ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田恵子 text by Keiko Kameda 
[2009.11.10]
From Nagoya -名古屋-

観客のフィードバックを推進する「農民一揆」シリーズ

劇場でダンスや演劇を鑑賞すると、必ずといっていいほど「アンケート」が渡される。しかし、なかなかこのアンケートを回収するのは難しいようだ。
住所や氏名までは何とか書いてもらえても、作品の感想まで記入までしてもらえないことも多い。アーティストにとって、観客が作品をどんな風に感じ たのかはとても気になることだし、今後の作品づくりの参考にもなる。
名古屋を拠点に活動を続けるafterimage(コンテンポラリー・ダンス)が開催 している「農民一揆」というシリーズは「地域ダンス活性化/若手舞踊家支援 プロジェクト」を目的としたショーケース形式のダンス公演だが、作品発表ごとにアンケート記入の時間が設けられている。公演終了後ではあわただしく、例え感じたことや伝えたいことがあっても帰ってしまう観客も多い。このアイデアはなかなかユニークで有効な試みではないだろうか。アンケートを書くための時間が設けられており、筆記具まで渡されてしまえば「じゃあ何か書いてみようか。」という気持になりやすい。「今観たまま、そのまま」の感想を書いて下さいと書かれた説明文を目にすれば、気楽にペンを走らせることも出来そうだ。若手舞踊家の支援を観客からのフィードバックによって推進しようというスタイルは、自らも舞台に立つafterimageらしい発想のように思える。

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振付・演出担当の夜久ゆかりとプロデューサーの小林美穂により2006年に結成されたWater drops Contemporary Dance Company。「今という時代の空気がいっぱいつまった人々の想像力を刺激する作品創りを探究すべく、いつも体で言える事をさがしている。」という彼女たちが今回見せたのは、とあるアパートの1室でくり広げられる出来事。表面的な協調や仲良し気分の奥底にひそむ、意地悪な気分や葛藤がユーモアとシニカルさを交えた視点で描かれていた。
男女2名による静謐なはじまりから、ダイニングルーム、リビングルームへと場面を変えながら気持のよいテンポでシーンが展開していく。ダイニングルームのシーンでは、テーブルとイスを使って1人の女と2人の男が奇妙な追いかけっこをするように踊る。テーブルの上に乗っかったり、下にもぐったり、イスに腰掛けたりするのだが、やがて誰が誰を追いかけているのか、追われているのかわからなくなってしまう。リビングのシーンでは、男2人がソファに腰掛けているが、そのうちに立ってピョンピョン飛び跳ねはじめる。小さい子供がよくそうしている姿を見かけるが、そんな無邪気さは彼らにはなく、その動きはどこか機械的にも見えてくる。やがて数人が加わってソファでのトランポリン遊びは過激になっていくのだが、1人のダンサーが大勢から殴られるという場面で暗転した。今回の作品では、こうした小さな残酷さが何度かあらわれ、印象的だった。
ラストシーンは元気なロックミュージックにのせて8名のダンサーが弾けるようなダンスを見せた。表面的な仲良しムードの中にひそんだ人の素直な気分を鋭く射抜き、それでもハッピーな日々へとつないでいこうとするダイナミズム。それは彼女たちらしい「体で言える事」に変換されて作品へと姿を変えていくのかも知れない。

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鈴村由紀は今年の2月に開催された「アーツチャレンジ~新進アーティストの発見inあいち~」に審査員特別推薦枠で出場したダンサーである。HIP HOP、JAZZ DANCE、カポエイラなど多彩なダンスを吸収した鈴村の身体から紡ぎ出される動きは力強くシャープだが、静けさが漂う。彼女の集中力が高まれば高まるほど、この静けさは純度を増すような気がした。
今回の作品『next to the ___.』も、彼女から湧き出してくる静謐な世界観を味わえるものだった。スポットライトを浴びながらそっと両腕を差し伸べるように掲げるシーンでは、彼女の内面の世界が映し出されているようであり、パソコンのキーボードを叩きながら画面を見て何かを考えているといったようなシーンでは、彼女の日常の一端が映し出されているかのようだった。
「next to the      .」この空白には何が入るのだろう。この続きが見たいと思う作品だった。

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Dance Psyche というカンパニー名は「息を吐く」という語に由来し(「霊魂」や「蝶」という意味を持つらしい)「魂―ゆらめくような核となるエッセンス―のあるダンスを目指す」という相馬秀美の想いから来ている。その想いは独自の美学によって構成されていた。冒頭、暗転の舞台上から「スーーーッ…」「ハアーーーーッ…」と、呼吸の音で闇がやわらかに溶けだしていくシーンは忘れがたい。霊魂、蝶といったキーワードが示すように、この作品の印象はふわりと軽やかだ。布を幾重にも重ねたような衣装や、ダンサーたちの身のこなしも肉体的な重みを忘れさせるように感じた。
この作品のもう1つの特徴として、歌が導入されていたという点も上げられると思う。
中盤からLILYが静かに鈴のような楽器を打ち合わせて音を響かせながら加わった。清浄なその響は心地よいものだったが、その後に続いた歌とダンスのコラボレーションではやや説明的な部分が強くなったのが残念だった。平和や愛と願う気持ちは大切にしたいが、強調が高まると威圧感を与えてしまうときもある。メッセージ性の強い歌を受けて、3人のダンサーがもつれ合うようにコンタクトをするシーンでは、それまでの軽やかさが一転してしまったように感じた。魂の込められた美しく強い歌声は、パートを分けて導入しても良かったのではないだろうか。

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afterimage-cは、afterimageの企画ユニットだそうだ。今回は東京を拠点に活動するキリコラージュ(ストウミキコと外山晴菜による女性名のユニット)を振付家として迎えての作品創作となった。
まず興味深いのは、キリコラージュとのコラボレーションだろう。彼女たちは2008年10月に開催された農民一揆vol.2に出場しているのだが、こうして出演した先で新たな創造の芽が生まれてくることに大きな可能性を感じる。農民一揆というシリーズは「地域ダンス活性化」ということも開催意義の1つであるが、まさにこのコラボレーションがその1つの収穫だといえる。こうした連鎖が次々と(地域を越えて)起きてくれば彼らのめざす地域ダンス活性化は着実に進んでいくだろうと思う。この点に関しては、非常に期待が膨らむ点である。
次に興味をひかれたのは作品のタイトル。「ダンスが見たい!」というシリーズが東京で開催されているが、おそらくこのタイトルはそのパロディにもなっているはずだ。作品の中にさまざまなパロディを組み込むのはafterimage1の得意とするところ。そこにキリコラージュが関わることで、どんな展開を見せるのかが楽しみだった。
冒頭、舞台右手から入場したダンサーたちはカラフルなティシャツ姿。赤や青、オレンジ、ピンクなどビビッドな色合いは普段のafterimageの舞台ではあまり見かけないように思ったが、特徴的なのは背中に付けられた大きな数字。
アンケートに目を落とすと「つきあうなら何番?」と書いてある。舞台では懸命に踊る男たちがいる。どうやら舞台を使って人気投票をしようというらしい。
作品全体の印象としては、afterimageらしいスピード感はキープされつつ日常の中で見かけるような仕草がダンスになっていくような振付が見られた。今回、afterimageの振付家の服部哲郎は海外公演に参加しており不在であるが、そのためか抽象的なシーンはやや少なかったようだ。だが、その分新鮮な印象を受けた。ユーモアを存分に楽しめる作品だったと思う。なおこの作品はさらにヴァージョンアップして、12月5日に「ダンス・アンソロジー」企画、「パフォーミングアーツ・ガーデン」で上演される予定だ。
(2009年10月4日 愛知県芸術劇場小ホール)

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