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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2012.04.10]
From Nagoya -名古屋-

田中泯と高橋アキがケージによる《フォー・ウォールズ》で9年ぶりに共演

ジョン・ケージ《フォー・ウォールズ》
演奏:高橋アキ(ピアノ)、ダンス:田中泯、石原志保ほか

2012年は現代音楽の「発明家」と言われるジョン・ケージの生誕100年かつ没後20年にちなんで、世界中でケージに関連した企画が開催されているが、野平一郎芸術監督率いる静岡音楽館AOIでもケージの特集コンサートが行われた。企画者は親しい友人としてこれまでも数々のケージ作品を演奏してきた高橋アキ。このコンサートでは、ケージの多様な作品群の中から、第1部では2つのピアノ曲が、第2部ではダンスのための作品が上演された。この公演についてダンスに焦点をあてることで振り返ってみたい。

nagoya1204a01.jpg 撮影:日置真光 提供:静岡音楽館AOI

1944年の『危険な夜』は、プリペイドピアノのための最初の演奏曲であり、「恋愛が不幸になったときに襲われる孤独と恐怖」が主題という。1940年、ダンス伴奏のために考案されたというプリペイドピアノは、ピアノの弦の間にゴムやねじ、布や竹などを挟むことにより、打楽器アンサンブルに近い効果をもつ。そのためこの作品でも、重く悲愴な曲調の楽章から、リズミカルなダンス音楽風な最終章と、6つの楽章それぞれに個性豊かな音の変化と多面性を聴き感じることができた。
ケージには、「他の曲と同時演奏してもよい」とされる曲がいくつもあり、今回は1958年の『アリア』と、同年に初めて「不確定性」に基づいて作曲された『ピアノと管弦楽のためのコンサート』が同時演奏された。すべての楽器のパート譜が、他の楽器とは関係なくバラバラに作られる「不確定性」の手法は、舞踊家マース・カニングハムの振付方法にも大いなる影響を与えたことで知られている。
演奏が始まってまもなくすると、ピアニストの高橋アキとソプラノの吉川真澄は、舞台上あちこちへと移動をはじめる。ピアノ演奏と言葉にならない声や、移動するときの足音など、多様な音で溢れかえる舞台。時折2人は交叉しながらホールの壁を叩いたり、ピアノの間を潜り抜けたりと、後半に向かってパフォーマティヴさはさらに加速。同空間でひしめく多様な音、客席から聴こえる吐息さえも音楽の一部とするケージの作品のもつ日常性への問いが、象徴的な形で視覚化されているパフォーマンスだった。

nagoya1204a06.jpg 撮影:日置真光 提供:静岡音楽館AOI

ケージは舞踊家のマース・カニングハムとのコラボレーションのために、数多くの音楽を書いているが、『フォー・ウォールズ』は、1944年に彼のために作曲された初めての大作である。アメリカの家族全員が孤立し、罪と恐怖の牢獄へと閉じ込められていく悲劇の物語だ。情緒を一切排除しようと試みたカニングハムの作品とはちょっと信じ難いメロドラマ的なストーリーをもつ台本だが、彼がその師・マーサ・グラハムの影響下にある時代の作品ということから、再演されることはなかったいう。カニングハムによれば、その当時から時間構造だけ決めて、あとは別々に創作するという、ケージとカニングハム独自の創作方法をすでに用いていたという。この作品での高橋アキと田中泯コラボレーションは、9年ぶりの再演。しかし今回はキャストも増やし大きく再振付された。
内側に建てられた4本のポールにより、パフォーマンス空間が瞬時に意識される舞台配置。左端にはピアノが置かれ、高橋はそこで演奏している。ゆったりと重苦しい音楽が始まるとブラックスーツ姿で登場した田中泯と黒と赤のツーピースを纏ったダンサーの石原志保が、空間の揺らぎの中で微細に体を震わせる。限られた音による反復や、長い沈黙もを含むこの曲は、終わりに向かうにつれさらに重苦しさを強め、ドラマティックさを増していく。田中が大きく身体をくねらせ空間を凝視する。田中泯の表意文字的身体が空間に張りつき、身体は徐々に音にも干渉していくかのようだ。竹で作られた大きな輪のオブジェから漏れる光の陰影、舞台の壁で佇んだり、オブジェを移動させたりする男女、そして吉川真澄による独唱。すべての要素が並置されながら、ときおり微妙に交錯する。そこに音楽と空間、そして身体のシンクロするいくばくかの稀有なる瞬間を目撃した。
(2012年3月10日 静岡芸術館AOI)

nagoya1204a02.jpg 撮影:日置真光 提供:静岡音楽館AOI nagoya1204a03.jpg 撮影:日置真光 提供:静岡音楽館AOI
nagoya1204a04.jpg 撮影:日置真光 提供:静岡音楽館AOI nagoya1204a05.jpg 撮影:日置真光 提供:静岡音楽館AOI

吉川真澄(ソプラノ)
曲目:J.ケージ:《危険な夜》プリペアード・ピアノのための
《アリア》+《ピアノと管弦楽のためのコンサート》ピアノ・パート(同時演奏)
《フォー・ウォールズ》