ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田恵子 text by Keiko Kameda 
[2009.04.10]
From Nagoya -名古屋-

愛知のバレエ界と国際交流をはかるグラン・ドリーム・バレエ・フェスティバルが華々しく開催された

グラン・ドリーム・バレエ・フェス
スプリング・バレエ・フェスティバル

東海テレビが開局50周年記念事業としてグラン・ドリーム・バレエ・フェスを開催した。当テレビ局はこれまでにも(1993年から2005年にかけて)世界バレエ&モダンダンスコンクールを開催するなど、東海地域の才能の育成や国際交流の側面から舞踊芸術の活性化に寄与している。
2009年3月20日から22日の3日間にわたって開催された今回のバレエ・フェスだが、1日目と2日目の公演では地元で活動するバレエ団やバレエスタジオから総勢220名が参加するなど、従来の枠を取り払う形での上演が実現。3日目の最終日は、吉田都、世界バレエ&モダンダンスコンクールの金メダリスト、ヤンヤン・タンらをゲストに迎えての華やかなフィナーレで幕を閉じた。

第1日目の舞台について紹介する。
第1部:創作バレエ『Piccolo Grande』振付:大寺資二(松岡伶子バレエ団)
小さな未来のスター・バレリーナたちの愛らしい饗宴となった作品。振付は大寺資二。大寺は1982年に松岡伶子バレエ団に入団。深川秀夫、石井潤などの振付作品を踊り、1990年には東京新聞主催全国舞踊コンクール、パ・ド・ドゥ部門で第3位に入賞(併せてバレエ奨励賞受賞)、1993年には第8回パチンコ大衆文化賞、1994年には平成5年度名古屋市芸術奨励賞を受賞するなど、地元に根ざして活動を続けるバレエ普及の担い手である。
マンガやテレビで人気を博した『のだめカンタービレ』で有名になったベートーヴェン交響曲第7番を用いて、若々しさあふれる舞台を演出したこの作品では、次々と登場するかわいらしいバレリーナたちに会場がわいた。未熟ながらも懸命に踊る彼・彼女たちからは、舞台にのぞむ心地よい緊張感と真剣さがが伝わり、最良の舞台経験になったであろうことがうかがえる。基本のステップが披露される舞台はシンプルでありながら、バレエの動きにこめられた美しさの原点をみるようだった。一同が集まるグランドフィナーレは、バレエの魅力である華やかさがあふれていた。学年や経験によって分けられたと思われるグループ編成は、彼らの「今、持っている魅力」に応じた振付がなされ、大寺の配慮を感じることもできた。こうしたていねいな配慮が未来にはばたくバレリーナを育てていくことだろう。

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第1部:創作バレエ:『春の祭典』振付:徳山博士

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東海地方で活躍するシニアバレエダンサーが出演した『春の祭典』。振付は徳山博士。徳山は3歳から南条宏(南条流家元)に師事、12歳より越智インターナショナルバレエ団に入団。1987年に徳山ダンシングセンターを設立し、文化庁海外公演事業に出演するなど国内外で活躍。2001年、平成12年度名古屋芸術奨励賞受賞、2005年には地元で開催された愛知万博ウィークでエコテキスタイル・ダンス&ファッションショーの演出・芸術監督を務めるなど多彩な才能を発揮している。
ギリシャ神話をモチーフに展開された徳山の『春の祭典』は、会場となった愛知県芸術劇場の魅力を知り尽くした地元シニアならではの演出が光った。本格的なオペラ上演にも対応したこの劇場は、とても深い奥行きを持った劇空間である。背景画に用いた柱の絵の上部に照明を当て、根元が暗闇に消えるように見せるなどの演出は、劇場の奥が底知れない場所まで通じているような想像をかき立てられる。 
物語は、春の訪れとともに地母神デメテル(川北明美)の娘・ペルセポア(山田繭紀)が冥界の王ハデス(高宮直秀)のもとから帰還することで生命が萌出すシーンを作品化したもの。ストランヴィンスキーの、ときに暴力的とも感じられる個性的な音楽に対して、群舞を整然と構成しながらクールな印象にまとめるセンスが新鮮だった。部分的に真っ赤なドレス姿の神託を告げるピュテスたち(小野由加利・鈴木美帆・内藤昌子・益田恭子)のジャズダンスのような動きを挿入することで、作品全体に生命の源である「血」のイメージを通わせるのにも成功。バレエの華やかさ・様式的な美を損なわず、新しい『春の祭典』をみせてくれた。

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第2部:コンテンポラリーバレエ:『Souvenir De Porto Rico』振付:近江貞実(市川せつ子バレエ団)

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バレエは振付家の意向を反映してさまざまな呼び方をされることがある。一般的に「バレエ」と耳にしてすぐに思い浮かぶのは『白鳥の湖』や『ジゼル』などのクラシックバレエが多いかもしれない。この作品は「コンテンポラリー・バレエ」として紹介されている。振付は近江貞実。近江は幼少のころより両親、越智實、市川せつ子らに師事、チャイコフスキー記念東京バレエ学校入学、パリ・ダンスセンターへ留学するなど国際的な場での研鑽を積む。1985年には愛知県芸術文化選奨文化賞を受賞、現在は日本バレエ協会中部支部運営委員、名古屋洋舞家協議会運営委員などを務める。
冒頭、幕が開くと波の音が流れる。ヤシの木が描かれた舞台背景に、南の海が昼間の陽光から徐々に夕闇へと消えていくという照明演出。まだ日差しの熱さが残る夜の砂浜で陽気なダンスがくりひろげられるという趣向だろうか。
作品を通して、ダンサーたちの衣装はオフホワイトで統一。舞台装置も使わず、照明もごくシンプルな中で展開されるペアや群舞での動きは、バレエの基本的なテクニックを使いつつ、コミカルな動きも採用。近江には「プエルトリコの思い出」「マンチカの調べ」(ゴットシャルク作曲)という音楽の持つ陽気さを、ムーブメントによって際立たせたいとの意図があったのだろうか。ただ、スパイスを効かせるという意味でいえば、中盤で衣装に色を用いるなど変化を組み込むという手法も選択出来たと思う。ラストシーンでは再びヤシの木の背景が戻ると後方の舞台床がせり上がり、ダンサーたちにキラキラと輝く紙片が降り注いだ。客席からも拍手がわきあがり、作品は最高の盛り上がりを見せた。現実の浜辺から夢の中(オフホワイトの世界)、そして再び現実へと戻るという一連の流れは、時系列を描いているようで、不思議と時間を感じさせないものだった。近江が「ストーリーのないコンテンポラリー作品」という所以は、こんなところにあるのかもしれない。

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第2部:創作バレエ:創作バレエ:『四面カルメン』振付:望月則彦(谷桃子バレエ団)
中部のバレエシーンを彩り、支えてきたプリマバレリーナたちが競演した作品。メリメ原作の『カルメン』を心の内面から鋭く見つめなおした心理描写が、彼女たちから新たな魅力を引き出していた。振付は望月則彦。日本バレエ協会「振付賞」を二年連続で受賞した後、文化庁派遣芸術家在外研修員として1年間ニューヨークに留学した経験を持つ望月は、国際的な舞台で魅力ある振付を数多く手がける。2000年には橘秋子賞・特別賞を受賞、2005年には韓国天安市第一回ダンスフェスティバルに招待を受け創作作品を発表するなど振付家としての評価を得る一方で、大阪芸術大学大学院で教授職、京都府立府民ホール・アルティの舞踊部門・芸術監督を務めている。
冒頭シーン、ワディム・ソロマハ(サンフランシスコ・バレエ・ゲストプリンシパル/越智インターナショナルバレエ・プリンシパル)が暗い舞台の中央にうなだれて立っている。ビゼー作曲のカルメンが流れるが、それは速い調子に編集され滑稽な印象さえ与えるものだった。主人公の男(ドン・ホセだろうか?)はこの音が流れているときには渦巻く激情に翻弄されるような動きをし、音が止むと重く沈痛な面持ちでうなだれるというシーンを幾度かくり返した。鮮やかな照明と暗い舞台という対比は、男の日常での姿と、人には見えない心の奥底での葛藤を描いていたのだろう。
姿を変えて次々と現れる複数のカルメン(小川典子・佐々智恵子バレエ団/越智久美子・越智インターナショナルバレエ/後藤千花・ステップ・ワークスバレエ/鳥居ゆき子・鳥居ゆき子バレエスタジオ/早川麻美・早川麻美バレエスタジオ/林葉子・林葉子バレエアカデミー)は、男の視線から見ているカルメンであり、走馬灯のようにクルクルと回転しながらすり抜けていく彼女たちの動きからは心情がカットされている。恐らく、男の目には彼女たちの想いは理解出来ない不可解なものとして映っているのだろう。物語をこえて、男と女の恋のすれ違いを端的に感じさせるシーンだ。
カルメンは、1845年にメリメによって発表された小説のタイトルと作品に登場する女性の名前。男心を虜にする美貌と、恋に対するストレートな情熱を持ちながら次々と心変わりしていく生き方は、彼女のためにすべてを捨てた男の嫉妬によって刺殺されるという悲劇的な最期を迎える。この作品では、カルメンという女性に対する男のさまざまな想いが交錯し、揺れ動き、叶わぬ恋に絶望する心情が描かれていく。カルメンの中にある美貌・情熱・甘美さや残酷さといった魅力や、カルメンに対する男の恋慕や嫉妬などといった心模様を個性の違うプリマバレリーナたちを起用することで表現した手法は、このフェスティバルならではの興味深い。劇的な動きや派手な動きを抑えながら、より内面的な心理描写を泥臭くならずに描けるのは、様式的なメソッドが確立されたバレエの大きな強みによるだろう。
ラストシーンで刺殺され、男の腕の中で息絶えるカルメンにはワディムとペアを組む越智久美子が演じたが、普段の正確で曇りのない演技とは異なる、にじみ出るような痛みが表現されていたと思う。今後はこうした創作バレエ作品でも彼女を見てみたい。

 バレエが盛んな中部地域にあって、こうした横断的な交流が舞台によって実現していることは喜ばしいことだ。この舞台に参加したそれぞれが新たな刺激を得て、さらに自分たちのバレエを磨いていく材料としていただきたい。今後は参加地域を拡大し、日本全体、世界全体というように交流の輪が広がっていけばすばらしいと思う。今回のフェスティバルが、より大きな視点でバレエを考えていく好機になってほしいと願っている。
(2009年3月20日 愛知県芸術劇場大ホール)

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