バレエ団員たちが創作に取り組んだ5作品と7つのグラン・パ・ド・ドゥ──松岡伶子バレエ団アトリエ公演
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
『Mad World』奥田寛明:振付、『Stream』若宮嘉紀:振付、『matrix』御沓紗也:振付、『ペッカム型社会』安部喬:振付、『flock』市橋万樹:振付
松岡伶子バレエ団のアトリエ公演。以前は、外部の振付家を招聘するなど、バレエ団内外問わず定評ある振付家の作品を団員たちが踊るといった形で行われることが多かったように記憶しているが、今回は、「創ってみたい」という意欲のある団員の作品を積極的に取り上げて5作品上演。それに加えて7つの古典作品が披露された。
幕開けは、奥田寛明振付の『Mad World』。スーツ姿のサラリーマンのようなおじさんを軸に、様々な登場人物がごちゃまぜになったような、コミカルでちょっとヘン(?)な魅力の作品。続いては山下実可と奥田丈智が踊った『ショピニアーナ』よりパ・ド・ドゥ。少し硬さを感じる部分もあったが丁寧な踊りで清らかさが感じられた。『サタネラ』よりグラン・パ・ド・ドゥは仲沙奈恵と竹中俊輔。仲はいたずらっぽい演技の中に品も、竹中の軽快な踊りも良かった。
若宮嘉紀自作自演の『Stream』は、5GやWi-Fiなどの目には見えない電波や音を視覚化するという思いで創った作品のよう。出来上がった作品を観て、ピュアな青年が、そんな電波の流れの中で、時に抗いながら、自分と向き合っているように感じられた。次の兵藤杏と南野高廣の『エスメラルダ』よりグラン・パ・ド・ドゥは、とにかく二人とも楽しげに伸び伸び踊っていて、その姿に引き込まれた。丹羽奈々が手掛けるデザイナーズブランド"NSCLAW"が衣裳・音楽を手掛け、御沓紗也とともに演出・振付しての『matrix』は、とっても不思議な生き物の世界、といえば良いのか? ゲームのキャラクター?、漫画?、そんな風な衣裳姿のダンサーたちによるミラクルな世界。岩本有里子、御沓紗也、安部喬が踊り、とてもインパクトの強い作品に仕上がった。
『ショピニアーナ』よりパ・ド・ドゥ
山下実可、奥田丈智 撮影:和光写真
『サタネラ』よりグラン・パ・ド・ドゥ
仲沙奈恵、竹中俊輔 撮影:和光写真
『Stream』(振付:若宮嘉紀)
若宮嘉紀 撮影:和光写真
『ジゼル』第2幕よりパ・ド・ドゥは眞下万穂と市橋万樹。軽くて、本当に儚く消えてしまいそうな眞下のジゼル、美しいテクニックに憂いが込められた市橋のアルブレヒト。安部喬が振付けした『ペッカム型社会』は、下手奥のベンチで編み物をする老婦人からはじまる、それぞれの役がありストーリーもあるショートサスペンス。ブラームスの「ハンガリー舞曲」第5番やサン・サーンスの「死の舞踏」と聴き慣れた音楽を使いながら構成された。心理ミステリーのような怖いラスト。印象に残る作品だ。古典の最後は、『くるみ割り人形』第2幕よりグラン・パ・ド・ドゥを山室芽生と瀬田朗が踊った。しっかりとした実力ある二人の安心感のある踊り。
そして最後は市橋万樹振付の『flock』。flock=群れ。14人の群舞、メレディス・モンク、ヤン・ティルセンといった現代の作曲家の音楽や、聴き慣れたショパンのプレリュードなどを組み合わせ、集団のなかでの想い、心理を静かに表現した。
実験的と思える作品も複数観ることができた舞台、"踊る"だけでなく、"創る"こともできるダンサーが、もっともっと増えて行くことに期待したい。
(2025年6月15日 アマノ芸術創造センター名古屋)
『エスメラルダ』よりグラン・パ・ド・ドゥ
兵藤杏、南野高廣 撮影:和光写真
『matrix』(振付:御沓紗也)
岩本有里子、御沓紗也、安部喬 撮影:和光写真
『ジゼル』題2幕よりパ・ド・ドゥ
眞下万穂、市橋万樹 撮影:和光写真
『くるみ割り人形』第2幕よりグラン・パ・ド・ドゥ
山室芽生、瀬田朗 撮影:和光写真
『flock』(振付:市橋万樹)撮影:和光写真
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