貞松・浜田バレエ団『ラ・バヤデール』初演は名村空のニキヤ、水城卓哉のソロル、井上ひなたのガムザッティ
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
貞松・浜田バレエ団
『ラ・バヤデール』貞松正一郎:改訂振付
貞松・浜田バレエ団が『ラ・バヤデール』を初演した。以前に「影の王国」だけの上演は何度もあったと聞くが、それも最近ではない。今回、貞松正一郎が世界中の様々な版を観た上で、大切にしたいところに特に丁寧に取り組んで、充実した3幕バレエに仕上げた。それを、今、このバレエ団で続々と育っているダンサーたちが見応えのある舞台にして観せてくれた。演奏は井田勝大指揮、びわ湖の風オーケストラ。
開演前の舞台では、貞松正一郎による作品解説とともにマイム教室が行われた。そこでこのバレエの独特の身分の違いによる動きや、西洋ではなくインドを舞台にした作品の独特のマイムが説明されて興味深かった。
そして開幕。ニキヤの名村空の凛とした美しさ、寺院の舞姫、巫女であることが実感できる神々しさや知性が感じられ、役にあっていることをしみじみ。そして、ソロルの水城卓哉はさすがの堂々とした佇まいと、思慮深さが感じられる演技が良い。ソロルは難しい役で、振付の貞松は、事前に「簡単に心変わりするような存在にはしたくない」と語っていた。ソロルのニキヤを愛する気持ちは本物だが、尊敬し、自分を育ててくれた上司であるラジャ(領主、川村康二)が娘のガムザッティ(井上ひなた)と結婚させたいという思いには逆らえない、そんな律儀な思いとの間で悩む。その葛藤を抑えた演技で表現していた。彼なら、再演があれば、さらに演技を深めていくだろうとも感じた。
ガムザッティ:井上ひなた、ソロル:水城卓哉 撮影:古都栄二(テス大阪)
一方、ガムザッティの井上、長身で恵まれたスタイル、優しい雰囲気の彼女はお嬢様という役にとても合う。これまでは、その柔らかい雰囲気が彼女の良さだと感じていた。だが、ガムザッティはそれだけでは終わらない役だ。正直、どんな仕上がりになるのか予想がつかずに観たのだが、幕を追うごとに、納得できる表現になっていたのは想像以上だった。まず、1幕最後のニキヤと対立する場面で、毅然とした演技を見せた。さらに、婚約式では堂々と華やかなグラン・パ・ド・ドゥ魅せ、そして、ここまで出来るのだと惹き込まれたのが、3幕の寺院崩壊に至る結婚式での「何があっても、私はソロルと結婚する!」という声が聞こえてきそうな強い意志が溢れる演技。彼女はこれから、様々な役に挑戦できることだろう。
ニキヤの名村も彼女の持ち味が活かされ、幕開けに加え、蛇の踊りの憂いある表現が見事。そして影の王国、幻影の場では薄幸のあまりこの世のものとは思えない踊りを観せて、大いに期待に応えてくれた。
ブロンズアイドル(黄金の神像):小森慶介
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)
ニキヤ:名村空、ソロル:水城卓哉
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)
婚約式には登場せず、3幕の神殿の場面で神の化身として登場するブロンズアイドル(黄金の神像)の小森慶介のテクニック、ハイ・ブラーミン(大僧正)の武藤天華の、役に真摯に向き合っている演技も良かった。いろいろな演出があるが、彼のハイ・ブラーミンは、1幕から「その役職を投げ打っても」とニキヤに愛を乞うところがあったり、毒ヘビに咬まれたニキヤを心底救いたいと解毒剤を差し出しているように見えるなど、立場を利用した悪者というよりも、ただただニキヤに恋い焦がれて相手にしてもらえないおじさんのようで、また、違った悲哀を感じさせた気がする。
他に、チャーミングなシャンティ紀奈の壺の踊りや、水速飛鳥、西岡憲吾、切通理夢を中心としたジャンベ(太鼓)の踊りの荒々しさを持った迫力など、さまざまな踊りの魅力も楽しんだ。
(2025年2月23日、あましんアルカイックホール)
ニキヤ:名村空、ソロル:水城卓哉
撮影:古都栄二(テス大阪)
ガムザッティ:井上ひなた、ソロル:水城卓哉
撮影:古都栄二(テス大阪)
『ラ・バヤデール』
撮影:古都栄二(テス大阪)
ジャンベ(太鼓)の踊り:水速飛鳥、西岡憲吾、切通理夢、ほか
撮影:古都栄二(テス大阪)
壺の踊り:シャンティ紀奈
撮影:古都栄二(テス大阪)
ニキヤ:名村空、ソロル:水城卓哉
撮影:古都栄二(テス大阪)
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