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荻野あゆ子のシンデレラに今井大輔の王子、法村珠里の継母や堤本麻起子の仙女と見応えがあった、法村友井バレエ団『シンデレラ』

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

法村友井バレエ団

『シンデレラ』法村牧緒:改訂振付

「吹田市民劇場親子で楽しめる全幕バレエ」として行われた公演は、シンデレラ(荻野あゆ子)を小さなネズミさんたちが囲む穏やかなプロローグで、子供たちは舞台に一気に惹き込まれたことだろう。もちろん大人も。
法村友井バレエ団の『シンデレラ』は、1966年に友井唯起子の振付で初演。1971年には、日本人で初めてロシア、サンクトペテルブルク(当時はレニングラード)のワガノワ・バレエ学校に留学した法村牧緒による振付で上演された。現在まで100回以上もの上演を重ねている演目だという。

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シンデレラ:荻野あゆ子、王子:今井大輔
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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シンデレラ:荻野あゆ子、王子:今井大輔
撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

プロコフィエフは第二次世界大戦中に、サンクトペテルブルクからペルミに疎開していたコンスタンチン・セルゲーエフと話し合いながら、この曲を作曲したと聞く。第二次世界大戦でサンクトペテルブルクの街は焼け野原になり、このプロコフィエフの曲は、先にモスクワのボリショイ劇場で初演されたが、終戦翌年の1946年にセルゲーエフ自身が王子役を踊りサンクトペテルブルクで自身の版を初演。法村版『シンデレラ』は、そのセルゲーエフ版の魅力をきちんと活かすことを大切に創っていることが感じられる。プロコフィエフのどこか憂いを持った音楽に乗せながら、夢のような美しさに溢れた演目だ。今回も、しっかりとしたバレエ技術を持ったダンサーたちが、その魅力を表現してくれた。

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シンデレラ:荻野あゆ子 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

荻野は、辛い場面でも希望を失わない、とてもポジティブなものを感じさせるシンデレラ。そして、幸せな場面では、伸びやかで自然、素直な喜びが全身から伝わった。王子を踊ったのは、今、どんどん良くなっていると思える今井大輔。技術に磨きがかかっている上に、理想の男性の代表と言えそうなこの役にふさわしい高貴で堂々とした佇まいも満足のいくもの。

脇役も、良いダンサーが並んだ。継母はなんと主役を重ねている法村珠里。大阪の女性らしい強さを持って、迫力たっぷりにコミカルな場面を義姉の春木友里沙と佐野光里の思い切りの良い演技とともに引っ張った。また、仙女の堤本麻起子が、その美しさに加え、夢のような場面を取り仕切る威厳、物語全体を包み込むような雰囲気で場をまとめていたのも印象的。
四季の精、春の精の椿原せいか、夏の精の中内綾美、秋の精の井上麻緒、冬の精の神木遥がそれぞれの音楽によく馴染む踊りを観せてくれたとともに、黒いチュチュ姿での時の精(村上萌実)の直線的でシャープな踊りも目を惹いた。

世の中に良いことばかりではない──そんな時代だからこそ、よけいに響くのが、不安げなメロディーが織り込まれながら、どこまでも美しい世界を観せる、こんな『シンデレラ』なのかもしれない。
(2025年3月9日 吹田市文化会館メイシアター大ホール)

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継母:法村珠里、義姉:春木友里沙、義妹:佐野光里 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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3つのオレンジ:南野衣緒梨、馬野瑞季、野舞翔 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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冬の精:神木遥 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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春の精;椿原せいか 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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シンデレラ:荻野あゆ子 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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シンデレラ:荻野あゆ子 撮影:尾鼻文雄(OfficeObana)

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