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星野 聖子 text by Seiko Hoshino 
[2011.10.11]
From Nagoya -名古屋-

グランド・バレエを子どもたちに、越智久美子&ソロマハ『白鳥の湖』

振付:タチアナ・タヤキナ『白鳥の湖』
越智インターナショナルバレエ
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バレエ公演の会場がこれだけたくさんの子どもたちで溢れるのを、今まで見たことがあったろうか----。満席の会場に入って、まず一番に受けた印象である。小学生から中学生ぐらいまでの子供たちが、とても元気で嬉しそうに、席に座って緞帳が上がるのを待っていた。

創立以来、62年の歴史を歩んできた越智インターナショナルバレエが、「なごや子どものための巡回劇場」を上演し始めたのは1980年のこと。ふだん舞台に接することの少ない子どもたちに「テレビなどでは味わえない感動を伝えたい」という思いから、この巡回公演が始まった。子どもが少しでも集まりやすいようにと、できる限り彼らの住む場所に近い会場が選ばれ、料金も低くなっている。巡回時期は夏休み。子どもたちにとってすべてが手の届きやすい設定となっている。

今年の巡回公演は名作『白鳥の湖』全幕。8月9日から4日間にわたり1日2回、4会場(中区役所ホール、熱田文化小劇場、中川文化小劇場、名東文化小劇場)で上演された。
筆者が鑑賞した8月9日は、オデット・オディール役に日本人初のアンナ・パブロワ賞の受賞者、越智久美子、王子ジークフリード役にサンフランシスコ・バレエのゲスト・プリンシパルであるワディム・ソロマハというヴェテランのペア。キャリア豊富なダンサーであるだけに安定感のある舞台だったが、同時に、2人の動作に「はっ」と息を呑むこともまた多かった。ダンサーの技術はもちろんだが、表情の豊かさ、そしてコール・ド・バレエの流れるような美しさは注目に値した。

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第1幕1場。王子の成人を祝う酒宴の場面では、ソロマハが絶大な存在感とともに登場した。長身で均整の取れたダンサーの体格を目の当たりにし、驚きを隠せない会場の子どもたち。さらに驚かせるかのように、ソロマハは軽快なステップを踏み、切れのいいターンを見せた。ジャンプは高く弾むように、そして、着地は柔らかくバネのようだった。
湖畔に現れたオデット役の越智久美子は、白鳥のしなやかな手先、腕、背中の動きをたっぷりと披露。安定して小刻みに動く足先には完全に神経が行き届いていた。彼女の頭の先からつま先までが白鳥の化身そのもの。音楽に乗ってしっとりと演じられるオデットは、悲しくなるほど儚げで、観客を吸い込んでしまいそうだった。若手ダンサーを含む群舞の動きも丁寧で、白鳥に扮したダンサーたちが、弧を描きながら小走りに移動する場面などは、見ていて清々しい気持ちになった。

第2幕1場は舞踏会のシーン。王子は自分の意に反し、ここで婚約者を決めなくてはならないため、気分が落ち込んでいる。しかし暗い気持ちを表すソロマハのうつろな顔は、黒鳥オディールが現れた瞬間に一変。このコントラストが鮮明で、観客に強く訴えかけるものがあった。
グラン・パ・ド・ドゥではソロマハと越智が息をぴったりと合わせ、のびやかに踊った。越智は王子に甘い誘いをかけながらもシャープに翻してみたり、笑いかけたり、オディールの魅力を存分にアピール。32回グラン・フェッテが始まると、客席の子どもたちは圧倒されて目が離すことができなかった。
オディールの小悪魔的な個性を見せた越智は、その後オデットとして再度湖畔に登場。王子の心変わりに打ちひしがれる心、しかしまだ愛しているがために彼の胸へ飛び込みたいその気持ち。揺れるオデットの心境を表す越智の表情が実に感動的だった。

「子どものための巡回劇場」とは言っても内容は本格的なグランドバレエ。これをここまで身近に感じられる機会があるのは珍しいこと。若い頃から実際に本物を見て、目を養うことはとても大切なことである。その壮大さと優美さに衝撃を受け、この夏休みで一気にバレエ・ファンになった子どもたちも多いのではないかと思う。他日公演のキャストは、オデット:渡辺梢、李栄喜、藤本綾、オディール:渡辺梢、伊藤麻梨子、王子:越智友則、コンスタンチン・ヴィノボイ、キリル・ザレツキー。
(2011年8月9日中区役所ホール)

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