ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.04.10]
From Nagoya -名古屋-

「Dance Juku シアター」公演と『農民一揆』VOL.1

 今月紹介する2つの公演は、いずれも今日あるべきダンスの本質に立ち向かおうという宣言の元に上演されたスタジオ・パフォーマンスだ。公演というより、「実験型プロジェクト」と呼んだほうがよいかもしれない。「ダンス塾」「農民一揆」と名づけられたそれぞれの公演のタイトルに、すでに挑戦的かつ継続への強い意思が感じられるからだ。

 3月9日に開催された「Dance Juku シアター」は、愛知県で63年前にモダンダンス・スタジオを設立し、東海地方の現代舞踊の黎明期を作り上げた奥田敏子モダンダンススタジオ(現在改名してオクダ・モダンダンス・クラスター)の倉知八洲土が発起人となって立ち上げられた。日本におけるバレエとモダンダンスは、西洋とは全く異なった歴史をもっており、ほぼ同時期に始まったとされているが、現在ではすっかり認知されるようになった「バレエ」に比べて、未だ「モダンダンス」の存在感はかなり薄いことは否めないだろう。倉知が呼びかけた舞踊家たちは、自らの経験に胡坐をかくことなく、今日のモダンダンスあるいはコンテンポラリー・ダンスの動きの追求に挑んだ挑戦者たちなのだろう。
 実はこの公演、12月に一度開催されており、今回はそこで提出された観客等の意見を踏まえての改訂版再演であった。今回の作品は上演順に、山本祐実『KaKure-m-bo』、篠田侑子『潜む』、夜久ゆかり『existence』、杉江良子『海ゆるやかに空ニナル--Kanaria Song--』、倉知可英『Untitled』の5作品が上演された。
 前回はソロで挑戦した山本祐実は、今回は豊島陽子という共演者を得て、同名のデュオを発表。スタジオ・パフォーマンスらしく、バーや壁なども利用して、2人の微妙な関係を描く中から、自分の在り様を探求している。篠田侑子は、『潜む』という言葉に徹底的にこだわったという。篠田志緒が着物姿で上手奥から静かに登場するや、帯に絡まった篠田の身体の先を、時を表現しているという黒子の坂田祥子が横切る。冒頭の静の動きと後半の動の対比が鮮やかだ。
 夜久ゆかりの『existence』には、ジャズダンスの小林美穂が共演。軽妙な音楽の中、ゴムを巻きつけた2人が勢いよく登場。ゴムという枠を設け、その中でコンタクトを中心に様々な動きを試みることで、2人の立ち位置や関係を明確にしようとしているかのようだ。杉江良子は自作自演で心の葛藤を表現。「歌を忘れたカナリア」の音楽に自らのテーマを重ね合わせたという静謐なソロダンスをみせた。最後の倉知可英は、8名のダンサーを振付けた。スタジオを熟知した倉知らしく、上手上方の階段や壁や床の平面も極めて効果的に使用しながら、観客に飲み物やプレゼントを渡し、最後は舞台まで連れ出してしまうことによって、客席とステージの仕切りをはずすことを試みた。60年代のポストモダンダンスの試みを見ているような踊り手たちのエネルギーを感じる作品だった。
 終演後のアフタートークでは、作り手のコンセプトや観客との意見交換の時間が設けられたが、観客の感想に比べて、創り手の言葉が少なかったように思う。創造者である以上、踊ることだけではなく、話すこと、聞くことにも意識的であって欲しいと思う。
『KaKure-m-bo』振付:山本祐実 出演:豊島陽子・山本祐実
『潜む』振付:篠田侑子 出演:篠田志緒・黒子の坂田祥子
『existence』振付:夜久ゆかり 出演:夜久ゆかり・小林美穂
『海ゆるやかに空ニナル--Kanaria Song--』振付・出演:杉江良子
倉知可英『Untitled』振付:倉知可英 出演:倉知可英ほか7名
(2008年03月9日 OMDAC studio)

メケメケ
 一方、「『農民一揆』VOL.1」の方は、振付者が20代限定の「若手の創造」が特に強調されたパフォーマンスだ。ヒップ・ホップやコンテンポラリーなど、ダンスのジャンルも様々で、今日の若者のダンス界の状況が反映されているように感じた。
 まず、メケメケによる『思い出』は、石黒裕紀、江上大介の男性ユニットによる作品。「思い出」をテーマに、ソロとデュオによる構成で自らの個人的な体験を作品化。ぽろっくすは、スリースタイルの男女、角谷敏行と服部みきによるデュオ。何気ないストーリーを軸に、ブレイク、ハウス、ヒップ・ホップなど様々なスタイルのダンスに加え、釣りなどのマイム的な動きや、ラストではラジオ体操までも織り込んで『真剣笑舞 ~とかみたいなね~』を創作。ダンス表現の幅広さを見せることに成功していた。今回の『農民一揆』を企画したアフターイマージュからは、代表の服部哲郎が振付、プロデュースのトリイユウスケが演出、メンバーの釈迦が踊るafterimage-c『demonstration』を発表。下手に置かれたハンガーラックに吊り下げられているコートやジャケットを脱ぎ着することによって変化する空間の中、釈迦の緊張感のあるソロが紡ぎだされていく。選曲、構成、振付、身体がギリギリのバランスで保たれているスリリングな作品となった。五郎と敏子による『一日一膳。』は、学校のモダンダンス部出身の松村沙緒里と鈴木香緒里によるコメディタッチのダンス。舞台中央にはちゃぶ台と、時おり登場する巨大な犬のぬいぐるみ。ホワ~ンとした昭和の懐かしい時代を思い出させる夫婦がちゃぶ台のある風景を軽妙に演じ踊る。笑いのつぼも心得ており、緩急をつけた構成も上手い。
 最後は、ストリートダンサーのなっつによる『ネコまっしぐら☆春雨ヌードル』。なっつはひとり、猫のように壁をつたって登場。ヒップ・ホップをベースにしながらも、それにこだわることなくひとつずつ丁寧に動きを探求し、ダンスを連ねていく。ヒップ・ホップの軽妙さや楽しさに相反するように、そこにはなっつの気だるく不思議な空気が漂いはじめた。
 全体として、あと一歩を踏み込むことに躊躇しているような作品が多いような印象を受けた。もっと思い切った開きなおりも必要かもしれない。この公演でも、作品が終了する毎に、観客が感想を記入する時間が設けられていた。それは「観られる」こと、つまり踊ることだけでなく、「観る側」を、しいては「表現」することを強く意識して欲しいという企画趣旨に基づくものだ。

ポロックスafterimage-c
五郎と敏子なっつ
『思い出』振付・出演:メケメケ
『真剣笑舞 ~とかみたいなね~』振付・出演:ぽろっくす
『一日一膳。』振付・出演:五郎と敏子
『demonstration』afterimage-c 振付:服部哲郎 出演:釈迦
(2007年3月22日 愛知県芸術劇場大リハーサル室)

 創作するものにとって「表現」する場の獲得は何よりも重要である。そしてそれをさらに耕す「場」としていくために、いずれの公演も進化しながら継続してくれることを期待したい。