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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.12.10]
From Osaka -大阪-

野間景と碓氷悠太が踊った、明解で内容が充実した山本隆之版『くるみ割り人形』

野間バレエ団
『くるみ割り人形』山本隆之:改訂振付、マリウス・プティパ、レフ・イワノフ:原振付

今年の野間バレエ団の定期公演は、山本隆之が初めて振付けた『くるみ割り人形』全幕だった。野間バレエ団が『くるみ割り人形』全幕を上演するのは、2006年の高岸直樹版以来9年振りだそうだ。『くるみ割り人形』を人気演目としてたびたび上演するバレエ団が多い中では、少し珍しく感じられる。定番型の公演よりも新しい人材の登用や、意欲的な創造的な公演に重きをおいているからであろうか。
今回は、アメリカ、ジョフリー・バレエ団で踊った後、新国立劇場バレエ団でプリンシパル・ダンサーを務め、活躍している山本隆之が、全幕バレエの振付に初挑戦した。
キャストは、山本隆之自らドロッセルマイヤーを演じ、金平糖の精をプリマの野間景、王子(ドロッセルマイヤーの甥)に碓氷悠太、クララには荒瀬結紀子、クララの父/雪の王に後藤晴雄、クララの母/雪の女王にユリア・レぺット、フリッツ/雪の王子は末原雅広、くるみ割り人形に恵谷彰だった。

osaka1512a_0824.jpg 荒瀬結記子
撮影/波片一乃(テス大阪)
osaka1512a_1395.jpg 野間景、碓氷悠太
撮影/波片一乃(テス大阪)
osaka1512a_0407.jpg ユリア・レペット、後藤晴雄
撮影/波片一乃(テス大阪)
osaka1512a_0135.jpg 山本隆之 撮影/岡村昌夫(テス大阪)

『くるみ割り人形』の演出・振付として特徴的だったのは、ドロッセルマイヤーの甥の存在を明確に位置付けたことが挙げられる。彼は、開幕そうそうからシュタールバウム家のクリスマス・パーティへ、プレゼントをいっぱい積んだ橇を挽いて向かうドロッセルマイヤーに付き従って登場する。彼を意識しているクララは、夢の世界でくるみ割り人形から変身した王子に憧れる。そこでは、父が雪の王、母は雪の女王、悪戯好きの兄フリッツは、雪の王子としてクララの前に現れる。これは山本がニューヨークで初めて観て、プロのダンサーになろうと決意したジョフリー・バレエのアルピノ版を参考にして構成したものだというが、理に適った設定でとても理解し易い。
『くるみ割り人形』は、じつに様々なヴァージョンが上演されているが、E.T.A.ホフマンの原作小説『くるみ割り人形とねずみの王様』の、ねずみ界によって醜いくるみ割り人形に変身させられた王子、という設定の取り扱いがなかなか難しい。この少々グロテスクな話を、少女を主人公としたクリスマスのバレエに、どのように組み込むか、なかなかすっきりとした物語にまとまらないのである。しかし、山本版のように、クララの夢の世界が現実の家族とパラレルであり、彼女の憧れがドロッセルマイヤーの甥を通して王子として現れる、となれば明解に理解できる。
無論、二次的作品のバレエの場合、原作は尊重しなければならないかもしれないが、結局は独立した作品の完成度が重要であることにかわりはない。

osaka1512a_0534.jpg 荒瀬結記子、碓氷悠太 撮影/岡村昌夫(テス大阪) osaka1512a_8029.jpg 撮影/岡村昌夫(テス大阪)

さらに第1幕2場の粉雪の舞うモミの木の森の雪のワルツは、パラレルな夢の世界への導入シーンとなり、いっそう見応えのあるものとなる。特にここで、フリッツと雪の王子を演じた末原雅広が良かった。スクール・オブ・アメリカン・バレエ出身でニューヨーク・シティ・バレエ団とも踊ったキャリアを持っている。見事にスピーディな動きでシーンをリードし、舞台全体を盛り上げた。吉田都と堀内元による「Ballet for the Future」でも踊っていたので印象に残っていた。かつて観た様々な『くるみ割り人形』のヴァージョンの中でも内容の充実した雪のワルツだった。
また、夢世界の登場人物が家族が変身した姿だったということは、多少、夢の幻想性は弱まったかもしれないが、クララにとっては必然的な夢だったと言える。そしてこの誰でも思いつきそうなアイディアは、天才的なひらめきというわけではないが、作品の内容を緻密にしっかりと考えたもので、きちんと評価すべきだと思われる。第1幕の適切な構成により、第2幕の冒頭の天使たちのシーンも印象的だったし、金平糖の精と王子の対話などをスムーズに観ることができた。

osaka1512a_0558.jpg 碓氷悠太 撮影/岡村昌夫(テス大阪) osaka1512a_8059.jpg 撮影/岡村昌夫(テス大阪)

ドロッセルマイヤーの山本隆之は、新国立劇場バレエでも踊った経験があるだけに落ち着いた演技で、舞台全体を良くをまとめた。金平糖の精の野間景は、華やかに踊り、プリマとしての存在感を充分に示したし、碓氷悠太とのパートナーシップも良かった。日本人には珍しく碓氷はいかにも王子らしいダンサーで、素晴らしいカップルだった。クララを踊った荒瀬結記子は、純粋な少女の気持ちを全幕を通して的確に踊りきった。他にも後藤晴雄は相変わらず安定した踊りだったし、ユリア・レペットは相変わらず美しく、もっと踊って欲しいという気持ちにさせられた。
このカンパニーは、次はどんな試みにチャレンジしてくれるのか、大いに楽しみである。
(2015年11月1日 ソフィア・堺ホール)

osaka1512a_0588.jpg アラビアの踊り 撮影/岡村昌夫(テス大阪) osaka1512a_0625.jpg フランスの踊り 撮影/岡村昌夫(テス大阪)
osaka1512a_0665.jpg ロシアの踊り 撮影/岡村昌夫(テス大阪) osaka1512a_8041.jpg 撮影/岡村昌夫(テス大阪)