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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.05.10]

●オペラ座が能から題材を得たボンバナ振付『7番目の月』を初演

  オペラ座の4月公演は、ニジンスカ振付『結婚』、ポール・テイラー振付『春の祭典』に世界初演を1曲加えたミックス・プロ(16日~29日ガルニエ)。ス トラヴィンスキーの音楽に振り付けられたバレエ2曲と、ギリシャ系フランス人作曲家ジャン・プロドミデスの委嘱音楽に、イタリア出身のダヴィデ・ボンバナ が振付けた新作『7番目の月』である。
3つの作品に共通するのは、『結婚』が、4台ピアノと打楽器に独唱者と合唱という編成で、『春の祭典』はピアノ連弾版での上演、そして『7番目の月』が ピアノと打楽器を含む管弦楽という、音楽の編成にピアノあるいは打楽器が使われているという点である。ただ実際に、見る側にとって、こうした共通項はそれ ほど意味がない。むしろ、オーケストラがバスティーユでのオペラ公演で手一杯のため、オケを使わずにすむ演目が並べられたという印象である。

 まず『結婚』は、以前、<ニジンスカ/ニジンスキー>プロで上演された時の方が、振付の上で兄妹の絆が感じられて非常に効果的であったように思う。確かに、群舞のエネルギッシュで密度の高いアンサンブルには感嘆させられるが。
テイラー版『春の祭典』(80年初演)は、84年にGRCOP(パリ・オペラ座振付研究グループ)で取り上げられ、4年前にテイラーのカンパニーの来演 の祭にも上演されている。あまたの版がある『春の祭典』を、あえて妄想とブラック・ユーモアで読み直したもので、ニジンスキー版の『春の祭典』のリハーサ ル中に、女性ソリストの赤ちゃんが誘拐されるエピソードが盛り込まれている。生けにえのソロの部分は、赤ちゃんを殺された女性のショックと悲しみの踊りと いう設定となっている。ソロを踊ったジェラルディーン・ヴィアールと交替のミュリエル・ジュスペレギーがそれぞれ好演。

ニジンスカ<結婚>中央はモロー

『7番目の月』は、能の『班女』から着想されたものだそうだが、プログラムのどこにも書かれていないが、振付者が、ダンス専門誌のインタビューで語って いるところによると、元になっているのは三島由紀夫の現代能『班女』の方らしい。恋人である青年を待つあまり、気がふれた女性(班女)と、その女性を愛す る別の女性と、3人の主要登場人物を中心にバレエは展開する。三島版によっているので、原作の能と異なり、恋人たちは、扇を交換せず、狂った女性は、戻っ てきた青年を認めることなく、永久に待ち続けるという終わりになっている。タイトルの『7番目の月』とは、二人が別れた秋の季節を指している。舞台は、衣 裳(デザインはヨシキ・ヒシヌマ)も白と黒で、天井から下がる黒いオブジェ(ジュリオ・パオリーニ)が、作品の重要な要素である季節と時間と扇を象徴し、 時を刻んでいく。

45歳のボンバナは、89年~98年ミュンヘン・バレエ団のメートル・ド・バレエ、98年~2000年フィレンツェのマッジオ・ダンツァ・バレエ団の ディレクターという経歴の振付家で、ファン=マーネン、エック、キリアン、フォーサイスらから影響を受けていると自ら語っている。まず冒頭、黒幕で攻めた 舞台の空間に、純白の巨大な布が扇状に開き、その要に二人の恋人が位置し、突然扇がパッと裂けるシーンが鮮烈だが、すぐにキリアンの『ベラ・フィギュラ』 で使われた黒幕と巨大な布の効果が思い出される。振付も、デュエットのプロムナードなどは、キリアンやフォーサイスの影響が濃く、恋人たちの分身のように 扱われる群舞の躍動的な踊りは、エックを思い起こさせるなど、様々な引用が目立ち、ボンバナ独自の作風が見えてこない。また、ことさらドラマティックな演 出をとっていないため、『班女』のストーリーを知らない観客には、3人の関係がよく理解できなかったのではなかろうか。プロドミデスの音楽が、鐘の響きや 笙の音を想起させるような東洋的な音響を巧みに構成したものだっただけに、振付の掘りさげが足りなかったのが残念だ。

初日は、班女のアニエス・ルテステュと青年のジョゼ・マルティネズが、踊りは切れ味がよかったものの、表現がややニュートラルで冷めていた。衣裳が似て いたこともあるが、数年前このペアで上演されたガロッタ振付『ユリシーズのヴァリエーション』を想起させられた。もう一人の女性、ステファニー・ロンベル グは、黒の衣裳が似合い、怪しい雰囲気を醸し出すのに成功。交替のペア、イザベル・シアラヴォラとヤン・サイズは、東洋的な神秘を感じさせるシアラヴォラ が抜群のプロポーションで際立ち、俳優並みの端麗な容姿をもつサイズの存在感も忘れがたく、組み合わせによって雰囲気が大きく変わるのが面白かった。
しかし、残念ながら、踊り手たちの熱演にもかかわらず、このプログラムは、初日を過ぎると、日増しに客席に空席が目立ち始め、今シーズン最も人気のないプログラムに終わってしまったようだ。

ボンバナ振付<7番目の月>

<7番目の月>
シアラヴォラ&サイズ