ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2015.11.10]

闇の中に白く浮かび上がる身体が描く、素晴らしい劇的美術、山海塾の『歴史いぜんの記憶―うむすな』

山海塾
『歴史いぜんの記憶―うむすな』天児牛大:演出・振付・デザイン

山海塾は、10月1日から11月9日まで、北米ツアーを行いました。10月28日から31日までBAMで『歴史いぜんの記憶―うむすな』の公演を行いました。2012年フランス初演の作品です。

ny1511c_03.jpg photo/Jack Vartoogian(すべて)

山海塾は、1975年に主宰の天児牛大が創立した舞踏カンパニーで、演出・振付、空間や衣裳のデザインも含めて、総合的に天児が創作しています。1982年から、パリ市立劇場(THEATRE DE LA VILLE, PARIS)を創作活動の拠点にしています。この劇場と共同プロデュースにより、約2年に1作のペースで新作を発表し続けてきて、30年以上続いています。世界中で高い評価を受け続けていて45ヵ国700ヵ所以上を世界ツアーで周っています。
特にダンス芸術に厳しい審美眼を持つフランスで認められており、日本政府からも紫綬褒章が贈られています。暗黒舞踏を日本で天児牛大が取り組み始めた当時は、人にどう見られるかとかよりも自分の中から湧き出てくる普遍的なものをただ一途に表現していたのでしょうし、ダンス界では決してメインストリームではなかっただろうと思います。山海塾の、その独自のダンス表現と舞台芸術は、他の国や人々が真似できない普遍性を持つものとして歴史に残りました。

出演者の舞踏手は全員男性で、スキンヘッド、上半身も裸のことが多く、全身白塗りの化粧です。衣装は白を基調としていて、長いひきずるようなスカートか袴のようなものをはいていることが多いです。今回は、揺れるタイプの球状のイヤリングを男性ダンサーたちがつけていました。動くたびにそれが揺れていました。そのため、衣装やイヤリング、化粧などと、欧米人に比べると華奢な日本人ダンサーたちの身体が効果的に使われていて、性別不詳、中性的、年齢不詳で老人なのか子供なのか不明、生きている人間にも見えるし幽霊にも見えるという、不思議な雰囲気になっています。日本人の華奢な身体をとても生かしていて、ピッタリ合っているダンスで、これは欧米人にはなかなか真似できないものです。
顔もほとんど無表情なので、感情表現を抑えられているところがかえって観客の想像をふくらませます。美しさと醜さ、明暗、闇と光、生死、善悪など、両極端の要素が同時に表現されているような印象です。舞台を観る者の感情、五感をかきまわして揺さぶります。
山海塾はフランスだけではなく、北米、ニューヨークでも大人気ですが、上記のような、醸し出す雰囲気全体に惹きつけられるからでしょう。

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舞台背景は、後方の壁が真っ黒で、舞台上のセットもミニマムで欧米人の想像する禅のイメージです。上から大きな砂時計のように、細い砂が細く落とし続けられていました。舞台全体が刻々と時を刻んでいる砂時計に包まれているようにも観えて、生まれては死に、死んでは生まれを繰り返している生き物たち、生を受けてもエントロピーの法則は誰もまぬがれないのでやがて死に向かっていき肉体が朽ちてしまうという事実を、身体だけで表現しているようにも観えました。踊りだけではなく、特に演出も見事でした。
照明は全体を通じて暗く、ダンサーたちに薄い光でスポットライトを当てたようなライティングです。深い闇の中に、全身白塗りのダンサーたちが静々とうごめいて浮かび上がります。それは視覚的には明暗の対比が強いため、闇の中に白く浮かび上がっているダンサーたちが際立ち、まるで中世の明暗法で描かれた絵画(ベラスケスなど)のようで、劇的な美術です。
踊りは激しい動きはほとんどなく、静かで、すごくゆっくりと、重心をほとんど固定したままで動き回ったり、寝そべったり床で表現していました。あまり動かないところもあり植物的でした。
このような、静々としたゆっくりな動きばかり続ける踊りなのに、出演ダンサーたちは全員、身体が引き締まっていたので驚きました。ダンサーとしてはかなり年配の方々のはずなのに、一人も身体がたるんでいる人がいないのです。それだけ、この踊りは一見、簡単そうに見えますが、長時間ゆっくり動き続けることはきつい動作なのだなと再確認しました。
舞台が終わり、照明が消えた後の挨拶も、さきほどまでの舞台が続いているような感じで、お辞儀一つ一つまで、何から何までずっと演じ続けていました。観客は総立ちで、すごい拍手に包まれました。拍手は鳴りやみませんでした。
(2015年10月28日夜 BAMのHaward Gilman Opera House)

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ny1511c_08.jpg photo/Jack Vartoogian(すべて)