られるナイーブな役作りを見せた。
カルメンを殺したホセが、兵士たちに銃殺されるシーンからフラッシュ・バックして展開するエック版『カルメン』は、彼の代表作『ジゼル』などと並んで、 作品の地位を確立していくだろうか。客席には、オペラ座の舞踊監督ルフェーヴルの姿も見られたが、もしオペラ座でこのバレエを上演するとしたら、カルメン にはマリ=アニエス・ジローあたりが最適だろう。

『カルメン』の前に上演されたラッセル・マリファント振付の『クリティカル・マス』は、男性二人のデュオ。初演は1998年、リヨンでは2002年にレ パートリー入りしたもの。アシュレイ・チェンとジェレミー・ペローは、閉ざされた空間の中で、緊張度の高いデュオを披露した。


 第一 プロの『トリコデックス』は、カンパニーのダンサーたちの踊りを堪能させるというよりは、人工的な要素の助けを借りたメタモルフォーズの舞台。リヨン版は ドゥクフレが、自然史博物館を訪れた際の印象を膨らませて1986年に創作した『コデックス』の第4版にあたるそうで、2004年3月に初演された。
 足に巨大な水かきをつけて走り回ったり、動物の角や触覚をつけてシュールに変貌したり、アルウィン・ニコライやサーカスの世界に至るまで、ユーモアたっ ぷりの1時間20分。メンバーの中に、一時オペラ座からフォーサイスのもとに移っていた長身ダンサー、ペギー・グルラの姿みつけたのも懐かしかった。


『トリコデックス』

『トリコデックス』