一段と深みと迫力を増した再演──サイトウマコトの世界vol.11『ロミオとジュリエット』
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
サイトウマコトの世界vol.11
『ロミオとジュリエット』サイトウマコト:振付
3年前に初演された折、文化庁芸術祭優秀賞を受賞したサイトウマコト振付『ロミオとジュリエット』の手を入れての再演。初演時も観たが、一段と深みと迫力が増し、終盤、ゾクゾクしっぱなしでの鑑賞となった。
撮影:松本豪
ジュリエット:池田由希子 撮影:松本豪
巨大な繭のようなものが折り重なったオブジェが中央奥にある舞台。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を元にしているのはもちろんなのだが、このサイトウ版の舞台は近未来なのだという。そこに、いつの時代もこんな悲劇が繰り返し起こっているのだということを思い知らせるように「ロミオに重なる魂」(上村崇人)と「彷徨える亡霊」(中津文花)という抽象的な存在がいる。この2人が、物言わぬ狂言回しのように、全体に絡みながら物語が進行した。
ロミオ:斉藤綾子 撮影:井上大志
ジュリエットを踊ったのは池田由希子。華奢で、小動物のようだったり、人間ではない不思議な存在と思えるような空気感をまとった彼女。彼女がいてこそのこの作品とも思える独特の魅力を持ったキャラクターだ。そして、3年前以上に深みと迫力が増していたのも良い。そして、ロミオも女性だというのが、この版の特徴の一つで、斎藤綾子が踊った。中性的な魅力で、大人になりきっていない少年だからこそ突っ走る、そんなピュアなロミオを体現した。
マキューシオの藤田彩佳も長身で中性的だったり、ベンヴォーリオの十川大希も少年っぽい雰囲気を残したダンサーで、3人がしっくりと合うのも良い。原田みのるのティボルトの凄み、矢崎悠悟の修道士ロレンスの味のある演技、藤原美加のぽっちゃりとした乳母のユーモアを感じる演技など、実力派ダンサーたちが適材適所で活かされていた。そして、夏山周久のエスカラス大公の圧倒的な威圧感。この役の衣装はUDAGAMI COSTUMEによるものだったのだが、このオフホワイトの手漉き和紙で作られた衣装も目を引いた。
ジュリエット:池田由希子 撮影:井上大志
衣装ということでは、パリスの山口章の衣装が派手なジャケットで目を引いたのだが、ちょっと漫才師のようなジャケットのように個人的に見えてしまった。狙ってのことかも知れないのだが、山口はベテランになっても踊れる人なので、もっとシックに、「こんなに素敵なのにジュリエットはパリスではなくロミオに行くの?」と思わせるような衣装、演出にして欲しかった気がする。
そんな良いダンサーたちの踊りにグイグイ引き込まれながら、あっという間にクライマックスに、ロミオとジュリエット、2人の死の場面では、鳥肌が。
いつの時代も、争いが、、、それは近未来も続くというのは悲しい考え方だが、今の世界の状況を見ると、それを否定することはできないのを痛感する。
(2025年4月12日 兵庫県立芸術文化センター中ホール)
エスカラス大公:夏山周久
撮影:井上大志
乳母:藤原美加 撮影:井上大志
撮影:井上大志
ジュリエット:池田由希子、ロミオ:斉藤綾子
撮影:井上大志
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