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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.10.10]

●オペラ座バレエ開幕は『エチュード』、ジェローム・ベルの新作『ヴェロニク・ドワノー』

 今シーズンからジェラール・モルティエ=ブリジット・ルフェーヴル体制になった、 パリ・オペラ座バレエ団は、9月22日、<ベル/ランダー/ロビンス>のミックス・プログラムで、シーズンの幕を開けた。

 初日は、前号既報の通り、ハラルド・ランダー振付『エチュード』、ジェローム・ベルの委嘱新作『ヴェロニク・ドワノー』、ジェローム・ロビンス振付『グラス・ピーシズ』の3本に加え、 『デフィレ』とバランシンの『ソナチネ』が上演され、盛りだくさんの内容となった。演奏は、ポール・コネリー指揮コロンヌ管。
 冒頭の『デフィレ』では、先シーズン任命された新進エトワールのマリ=アニエス・ジローとマチュー・ガニオに注目が集まり、女性、男性とも初めから大きな声援が飛び、盛り上がった。 現在、エトワールは、女性6人に男性7人。クレールマリ・オスタが欠場した代わりに、プルミエールのカリン・アヴェルティがエトワールの列に加わっていた。

 続いては、世界初演となったジェローム・ベル振付の『ヴェロニク・ドワノー』。 ドワノーといえば、90年代の初めに、ロビンスの『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』で、エトワール達に混じって、一人スジェの彼女が抜てきされたのが今でも鮮明に思い出される。 女優かモデルになってもよさそうな可憐な顔だちで、いつも舞台で目を引く存在だった。
装置も何もない舞台に、ドワノーは、チュチュとミネラルウォーターを手に歩いてくる。
”こんばんは。私の名前はヴェロニク・ドワノー。結婚していて、5歳と11歳の二人の子供がいます。 今41歳で、来年引退します。遠くに座っている方には、イザベル・ユペールに似て見えるかもしれません。…”。 作品は、このようなモノローグで始まり、お気に入りのヌレエフ振付『ラ・バヤデール』より第3幕のオンブルの第2ヴァリエーションやマース・カニングハム振付『ポインツ・イン・スペース』、 踊るのが夢だったという古典版ジゼルのヴァリエーション、そして、逃げ出したくなるほど耐え難いと告白するプティパ振付『白鳥の湖』第2幕の群舞のポーズの場面などが紹介されていく。 落ち着いたよく通る声で、時にユーモアと悲哀を交えながら、オペラ座のコール・ド・バレエのメンバーの偽りのない姿を浮き彫りにしていく一つ一つの場面には、それぞれ説得力がある。


 最後に、”偉大なバレリーナ達から感化されました。 ショヴィレ、マカロヴァ、カルフーニ…。今は、セリーヌ・タロンがマッツ・エックの『ジゼル』を踊るのを見たい”と語り、 舞台に座ったところで、タロンが現われ、ジゼルのソロを踊る。この作品を踊るために生まれてきたようなタロンの名演をここで見られるとは、素敵な観客サービスでもあった。 そして、レヴェランスで、この作品は幕を閉じる。
 振付というよりアイディアと構成で聞かせ、見せたベルの新作であった。オペラ座バレエ団のヒエラルキーを象徴するデフィレで始まり、 エトワールとコール・ド・バレエへのオマージュとなった他の作品を組み合わせた開幕の夕べにあって、コール・ド・バレエの視点からバレエ団を展望するという新作のねらいは、 それなりに考えられたものなのだろう。観客の拍手は、振付者にではなく、むしろドワノーの熱演に対して贈られたものと言ってよいだろう。 ただ、気にかかるのは、彼女が引退したら、この作品はどうなるのだろうか、ということだ。ダンサーを替えて、各々が各々のキャリアを振り返るというものになるのであれば、再演の可能性も出てくることだろう。


『エチュード』

  さて、休憩を挟んで、ようやくランダー振付の傑作 『エチュード』 (ツェルニー曲、リーサゲル編曲)で踊りの醍醐味を十二分に堪能することができた。 初日のソリストは、アニエス・ルテステュ、ニコラ・ル・リッシュ、ジョゼ・マルティネズの三エトワール。 10年前の上演では、若手三羽烏として人気を集めた彼らも、今ではすっかりオペラ座を率いていく余裕と貫禄が身に着いてきて、たのもしい。 高速のシェネから、跳躍を交えたフェッテまで超絶技巧を涼しい表情でこなすルテステュ、ダイナミックな存在感を示したル・リッシュ、 ピルエットからジャンプに至るまで、すべてに完璧なコントロールを見せたマルティネズ。素晴らしかったのは、ソリストだけではない。 女性24人、男性12人で構成されるコール・ド・バレエの一糸乱れぬアンサンブルは、これこそオペラ座ならでは。 幕開きで、5番のプリエを披露したドロテ・ジルベール、ヴァルナ優勝のマチルド・フルステー、ミリアム・ウルド=ブラーム、エマニュエル・ティボー、 ヤン・サイズ、ジュリアン・メザンディ…全員の名前を挙げたいくらいである。
 なお、今回のシリーズの間に、『エチュード』は、上演260回目を迎えたが、回数に関連して、思い出されたことがある。 この作品が100回目の上演を記録した1963年9月25日、オペラ座バレエ学校の校長のポストにあった振付のランダーは、 時のオペラ座総支配人のジョルジュ・オーリックから、突然解雇されたのだった。 真相は定かではないが、これはオペラ座史上のスキャンダルの一つである。しかし、ランダーがオペラ座を追われても、彼の『エチュード』は、不滅である。

 この後、オレリー・デュポンとマニュエル・ルグリによるバランシンの『ソナチネ 』が特別に上演された。 ピアノ伴奏に合わせ、音楽と溶け合ったようなデュエットは、水の反影にも似たきらめきを感じさせ秀逸であった。

 ラストのフィリップ・グラス曲、ロビンスの傑作『グラス・ピーシズ』は、ソリストのマリ=アニエス・ジローの魅力で新たな息吹を吹き込まれたかのようだった。 影のコール・ド・バレエをバックにしたミステリアスなシーンで、カデール・ベラルビと対になって踊るジローの姿には、神々しささえ漂い、エトワールの貫禄十分。 群舞の間を縫うように駆け巡るベアトリス・マルテル&ステファン・ブリヨン、エミリー・コゼット&ニコラ・ポール、 セリーヌ・タロン&ギヨーム・シャルロの3組のペアも研ぎすまされた動きが美しく、ラストの群舞の追い上げも大変な迫力で、圧巻の一語に尽きる。

 ところで、この作品の指導に当たったのは、NYCBのジャン=ピエール・フローリッチ。 元オペラ座エトワール、イザベル・ゲランの夫君で、今回ゲランも御主人に同行して、会場に姿を見せていた。

『ソナチネ』

『グラス・ピーシズ』

『グラス・ピーシズ』