Chacott

Special Web Site

大阪・関西万博の「オランダ・日本共同インテグレイテッドダンス公演」イントロダンス、NPO法人LAND FES、貞松・浜田バレエ団が踊った

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

『lungo』エイドリアン・ルテイン:振付、『UNUM』エイドリアン・ルテイン&松岡大:振付、『Cantata』マウロ・ビゴンゼッティ:振付、『Takademe』ロバート・バトル:振付、『6Dances』イリ・キリアン:振付

4月13日に開幕した大阪・関西万博では、バレエやダンスもたびたび上演されている。オランダ・パビリオンの企画の一環として行われたのは、オランダを代表する三大ダンスカンパニーの一つ「イントロダンス」と、障がいの有無を超えて共にダンスを創るなどパフォーミングアーツを通して共生社会を推進する活動を展開している「NPO法人LAND FES」、創設当初から古典バレエと現代作品を活動の両輪としている「貞松・浜田バレエ団」がともに取り組んだ舞台。ちなみにイントロダンスは、貞松・浜田バレエ団の総監督堤悠輔が以前在籍していたカンパニーでもある。

万博会場で上演されたのは、今回のためにイントロダンスのエイドリアン・ルテインと元山海塾の舞踏手でNPO法人LAND FESの松岡大がともに取り組んだ新作『UNUM』。神戸文化ホールやロームシアター京都でもこれが上演され、神戸や京都では、他の作品も加えての公演が行われた。筆者は、上演作品がもっとも多かった神戸文化ホールの5月24日のオムニバス公演を鑑賞した。

04-「Iungo」撮影:古都栄二(テス大阪)1076.jpg

『lungo』撮影:古都栄二(テス大阪)

はじめに上演されたのは、ルテイン振付で昨年1月に東京で初演された『lungo』。豊かな自然を思わせるバック映像の前に、とても長いベンチが設置されている。鳥のさえずりが聴こえる中、車椅子の上品な老婦人がやってきて、車椅子からベンチの端に座り直すところから作品がはじまる。ショパンの「ピアノ協奏曲第1番」より第2楽章の穏やかなメロディーのなか、様々な年代、様々な性別、義足のダンサー森田かずよなど、いろいろな人がやってくる。そこで生まれる関わり、空気感に優しさがにじんでいるように感じられる。いつのまにか日が暮れかけていたようで、別々にところからやってきた人々のようなのに、最後にはみんな一緒に後ろの夕日に向かって歩みだす。1人残りそうだった男性もやはり加わる。違いがある人がともにいるのがこの社会、それがとても自然に表現されているような気がした。

05-「Cantata」撮影:古都栄二(テス大阪)1117.jpg

『Cantata』アンジェリカ・ヴィリヤロン 撮影:古都栄二(テス大阪)

07-「Takademe」撮影:古都栄二(テス大阪)1174.jpg

『Takademe』マーク・ファン・ドルニック 撮影:古都栄二(テス大阪)

続いてはイントロダンスのダンサーによるソロ2つ。アンジェリカ・ヴィリヤロンが踊ったのはマウロ・ビゴンゼッティ振付の『Cantata』。金髪の美しいロングヘアーを振り乱しての大人の女性の憂い、そして強さが魅力的。また、マーク・ファン・ドルニックはロバート・バトル振付『Takademe』。シーラ・チャンドラの「Speaking in Tongues Ⅱ」は言葉に乗せての超絶技巧のダンス。ユーモアたっぷりでクスッと笑ってしまうところが多々あり、とても楽しめた。その後、貞松・浜田バレエ団による巨匠イリ・キリアン振付『6 Dances』。ヨーロッパの香りたっぷりのコメディを身体の効くダンサーたちが全力で表現していた。

08-「6Dances」撮影:古都栄二(テス大阪)1351.jpg

『6Dances』撮影:古都栄二(テス大阪)

09-「6Dances」撮影:古都栄二(テス大阪)1357.jpg

『6Dances』撮影:古都栄二(テス大阪)

そしてラストが、エイドリアン・ルテインと松岡大による新作『UNUM』。"UNUM"というのは、ラテン語で"ひとつ"を意味する言葉なのだという。「親と子の共演」をテーマに掲げて、さまざまな身体的特性を持つダンサーとその親または子がともに取り組み創り上げた。義足のダンサー森田かずよは母・森田登代子と、車椅子ダンサーのかんばらけんたは娘、小学生くらいの女の子・かんばらしおりと、貞松・浜田バレエ団の山本小海は父・山本直樹と、後藤俊星はダンサーでもある母・後藤りさと、イントロダンスのヴィリヤロンとドルニックもそれぞれの家族とともに。

親子だから分かり合いやすい面もあるだろうが、逆に親子だから難しいということも多くあるのは想像がつく。言葉を使わないダンスで、その関係性を観せていこうとするのは、とてもリスキーなのではないか、そんな思いが頭をよぎったが、ルテインと松岡の手腕なのだろう。それぞれ個々に違う親子のあり方、また、オランダと日本の身体を触れ合わせる習慣の違い(ハグをする文化かそうではないかなど)を、スケッチするように舞台に描き出していた。追立大地と福岡想の映像とともに興味深い作品に仕上がった。
(2025年5月24日 神戸文化ホール中ホール)

14-「UNUM」撮影:古都栄二(テス大阪)2098.jpg

『UNUM』撮影:古都栄二(テス大阪)

15-「UNUM」撮影:古都栄二(テス大阪)1536.jpg

『UNUM』撮影:古都栄二(テス大阪)

17-「UNUM」撮影:古都栄二(テス大阪)2142.jpg

『UNUM』撮影:古都栄二(テス大阪)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る