ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田 恵子 text by Keiko Kameda 
[2011.09.12]
From Nagoya -名古屋-

オルガニスト吉田文と平山素子の復興への祈り

『吉田文&平山素子 オルガンとダンスの華麗な競演~愛知出身アーティストによる復興への祈り』 
オルガン演奏:吉田文 振付・ダンス:平山素子
nagoya1109b01.jpg 撮影/加藤光

愛知芸術文化センター・財団法人愛知県文化振興事業団主催で、オルガンとダンスによる東北復興支援コンサートが開催された。参加アーティストの吉田文(オルガン)、平山素子(ダンス)、ズズキタカユキ(衣装)はともに愛知県出身者。この日は、台風の影響でコンサートの開催自体も心配されたが、開場の頃には風雨も収まり多くの来場者でにぎわった。
2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、さまざまな形で支援活動の輪が広がっているが、この動きはアーティストたちにとっても同じだろう。今回のチャリティコンサートは、それぞれがアーティストとして出来ることを120パーセント出しきった素晴らしい企画だったように思う。

コンサートは前半と後半とに分かれた2部構成。『G線上のアリア』『ラルゴ』(交響曲第9番「新世界」より)といったメジャー曲を編曲したものや、『トッカータとフーガ二短調』『聖母への祈り』といった珠玉のオルガン曲などによってラインナップが組まれ、厚みのある内容だった。また、曲の合間に吉田による曲の解説なども挿しこまれ、オルガンをあまり聴く機会のない人にとっても親しみやすいコンサートだったと思う。
吉田はオルガン奏者として海外でも多く演奏活動を行っているが、プログラムノートに次のようなことを綴っている。「---音楽も、祈り同様に目で見ることができません。しかし、音の響きが重なり、調和となり、心へと響き、心の何かを動かすことができる力を持っていることを、私たちは知っています。そして、パイプオルガンという楽器も、不思議な楽器です。一本のパイプでは一つの音しか出せません。しかし、何百本、何千本、というパイプが集まり、一つの調和のうちに音楽を奏でることができます。一人一人は無力でも、心と力を合わせれば大きなことが動かせる、私たち人間の世界のようではありませんか?」「祈り」をテーマに選曲されたラインナップと、祈りの楽器と呼ばれるオルガンは、荘厳さや永遠を感じさせる独自な音色で会場を祈りのインスタレーションへと変容させていた。

平山は前半で、溝上日出夫によるオルガン曲『雲中供養菩薩』を踊った。この曲は京都の平等院・鳳凰堂に懸けならべられている52体の菩薩像からインスピレーションを得てつくられた曲の1つ。それぞれの菩薩たちは雲に乗った姿で楽器を奏でたり、道具を手にしたりとさまざまにあらわされ、舞い姿の菩薩も6躯含まれている。舞姿の菩薩像はいずれも安定感と躍動感をあわせ持ち、平山の踊りと通底する印象がある。
演奏がはじまってしばらくすると、平山は舞台中央の壁(開閉できるようになっている)をそっと開いて姿をみせた。開いた壁の奥から強い照明が漏れてくるような演出で、雲の切れ間から差し込む天上の光を思わせた。また、扉の奥からなかなか全身を現さない様子から、天岩戸に引きこもったアマテラスが真っ暗だった世界に戻り、再び光が戻ったという伝説を思い起こした。
後半は、オリヴィエ・メシアン作曲による『栄光を受けたからだ~復活したいのちの七つの短い幻影』から抜粋したもので踊った。
舞台左手から、黒い上着としなやかな素材の白のドレス姿で登場した平山は、重厚で荘厳なパイプオルガンに負けない強さを感じさせる印象。この日の平山の踊りは、重心を低く保ちながらもキレのある動きが際立つものだったが、ホールの1階から2階まで縦横無尽に使いこなすさまは、音とともに「祈りの場」として空間を構築していく作業のように思えた(前半はホール1階で、後半は、ホール2階に移動して踊っていた)。
メシアンによるこの曲は、彼の深い信仰心から湧き上がる音色に彩られながらも非常に構築的な構成を持っている(例えば、復活した身体の特性について3つのエチュード(第1、5、6曲)で表現する他、7つの曲を教義に基づいた意味づけで構成している)が、平山の踊りはメシアンの打ち立てた厳かな音の響きに、強い身体としなやかなセンスを持って対峙していたように思う。
被災地の復興を願い、会場に集まった多くの観客の想いを1つにする媒体としての踊りは「アーティストとして、何が出来るのか?」という問いへの、平山からの明快な答えだったように思う。
(2011年7月20日 愛知県芸術劇場コンサートホール)

nagoya1109b02.jpg 撮影/加藤光 nagoya1109b03.jpg 撮影/加藤光 nagoya1109b04.jpg 撮影/加藤光
nagoya1109b05.jpg 撮影/加藤光 nagoya1109b06.jpg 撮影/加藤光 nagoya1109b07.jpg 撮影/加藤光