愛知県芸術劇場が2025年度のラインナップと劇場専属のダンスアーティスト制度について発表した
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ワールドレポート/愛知
香月 圭 text by Kei Kazuki
唐津絵理 愛知県芸術劇場芸術監督
©HATORI Naoshi
愛知県芸術劇場が2025年度のラインナップと、新たに始動した劇場専属のダンスアーティスト制度についての記者会見を4月14日に開催した。登壇した唐津絵理芸術監督は「〈劇場は世界への窓、県民の広場〉という基本理念を掲げ、ダンス、音楽オペラ、演劇といった多彩なジャンルで国内外の優れた作品を届けるとともに、新たな創造、普及、そして次世代の育成に取り組んでおります」と説明。
今年度の海外招聘公演では、ダンスとアニメーションが融合した舞台作品『ジャングル・ブック』(6月28日大ホールにて上演)がまず紹介された。「ノーベル賞作家キプリングによる原作とウォルト・ディズニーが最後に手がけたアニメーション映画でも広く知られています。 この公演はロンドンオリンピック2012開会式の振付でも知られる振付家アクラム・カーンが、子供から大人まで誰もが楽しめるダンスと映像による壮大なスペクタクルとして作りました。気候変動や自然破壊といった現代的なテーマを織り込みつつも、純粋なエンターテイメント性と高い芸術性を兼ね備えています。 世代を超えて楽しんでいただける裾野の広い作品です。今回、世界ツアーの最終公演が開催される予定です」。
また、昨年6月のネザーランド・ダンス・シアター(NDT)1の来日公演に続いて、11月末には若手ダンサーたちで構成されるNDT2が約20年ぶりに来日する。アレキサンダー・エクマン("FIT")、マルコス・モラウ("FOLKÅ")など日本に初めて紹介される振付家を含む計3作品が予定されている。
また、新たな作品を創造し世界に向けて発信する場を目指す、三つのプロジェクトが紹介された。
まず、劇作家・演出家の岡田利規とのコラボレーションによる新作ダンス兼演劇作品『ダンスの審査員のダンス』(9月19日~21日小ホール)。酒井はなと島地保武が出演する。岡田と酒井のコンビで好評だった『瀕死の白鳥、その死の真相』『ジゼルのあらすじ』に連なる舞台。
ダンスのためのレジデンス施設Dance Base YOKOHAMAと連携してコンテンポラリーダンスを中心とする舞台芸術を創作する「パフォーミングアーツ・セレクション2025」は10月30日~11月2日の4日間、愛知芸術劇場の小ホールや大リハーサル室、さらにメニコンシアターAoiといった複数の会場を使用して、フェスティバル形式で開催される。劇場ダンスアーティストの三東瑠璃のほか、阿目虎南、岩渕貞太、柿崎麻莉子、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク、高橋萌登の5組が新作を発表する。
新たに立ち上がった「愛知ネクストパフォーミングアーツプロジェクト」は、既存のジャンルにとらわれない斬新な作品や、新しい発想で取り組んでいるパフォーマンスの企画を全国から公募し、愛知芸術劇場が制作支援を行った上で上演の機会を提供する、若手アーティストの発掘と育成を目指した劇場独自の支援プロジェクト。 昨年度の公募を経て、今年度は敷地理とハイドロブラストの2組が採択され、8月、9月に当劇場の小劇場で公演が予定されている。 さらにチャレンジ枠として、愛知県にゆかりのある若手アーティスト4組も選出された。
唐津絵理 愛知県芸術劇場芸術監督
©HATORI Naoshi
左より島地保武、酒井はな、唐津絵理、岡田玲奈、黒田勇
©HATORI Naoshi
続いてダンス事業を発展させるために新設された、劇場専属のダンスアーティスト制度の紹介がなされた。酒井はな、島地保武、三東瑠璃、ダンスユニットNullの岡田玲奈と黒田勇の4組5名が2年間就任する。彼らには、劇場を拠点とした新作の創作はもちろんのこと、地域の方々との交流の機会も設けることが期待されている。 公開リハーサルやワークショップ、アーティスト・トークなどを通じ、観客が創作の過程に直接触れられる場を広げ、ダンス芸術を見るだけではなく、関わり体験するものとして社会と繋いでいくことを目指す。そして国際フェスティバルへの参加や、海外の劇場とのネットワークを活用した作品発表を通じて、愛知から世界へと繋がる展開を図っていく。
登壇した酒井はなは「観客の皆様が楽しめるようなダンスやバレエなどを劇場の皆さんと一緒に考え、舞台芸術が身近に感じれるようなお手伝いができたら、たとえば、健康になるようなダンスやバレエをワークショップなどで県民の皆さんと一緒にできたら、とも考えています」と話す。
島地保武は「皆さんと一緒に議論して、今世の中でどういうことが起きているのか、といったことを察知しながら、自分たちで何を発信していくかということを緊密に追求していきたいと思います。外部のトレンドを持ち込むというよりも、劇場から外に発信していくことができたらと思っています」と語った。
次に、愛知県の至学館大学の卒業を期に結成されたダンスユニットNullの岡田玲奈と黒田勇は「私にとって縁の深い愛知県で専属アーティストとして参加させていただき嬉しいです。自分の周りからその先へと繋がりを広げて、愛知県がダンスにたくさん触れられる場所になれるといいなと思っています」(岡田)。「子供たちにダンスを教えに行くと「踊るのは恥ずかしい」という雰囲気を感じることがありますが、歌を歌い、口笛を吹くような感覚でダンスも踊っていいのではないかと思います。今回の機会を通して、愛知の皆さんとご一緒していけたらと思っております」(黒田)。
劇場専属のダンスアーティストの今後の活動に注目していきたい。
左より島地保武、酒井はな、唐津絵理、岡田玲奈、黒田勇
©HATORI Naoshi
左より島地保武、酒井はな、唐津絵理、岡田玲奈、黒田勇
©HATORI Naoshi
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