ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2009.06.10]

こうべ全国洋舞コンクール各部門トップのダンサーたちを紹介

こうべ全国洋舞コンクール
主催:こうべ全国洋舞コンクール実行委員会

5月8日upのニュースコーナーで、決選終了後に速報をお届けした「こうべ全国洋舞コンクール」。順位は、そちら(こうべ全国洋舞コンクール 2009年速報)を、参照いただくとして、今回は舞台写真とともに、各部門トップの踊りの紹介や喜びの声などをお届けしよう。

osaka0906a02.jpg

まず、4月25日、26日に行われたモダンダンス部門。
ジュニア2部1位は『ガラスのリンゴ』の寺田真菜(黒田バレエスクール)。中学1年生、踊った作品は黒田呆子の振付。実際には何も持っていないのに、ガラスの繊細な感じが観客に伝わった。
ジュニア1部1位は『遥かなる空に』の江上万絢(井上恵美子モダンバレエスタジオ)。14歳、中学3年生。作品は井上恵美子の振付でラフマニノフのピアノコンチェルトに乗せた“死”を想う作品だ。「ひいお祖母ちゃんが死んでしまった時のことを考えながら踊りました。モダンだけでなく、いろんなジャンルのダンスを勉強して、将来は井上先生のような指導者になりたいです」と江上。観客に“想い”を感じさせる表情が良かった。
シニア1位は、『beyond --その向こうに-‐』の林芳美(金井桃枝舞踊研究所)。銀色のポール状のものを持って現れ、美しいアチュチュードをする姿に一瞬「バーレッスンのバー?」と思ったけれど、そうではなく、洋服を掛けるハンガーラック。長方形に組まれた銀のポールを縦にしたり横にしたりして踊る、残像が眼に残る大きな動きが印象的だった。20歳、現在、慶応義塾大学経済学部の3年生、進路について悩む時期で、そんな葛藤も踊りに込めたようだ。

osaka0906a01.jpg osaka0906a03.jpg

創作の部は、最優秀賞が出ずに優秀賞が2つ。
寺杣彩(加藤みや子ダンススペース)振付の『朝ぼらけ』は、木原浩太、塩川友佳子、寺杣彩、若い3人で踊った作品。昨年、木原浩太振付の『青雲─あおぐも─』が同じ優秀賞に選ばれているが、その時と同じメンバーだ。懐かしい童謡のメロディのなか、眠そうな3人。そこから、体を触れて弾けるような動きがあったり、大口あけて驚いたり……何気ない動きに見えるが、よくこなれていて観ていて退屈しない、眼がいく、変化のタイミングも良い。この春に明治学院大学のフランス語学科を卒業。「今は子どもにダンスを教えています。教えるだけでなく、創って踊って、ということも積極的にやって行きたいと思っています」と寺杣。
もうひとつの優秀賞は、和田伊通子(和田朝子舞踊研究所)振付の『Desire ? 人のものこそ欲しくなる ?』。真っ白の大きなサイコロのような立方体を2人の女性が取り合う。それは、何か大切なものの象徴の様──貴重品なのか、恋する男性なのか、はたまた……。最後には、舞台から客席の床に落とし、もう届かない──。「ちょっと単純すぎる内容だったなと。次は、こちらからだけでなく、あちらからも観られるような深みのあるものに挑戦したいです」と和田。

osaka0906a04.jpg osaka0906a05.jpg
osaka0906a06.jpg

今回のモダンダンス、創作部門、男性も多く、本当にいろいろなタイプのものが出ていた。街角からそのまま舞台に上がってきたようなものも。表彰式の審査員講評で、大谷燠氏、石井かほる氏はともに、その多様化の傾向を歓迎しつつ、課題も示した。大谷氏は「表現に至っていないものが多かった。ただ、楽しいだけでなく、伝えたいものは何か? 観客の想像力を喚起するもの、期待に応えながら裏切って行くようなダンスを創ってほしい」。石井氏も、「新・新人類の波が劇場の舞台に乗ってくるのは、とても素敵なことで、モダンダンスには必要なことでもあります。けれど、HipHop系のアイソレーション、そのままのアイソレーションでいいか? そこを考えてみる必要があります。それでいいのか、ダンスで何を伝えたいのか、そこを外してしまうと……」。
あなたがダンスをする上でもっとも大切にしたいことは何か?──思い起こしてみる時かも知れない。

osaka0906a13.jpg

そして、5月3日〜6日、1,127人ものエントリーを得て開催されたクラシック部門。女性だけで1,000人を超えており、女性ジュニア1部と女性ジュニア2部は、予選と決選だけでなく、準決選も行われた。各部門で見事1位に輝いた受賞者を紹介しよう。
女性ジュニア2部1位は、『ドン・キホーテ』よりドルシネアのヴァリエーションを踊った直塚美穂(塚本洋子バレエ団)13歳。高めのアチュチュードの甲の美しさ、伸び盛りの年齢であることをつくづく思わせる。彼女は、シャープな魅力も出せそうなので、違ったタイプの踊りに挑戦しても似合いそうに思えた。
女性ジュニア1部1位は、『ドン・キホーテ』よりキトリのヴァリエーションを踊った五月女遥(Yamato City Ballet Jr.Company)18歳。動きのメリハリもあって、軽快で粋、キトリの雰囲気がよく出ていて、観ていて楽しくなる踊り。

osaka0906a07.jpg osaka0906a08.jpg
osaka0906a09.jpg

女性シニア1位は、佐々部佳代(松岡伶子バレエ団)20歳。『ライモンダ』1幕からの、あの特に優美で途中で曲調の変わる難しいヴァリエーションを、伸びやかにていねいに夢観るように踊った。昨秋のバレエ団公演『眠れる森の美女』ではフロリナ王女役。数年前には、ジャクソン・コンクールで知り合ったダニエル・シムキンからパートナーにと請われ、ウィーン国際コンクールのガラに出演した経験も持つ。「海外にと思った時期もありましたが、今、バレエ団のなかがとても居心地良いので、ここでずっと踊っていきたいと思っています。バレエ団のなかでステップアップして、『あの人が出るなら観に行きたい』と思ってもらえるようなダンサーになりたいですね」と佐々部。

osaka0906a10.jpg osaka0906a11.jpg
osaka0906a12.jpg

男性ジュニア2部1位は、『パキータ』 よりヴァリエーションを踊った安井悠馬(田中バレエ・アート)12歳。変化のある表情が良く、軸もしっかりしている。「曲と自分の体が一緒になった時、すごく気持ちいい!。夢は世界一のバレエ・ダンサーです」と、元気の良い男の子だ。
男性ジュニア1部1位は、『コッペリア』よりフランツのヴァリエーションを踊ったアクリ瑠嘉(アクリ・堀本バレエアカデミー)。舞台に飛び出してきただけで、そのチャーミングさに引き込まれた。テクニックもしっかりしている。父は、ダンサーのマシモ・アクリ、彼はイタリア人と日本人のハーフだ。「9歳の時、熊川哲也さんの踊りを観てバレエに目覚めました! この9月からは、ミラノ・スカラ座のバレエ学校に留学予定です」ということ。
男性シニア1位は、『ドン・キホーテ』よりバジルのヴァリエーションを踊った茂木恵一郎(山本禮子バレエ団)21歳。体のひねりを入れたジャンプや、アレンジした側転など、特に技が眼を引いた。彼がテクニックに強いことから、バレエ団の関田和代先生が海外の例などを研究し、取り入れていらっしゃるということ。「これからはテクニックだけじゃなく、踊り全体を磨いていきたい」と茂木。真面目で練習熱心な印象の彼、きっと近い将来、内面表現も今以上に深みを持つことだろう。

osaka0906a14.jpg

表彰式での審査員講評で薄井憲二氏は、「気がつかないうちに、このコンクールは日本で一番難しいコンクールになった」と話し、「テクニックの上に何が必要か?」と問いかけた。そして、“実用的なこと”とした上で、具体例にヴァリエーションの例を挙げながら、女性に対しては、2つの違う版の振付をごちゃ混ぜにするなどのいい加減な振りのものはやらないように、男性に対しては、演目にもよるが、サーカスのようになるのはダメと、作品に忠実に踊る大切さを説いた。
(2009年4月25日、26日 モダンダンス部門 神戸新聞松方ホール 5月3日〜6日 クラシック部門 神戸文化ホール)