川口節子振付『マダムバタフライ』に『Yerma』、木原浩太の新作『冤罪』、松村一葉の新作『The Planets ~惑星』など見応えある作品
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
川口節子バレエ団
「舞浪漫2025」川口節子、松村一葉:振付
川口節子バレエ団が創作作品を上演する「舞浪漫」。今回はA、B、Cと3つのプログラムで行われ、重なる演目もあるが別演目も複数あるため、BプロとCプロ、2公演を観た。
『ラスト・ソルジャー』西村珂玲、井澤佐登史
撮影:和光写真
まず、Bプロ。
カラフルなクラシック・チュチュのダンサーたちによる、アメリカンな陽気さが感じられる松村一葉振付『マカロニウェスタンズ』で幕を開けた舞台。続いての『ラスト・ソルジャー』は川口節子振付で、男性兵士が死んでしまった女性兵士を墓の前に運んで横たわらせ、悔やんでも悔やみきれない表情でいるところに、POPな音楽とともに女性兵士が起き上がり満面の笑顔で踊る。ともに踊る男性兵士、だが曲が終わると、やはり女性兵士は死体のまま動かない──世界でいくつもの戦争が続く今、心に響く。Bプロでは本田萌と大岩大起、Cプロでは西村可玲と井澤佐登史が踊った。『The Ropes』は松村の振付で、バッハの曲を稲垣ちひろがピアノ演奏する中、14人の元気な男女が"ロープ"を使った様々なことをする。電車ごっこ、綱引き、縄跳び、、、ダンサーたちの屈託ないイキイキと表情がとても良かった。一場面、一人ひとりの頭上から降りてくるロープに不穏なものを感じるのは私だけか。
『Cona La Luna』(振付:ナターシャ・アドーリー)も稲垣のピアノ演奏で。謙虚に内面を見つめるようなマックス・ヴァン・デー・ステールの踊りにしみじみとした。そして、この部の最後は川口節子振付『種まき歌』。『フィガロの結婚』の序曲に歌詞を乗せた音楽で、梶田眞嗣を中心に、いろいろなことを発散するようなひょうきんで愉快な踊りが楽しい。
第2部は川口節子振付の『マダムバタフライ』。波の音、そしてプッチーニのあの音楽。蝶々夫人を川瀬莉奈、ピンカートンを碓氷悠太が踊り、24人による海の群舞が蝶々夫人の心情の機微を代弁するように踊る。終盤、すがりついても、すがりついても、冷たく突き放される蝶々夫人の姿に胸が締め付けられた。川口のドラマティックな作品創りは秀逸だ。
『The Ropes』 撮影:和光写真
『マダムバタフライ』
蝶々夫人:川瀬莉奈、ピンカートン:碓氷悠太
撮影:和光写真
『マダムバタフライ』蝶々夫人:川瀬莉奈
撮影:和光写真
『The Planets 〜惑星』
天体観測:川原暢太、マックス・ヴァン・デー・ステール
撮影:和光写真
第3部は、松村がG.ホルストの曲に振付けた新作『The Planets ~惑星』。プロローグ的に、父(マックス・ヴァン・デー・ステール)と息子(川原暢太)が天体観測に訪れたところから始まる。息子はゲームに夢中で、父に促されても、なかなか望遠鏡を見ようともしない。その姿が現代アルアルだなと思いながら観た。そこから、火星、天王星、水星、金星、木星と、独特の円盤のような(?)チュチュの女性ダンサーや男性ダンサーが高テクニックをともなって踊る。スタイリッシュで鮮やかな魅力を楽しんだ。
夕方のCプロは、Bプロにはなかった演目を中心に振り返りたい。
まず、川口の新作『冤罪』。冤罪となり捕らえられた男を木原浩太、無罪を信じていつまでも待ち続ける老いた母を玉田弘子が踊った。木原の迫力溢れる、どうしようもない思いの表現、その爆発するような踊りに引き込まれ、玉田の必死に塀の外で息子を思う姿に心が痛んだ。老母は結局、亡くなってしまう──どうして、こんなに救いのない作品を、と涙しながら、現実にこんな目に遭っている人がいることを思い、なんとしてもこんな人がいない世の中に、と強く思う。
主人公と母、そして、群衆の描き方など構成もよかった。
この後、この悲しい役を踊った木原が、Bプロで梶田が踊った『種まき歌』の中心を踊り、満面の笑顔を見せてくれたことに、つくづく、こちらが後の演目で良かったと思う。
そして、もう一つ、『Yerma』。もう、何度も観ている川口節子の名作だ。バレエファンなら聞き慣れた『レ・シルフィード』で使われているショパンの曲に乗せて、ガルシア・ロルカの『Yerma』を原作に、子を授かることのできない女性の葛藤が描かれる。洗濯女(あるいは羊の群れ)、洗濯男あるいは羊の群れ)とされた群舞も良い。
川口のドラマティックな作品、社会を見つめる作品ともに、素晴らしいものが多いことをあらためて実感。上演機会がもっと増えて、多くの方々に観てもらう価値のある作品群だと思う。
(2025年1月19日 アマノ芸術創造センター名古屋)
『The Planets ~惑星』 撮影:和光写真
『The Planets ~惑星』 撮影:和光写真
『冤罪』木原浩太 撮影:和光写真
『冤罪』木原浩太、玉田弘子 撮影:和光写真
『種まき歌』木原浩太
撮影:和光写真
『Yerma』
イエルマ:高橋莉子、フアン(イエルマの夫):碓氷悠太
撮影:和光写真
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