ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.11.10]
From Nagoya -名古屋-

豊田シティバレエ団のグランド・バレエ真珠『乙姫伝説』~うらしま

 豊田シティバレエ団はバレエ団の創立20周年を記念して、誰もが知っている室町時代のお伽草子「浦島太郎」のバレエ化に取り組んだ。浦島太郎は、古典バレエの題材に一般的にみられるメルヘンと同様の構造をもったフェアリー・テイラー。だから単純なストーリーでありながら、多義的な読み替えを可能とするこのお伽噺は、意外にも古典バレエの形式に合った題材となった。
 構成・演出は諏訪等、振付はI.ユスポフとO.ベスメルティニ、音楽はタシケントのフェリクス・ヤノフスキー。衣裳も日本を代表するデザイナーの桜井久美と、諏訪の新作への力の入れようがわかる。主役の太郎には、越智インターナショナルバレエ団の越智友則がゲスト出演し、太郎の恋人のはなには、バレエ団のプリマの工藤彩奈、乙姫には新人の林菜津紀が扮し、いずれも役どころをしっかりと押さえて好演。
 
 中央に座って寄り添う恋人たち2人の仲むつまじいプロローグから始まる。日本のお伽噺にしっくりと馴染む、日本人ダンサーの越智友則の太郎と工藤彩奈のはな。繊細なやり取りの中に、相思相愛でありながらも恥らう2人の感情が伝わってくるようだ。第一幕、海の見える海岸では、村人たちが真珠採りや網の補修を行っている。女性のダンサーたちが網をもったアンサンブルを、ウズベキスタン・ボリショイ・バレエ団の男性ダンサーたちが、長い杖を活かした豪快な踊りを見せる。  
 女性のアンサンブルにはヴァイオリンの調べが、男性には打楽器のアンサンブルが鳴り響き、オリジナルの音楽がダンスにぴったりと呼応。亀をいじめる三郎役のアンドレイは、個性的な演技で存在感十分。ここで亀は乙姫に変身、乙姫によって太郎は竜宮城に案内される。乙姫役の林菜津紀が柔軟性に富んだ伸びやかな踊りで太郎を魅了していく。
 第二幕一場、竜宮城に行く途中で様々な海の生き物たちと出会う。イソギンチャクを連想させる全身グレーのタイツに手に赤い手袋をしたダンサーたちが、太郎を取り囲む。やがて乙姫とパールでできた椅子に座ると、鯛や貝など紫や緑、青といった色鮮やかな衣裳を纏ったモンスターや生き物たちの優美な宴。バレエの余興、ディベルティスマンの場面だ。やがて地上の生活を忘れてしまう太郎。そこにはなの幻影が現れる。はなは黒子にリフトされて、暗闇の中に浮かんでは消える。幻影を追いかける太郎。太郎を挟んだ女性ふたりのパ・ド・ドロワは、可憐で一途なはな、太郎を魅了する乙姫、その2人の間で揺れ動くが、やはりはなを忘れられない太郎、それぞれの情感漂う演技と、それを裏付ける安定感のあるテクニックが印象的だ。クラシカルな音楽の中に、「さくらさくら」などの日本歌曲の旋律が浮かび上がる。どの場面でも舞台を印象づける音楽だが、踊り以上に状況を伝えすぎない方が、踊りそのものを楽しめるような気もする。
 第二場、地上に戻った太郎を待っていたのは、400年後の超未来。スクリーンには、現代の人ごみの映像が投影され、未来の風景としてトヨタ自動車の一人乗り電気自動車アイユニットが登場する。スーツ姿の男女がモダン風の踊りを踊りながら忙しく動き回る。OL風の女性たちの髪は一様に紫のボブカット。そこで太郎がもらった玉手箱を開けると、400年前の世界が蘇る。今度は、はなを巡った太郎と三郎の戦い。もちろん、太郎が勝利を得、2人の結婚を祝う。最後に出演者全員が床に置いた仮面をつけて観客席を見つめる。諏訪はこの作品で、幸せは身近にあるということを伝えたかったという。
 バレエ団のダンサーたちは、新作のための数々の要求にもしっかりと応え、着実に成長の成果を見せた。越智友則は、短いリハーサル期間に役柄を自分のものとし、ゲスト主演の大役を見事に果たした。
 古典作品の上演ばかりが全国的に目につくバレエ界の現状において、お伽噺を題材に、現代的な演出や工夫を加えて、新作創作に取り組んだバレエ団の試みに敬意を表したい。さらに、現代的な表現として未来カーを登場させるアイデアに一歩加えて、トヨタ自動車がアイユニットに込めた環境問題への現代的なメッセージなども織り込むと、今現在、新しい作品に取り組んだ意図さらに深まるように感じられた。
(2008年10月24日 中京大学文化市民会館オーロラホール)