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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.11.10]

●プレルジョカージュの新作、バレエ学校新校長プラテルほか、パリ・オペラ座の話題

開幕シリーズから次の公演まで、少し間があったので、今回は、シーズン始まりのバレエ団の話題を拾ってみたい。

◇プレルジョカージュの新作『メデの夢』

 <プレルジョカージュ・プロ>の初日は、11月5日。この号がアップされている頃は、すでに公演の幕が開いているはずだが、ここでは、新作『メデの夢(LE SONGE DE MEDEE)』のリハーサル風景や振付家のコメントなどをご紹介しておきたい。この作品は、現代フランスを代表する気鋭の振付家アンジュラン・プレルジョカージュが、『公園』『カサノヴァ』に続いてオペラ座から委嘱を受けた3作目。

音楽はヴェネツィア出身のマウロ・ランザ(オペラ座と現代音楽研究所のIRCAMからの共同委嘱)。電子音楽を用い、演奏は、アンサンブル・クール=シルキュイ。装置は、『公園』『カサノヴァ』でもおなじみのティエリー・ルプルースト。

併演される『MC 14/22《CECI EST MON CORPS》 (マルコによる福音書第14章22節「これは私の体」)』(音楽テッド・ザーマル。2001年プレルジョカ-ジュのカンパニ-で初演)が、14人の男性舞 踊手のための作品なので、新作は、女性舞踊手のための作品を意図したという。ギリシャ神話の『メデ(メディア)』を題材にしたものだが、ストーリーをなぞ るのではなく、メデの夢や隠された欲望、無意識などをテーマにしたいと振付家は話している。長さは約40分。

<メデの夢>

 


<メデの夢>リハーサル

<メデの夢>リハーサル

<メデの夢>


 「この作品では、2人登場する子供の存在や幼児性が大事。外部からオーディションをして、6人の子供を選んだ。楽譜に従って振付けたが、音楽と葛藤する部分もあった。」
 ソリストは、ダブルで、A組がマリ=アニエス・ジロー、ウィルフリード・ロモリ、エレオノラ・アッバニャートで、B組がアニエス・ルテステュ、ローラン・イレール、アリス・ルナヴァン。A組では、フィルム撮りも予定されている。


<メデの夢>
  「イレール、ロモリは、私の作品ではお馴染みのソリスト。ジローとは、『カサノヴァ』『受胎告知』に続いて3作目になる(『公園』にも、初演の時から群舞 の一員として出演)。私の作品に初めて出るルテステュは、どちらかと言うと、クラシックだが、魅力的なダンサー。私はあまり他のカンパニーに振付けること はないが、オペラ座はほとんど唯一の例外で、冒険だと思っている」と抱負を語った。

ルフェ-ヴル舞踊監督によれば、今シーズンの新作は、先に初演されたジェローム・ベルの『ヴェロニク・ドワノー』はじめ、今回の『メデの夢』、そしてトリシャ・ブラウンの新作まで、アンサンブルではなく、個人のために振付けられたものが並んだが、これは偶然だという。 
『メデの夢』では、新エトワ-ルのジローの新たな魅力が引き出されそうだが、これからのプログラムを眺めながらキャスティングを想像してみると、ほとん どの作品で、女性では、まずジローの名が思い浮かぶ。今シーズンは、この人のためのシーズンと言ってよいかもしれない。一層の活躍が期待される。



◇プラテルが新校長に就任したオペラ座バレエ学校

 オペラ座バレエ学校 は、今シーズンから、クロード・ベッシーに替わって、エリザベト・プラテルが新校長に就任し、新時代を迎えた。これにあたって、10月半ば、バレエ学校が関係者に公開された。

 学校の建物は、パリ郊外のナンテール・プレフェクチュール駅にある。ガルニエのあるオベール駅から高速地下鉄RERのA線に乗り約10分。駅から1、2分歩くと、白壁のモダンな建物が目に入る。
 87年に竣工したこの建物は、10のスタジオや300席の小劇場などを要するダンス棟と、寮やカフェテリア等がある住居棟、そして午前中の学科授業に使 われる一般教育棟の3つの部分からなる。最初に通されたのは、ダンス棟の広々としたロビーで、5階建て(日本流6階)のこの建物の上から続く螺旋階段が、 バレエ学校のシンボルともなっている。ガラス越しに、エリック・カミヨが指導する男子クラスのレッスンが目に入る。ロビーには、ニジンスキーのばらの精の 写真が大きく掲げられ、壁には、プラテルはじめ、パトリック・デュポン、ギエム、ゲラン、アヴェルティ、ルテステュなどオペラ座のスターたちの写真が飾ら れている。


エリザベト・プラテル新校長

螺旋階段のあるロビー

ロビーのニジンスキーの写真


 一角に置かれたテレビでは、何年か前、シャンゼリゼ劇場で行われた学校公演の『二羽の鳩』のビデオが流れている。主役を踊っているのは、ジュリエット・ジェルネズである。
 この日は、プラテルが新支配人を伴って、自ら校内を案内してくれた。校長先生というより、まだエトワール現役時代の華やかな舞台姿が焼きついているので、 バレリーナ・アソリュータの称号の方が似つかわしいような雰囲気をたたえている。けれども、素顔は、思ったより気さくであった。
 「私の部屋には、カルロッタ・ザンベッリの肖像が飾ってありますが、私の先生のクリスチアーヌ・ヴォサールは、ザンベッリの最後の生徒でした。 こうしたつながりを考えると感無量です」とは、プラテルの就任のあいさつ。現在在校生は114人。教師陣の顔ぶれなどに変更はなく、医療スタッフを強化した以外は、特に大きな変化はないようだ。 もっとも、前任のベッシ-校長が、自身が辞める前に、教師陣まですべて決めておいたようなので、当面、プラテルが”改革”を行う余地はあまりないのかもしれない。

  夕方、4時半、すべてのレッスンが終わり、子供たちが、次々に上から降りてくる。厳しい競争をくぐり抜けてきただけに、どの子も、まず容姿の美しさで際 立っており、別世界から来た天使のようだ。中に、何人か、松葉杖をついた子供を見かけたが、怪我が多いのだろうか、痛々しい。
1713年創立の世界最古の歴史を誇るこの名門校は、2013年に300年祭を迎える。そのころには、プラテル校長の独自のカラーが現れていることだろうか。
今シーズンのデモンストレーションは、12月と1月、恒例の春の公演では、エトワールのジョゼ・マルティネズに委嘱した『スカラムーシュ』初演の他、バランシン振付『クープランの墓』、アヴリーヌ振付『ニ羽の鳩』が上演される。

ファニー・ガイダのクラス


◇パリ・オペラ座後援会(AROP)賞

 今年度のパリ・オペラ座後援会(AROP)賞の授賞式が、10月22日、ガルニエのグラン・フォワイエで行われ、コリフェのマチルド・フルステー(19歳)とスジェのステファン・ブリヨン(24歳)の二人が受賞した。
 二人とも、このところソリストの役に起用されることが多くなったが、とりわけ1月のグリゴローヴィチ振付『イワン雷帝』の全幕主演で、大成功を収めたことが高く評価されたもの。
 フルステーにとって、この受賞は、7月のヴァルナ国際バレエ・コンクール優勝に続く快挙。漆黒の髪に、エキゾティックな美しさで、バレエ学校の卒業公演以来、ファンの熱い視線を浴びてきた逸材。 先頃の『エチュード』の舞台でも、きらめくようなテクニックを披露し、めきめき頭角を現わしている。次は、年末の『眠れる森の美女』にちょっとした役で出るそうだ。
 一方、ブリヨンは、イワンの大役を務めた後、この夏、ルグリが率いるオペラ座メンバーたちとともに来日し、日本でもおなじみのダンサー。 9月から10月の開幕プロでは、ロビンスの『グラス・ピーシズ』のソリストに抜てきされるなど、バレエ団のホープとして期待をかけられている。


ステファン・ブリヨン<イワン雷帝>のイワン

マチルド・フルステー<ラ・フィユ・マル・ガルデ>


◇パリ・オペラ座写真集刊行

 パリ・オペラ座ガルニエの取材を中心に、エトワールたちの素顔やバレエ団のリハーサル風景をとらえた『DANSE A L'OPERA(オペラ座のダンス)』と題する写真集が、クリスマスを前に刊行された。
著名な写真家のステファン・ルエが2年間近くかけて撮影したもので、パリ以外に、昨年の日本公演のスナップもいくつかあり、目を楽しませてくれる。 掲載写真は約250点。舞台写真は一切ないが、ひときわあでやかなオレリー・デュポンをはじめ、ヌレエフのような風格を漂わせるローラン・イレール、初々 しいマチュ-・ガニオ、 リラックスした素顔もすてきなニコラ・ル・リッシュなど13人のエトワールのポートレートが見ごたえたっぷり。日本で大好評を博した映画『エトワール』が 写真集になったような、と言ったらよいか、オペラ座の楽屋裏の雰囲気を十二分に伝えてくれる一冊である。170ページ。35ユーロ。Albin Michel(アルバン・ミシェル)社刊。
なお出版にちなんで、写真展もガルニエで来年2月20日まで開催。

オペラ座写真集
表紙


◇パリ・オペラ座機関誌

 今シーズンから、オペラ座では、隔月で無料の機関誌『Ligne 8(リーニュ8)』を発行している。タイトルは、ガルニエとバスティーユの両劇場のある地下鉄の駅、オペラとバスティーユを結ぶ8号線に由来する。
 このほどその第2号が出た。第1号はオペラ特集だったが、今回はバレエ特集。表紙はデュポンとルグリとル・リッシュ。12月のトリシャ・ブラウンの新作に主演するトリオである。 ベルティエの大道具製作所で撮影されたものらしく、倉庫の片隅に、ジーンズ姿でたたずむ3人の写真(男性2人はひげをはやしている)は、オペラ座ファンでも気をつけないと見逃してしまいそう。 従来のエトワール像に、新鮮なイメージを与えようという、新監督モルティエの意向がここにも伺える。
 巻頭には、舞踊監督ルフェーヴルとテレビの人気キャスター、クレール・シャザルとの対談が掲載され、これから年末にかけて上演される<プレルジョカージュ・プロ>や、 ブラウン他ミックス・プロ、『眠れる森の美女』に主演するアニエス・ルテステュの記事などが目玉になっている。バレエ特集号なのだが、不思議なことに、ダンサーの舞台写真が一枚もない。 著名人との対談を掲載することで、新しいファンを開拓しようというねらいも分かるが、オペラ座ファンには、内容が表層的で物足りないようだ。

 この機関誌、体裁や写真は、年間カランドリエと同様スノッブで、目新しいのだが、バレエの舞台をイメージさせる写真が一枚もないのは、 バレエを初めて見る人にアピールするにはちょっと不親切ではなかろうか。そもそも今シーズンのオペラ座は、開幕から、チケットの値上げなどが原因で、オペラもバレエも観客動員が伸び悩んでいるという話なのだ。
 かつて80年代のヌレエフ時代にも、機関誌が発行されていたが、その時は、公演の舞台記録(ヌレエフ世代のダンサーたちの活躍がまぶしい)やダンサーの近況およびプロフィール、 ガルニエの劇場の機構の紹介など、一般のファンが知りたい情報が満載されていて、資料的価値も十分にあった。せめて、表紙だけでも、デュポンかルテステュのオーロラ姫の写真だったら、この冊子は、たちまちインフォメーションのカウンターからなくなってしまったことだろう。