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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2015.12.10]

スターリング・ヒルティンの素敵な金平糖の精、子供たちも大活躍のバランシン版『くるみ割り人形』

NEW YOPK CITY BALLET ニューヨーク・シティー・バレエ
“George Balanchine’s The Nutcracker”
『くるみ割り人形』ジョージ・バランシン:振付

11月27日から1月3日まで、毎年冬季恒例の、ニューヨーク・シティ・バレエのジョージ・バランシン版『くるみ割り人形』の公演が開催されています。

ny1512b_01.jpg ローレン・ラヴェット Photo/Paul Kolnik

私は今年初日の11月27日に観劇しました。劇場は満員でした。この演目は、クリスマス前後のニューヨークの冬の風物詩となっていて、地元の子供連れの家族も大勢観に来ています。私はニューヨークで、毎年のように何度もこの演目を観劇していますが、やはり毎回観る度に感動しますし、素晴らしい作品とキャストで、音楽は録音ではなくてオーケストラの生演奏なので、さらに良いです。生演奏の分厚い音楽とバレエダンサーたちの踊り、演技と、ニューヨーク・シティ・バレエ独特の巨大なクリスマスツリーの装置など豪華な舞台セットが相まって、完成度の高い総合芸術となっています。毎年、ニューヨークでこの上演を楽しみにしている人々が多いのもうなずけます。
音楽はチャイコフスキー作曲、演奏はニューヨーク・シティ・バレエ・オーケストラ、芸術監督(バレエマスター・イン・チーフ)はピーター・マーティンス。休憩をはさみ全2幕で構成されています。
主なキャストを務めるプリンシパルたちは、シュガープラム・フェアリー(金平糖の精)のスターリング・ヒルティン、その付き添いの男性のアンドリュー・ヴィエット、デュードロップ(露滴。花のワルツの主役)のサラ・メアンズ、シュタールバウム家の主人のアスク・ラ・コール、キャンディー・ケーンズ(トレパック)の主役ダニエル・ウルブリヒト、マジパン・シュパーデス(葦笛)の主役ローレン・ラヴェットです。この演目では普段より多い6名ものプリンシパルが出演しているので、さらに見応えがあって豪華です。
バランシン版の『くるみ割り人形』でも、子供たちが多く出演します。主な子役のマリーはナタリー・グラッシー、フリッツはアーロン・プロウス、くるみ割り人形(ドロッセルマイヤー老人の甥)はF・ヘンリー・ベルリンです。

ny1512b_02.jpg Photo/Paul Kolnik

第一幕で出番が多いドロッセルマイヤー老人は、ゲスト・アーティストのロバート・ラ・フォスが務めています。ラ・フォスは元ABTプリンシパル、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルです。ドロッセルマイヤー老人の役ではダンスの振付はほとんど無くて演劇だけなのですが、その演技が完璧。ドロッセルマイヤーになりきっていました。ラ・フォスはブロードウェイ・ミュージカル作品のボブ・フォッシーの “Dancin’ “とジェローム・ロビンズの”Jerome Robbins’ Broadway”で、トニー賞のベスト・アクターにノミネートされています。そして現在は、ニューヨークのAbron Arts Centerの教育監督に就任しています。
ドロッセルマイヤー老人までが、そのような、考えられる中での最高のキャストなので、隅々まで作品作りのこだわりが感じられ、最大限に神経が行き届いています。
パーティーの後、クリスマスツリーがどんどん巨大化して天井を越えていくシーンは、ニューヨーク・シティ・バレエならではの他には無い規模の巨大なクリスマスツリーとして話題になっていて、名物として世界で有名なので、客席のあちこちから“オーッ”というような感嘆の声がすごく大きくどよめいていました。このツリーを楽しみにして観に来ている方々が多い様子です。
第一幕の後半、雪片のワルツは、毎回ながら音楽と相乗効果で、美しくてすばらしかったです。一番盛り上がる有名なシーンです。舞台を激しい吹雪が舞い、その吹雪の中で淡いブルーのチュチュを着たコール・ド・バレエの雪片たちが大勢踊り、迫力もあって幻想的です。ニューヨーク・シティ・バレエの雪片たちは、両手に扇子状に開いた大き目の白いボンボンを持って踊ります。
ねずみを退治した後、マリーとくるみ割り人形の王子(少年)は、手をとり連れ立って、この吹雪の中を歩いていきます。このシーン幻想的で楽しく美しく、ハッピーエンドの雰囲気で演出されていましたから、観る人たちが幸せな気持ちになれます。

休憩の時には、2階のロビーの端で、雪の精のダンサーと記念撮影のサービスをしていて、行列が絶えず、多くの家族連れ、観光客、小さな子供たちが一緒に撮影してもらっていました。バレエに憧れている子供たちにとっては忘れられない思い出になることでしょう。大き目の写真を額付きでその場でもらえるサービス(28ドル)です。

ny1512b_03.jpg Photo/Paul Kolnik ny1512b_05.jpg Photo/Paul Kolnik

第二幕はお菓子の国のシーンです。
シュガープラム・フェアリーのヒルティンの踊りは、手先足先全ての神経に気が行き届いていて、繊細な動きで優雅で、とりわけ丁寧でした。軸も安定していて、余裕が感じられました。
コーヒー(アラビアの踊り)はアシュレイ・ララシーのソロでした。足が長くとてもスタイルが良くて、カッコいいです。床で180度開脚したまま片足をヒザから上へ上げて、柔軟性にも余裕がありました。スローテンポで見所がたくさんあり、すごい拍手でした。
キャンディー・ケーンズ(トレパック)のウルブリヒトは、直径1mくらいのフラフープを持って踊りました。フラフープをなわとびのように使い、最後の方には2重とびを何度かやり、すごい拍手でした。周りでは8人の子供たちが踊っていました。
マジパン・シュパーデス(葦笛)のラヴェットは、軽やかな踊りで、明るい小鳥ように動き、さすがに上手でした。
マザージンジャーとそのポリシネルたち(ジゴーニュ小母さんと道化たち)は、建築物のような大きなスカートを着たジゴーニュ小母さんがよちよち横歩きしてきて、そのスカートの中から大勢の子供たちがでてくる、笑いを誘うシーンです。観客たちは大笑いをして受けていました。作品全体の中で、ここでスパイスが利いています。
デュードロップ(露滴。花のワルツ)のメアンズは、メリハリがある動きを特徴としていて、テキパキとして力強い踊りでした。その周りには濃くて鮮やかなピンク一色の長いすその3段のパニエを着たコールドバレエが大勢でてきて、群舞を踊り、迫力がありました。
シュガープラム・フェアリーのヒルティン、その付き添いの男性のヴィエットのパ・ド・ドゥはやはり、ヒルティンの踊りは特に繊細で丁寧なので、柔らかく優しい性格のフェアリーらしさが出ていて、イメージとピッタリ合っていました。優雅でした。ヒルティンがアラベスクしてポーズを固定したままで、ヴィエットがそれを横にひっぱってずらして動かすところは見事でした。軸が安定したままビクとも動かなかったです。最後、ヒルティンをヴィエットが逆さまに抱きかかえて止まり、すごい拍手が起こりました。
ヴィエットのソロはジャンプと回転が多いですが、身体の重心を上に強く引き上げてキープしたままの状態がダンサーの中でも抜きん出て素晴らしいため、そのせいで彼がどんなに高くジャンプしても床に着地する時に音が全くしなかったのです。普通は、少しは着地時にドンという音がするものなのですが、驚きました。身のこなしが、鳥のように軽やかでした。
フィナーレでは全員が次々に登場し、ワルツに乗って踊り、華やかでした。最後は全員でダブル・シャンディマンを2回やってポーズを決めて、終わりました。
今回も、豪華絢爛で素晴らしい公演でした。冬らしいシーンが満載で、クリスマスの気分も味わえて、大きな劇場ならではの効果でおとぎ話の世界へ行ってきたような気分が体験できます。
( 2015年11月27日夜 リンカーンセンター、David H. Koch Theaterに)

ny1512b_04.jpg Photo/Paul Kolnik