ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.10.10]

●コンテンポラリーはプレルジョカージュの最新作『N』で幕開き

 パリの新しいシーズンは、プレルジョカージュ振付『N』で開 幕した。公演は、シャイヨ劇場で、9月15日から26日まで。この作品は、6月のモンペリエ・ダンス・フェスティヴァルで初演されたもの。初演の時から仮 につけられたタイトルの『N』が何を示すのか定かではない。発音から連想されるのは、まず”haine(憎しみ)”だが、科学記号や数学の記号を連想する こともできる。あるいは、”nu(裸の)"、"nul(無の)"、"nuit(夜)"、”nature(自然)”…の頭文字なのかもしれないと、いろいろ 考えさせられる。振付者によれば、ここでは、言葉にできないもの、つまり苦痛や苦悩、怒り、そして消え行くベクトルとしての身体についてを、今日的テーマ として提示したかったのだという。

 舞台は、終始暗く、ノイズのような音響が少しずつトーンを変えながら続く(映像、舞台:クルト・ヘンシュラーガー、音響:ウルフ・ラングハインリヒ)。 冒頭、暗がりの中に二つの小山が姿を現わし、そこから裸の男女の姿が浮き上がっていき、動物的な闘争を展開していく光景は、ベジャールの『春の祭典』の始 まりの部分を思い起こさせる。バックに、行進する兵士たちの群像の映像が映写され、その前に、人々が倒れ、虐待される姿を目にする時、いやでも昨今ぼっ発 するテロ事件や戦場や捕虜収容所等の光景を思い出させる。

 プレルジョカージュは、以前、『戦いの後の光景』という作品を創っているが、彼も、緊迫した現代社会や世界の情勢に対して敏感な振付家の一人である。ダ ンサーたちは、ほとんど裸の状態で踊る。無に返ってということか、それとも、最近の時流に乗って、身体性について問いかけようというのだろうか。終盤、ダ ンサーたちが、強烈なストロボライトを浴びながら、倒れていくシーンに至るまで、周到に計算が行き届いた舞台であった。 ダンサーたちも選りすぐられたといった印象を受けた。
 来月は、いよいよオペラ座のために新作を振り付ける。これで3作目の委嘱になるが、『公園』から『カサノヴァ』へと次第に過激になっていくその作風の変遷が気になる。


プレルジョカージュ『N』